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躍進するOTA(オンライン・トラベル・エージェント)と「旅館」の相性は?③

2015.08.26

OTAにはメリットとデメリットが存在する

一方で、OTAの台頭について、旅館サイドにリスクが増大すると指摘する声もある。ホテル・旅館向けのインバウンドコンサルタントとして活躍されている株式会社インバウンドにっぽんの代表、小野秀一郎氏だ。
地方の旅館からは、インバウンドについての信頼が厚く、相談をうけることも多い。最近はOTAについて議題にあがることも。
普及が伸びている現状について、問題点についてうかがった。

「やはり、客単価の低下、稼働率の低下、平日の対策に旅館は悩んでいます。
背景には、少子高齢化、デフレの長期化、修学旅行や合宿の低迷があります。
そこで外国人向けOTAの導入は、現状の課題に対して手っ取り早く集客が見込めるのです。」

もちろんOTAの導入についてメリットも多いという。

1つは、初期費用がかからないことだ。
OTAのプラットフォームに掲載するために、旅館ホテルはルーム在庫と紹介文と写真を提供するだけ。デザインやSEO対策も自前でやる必要がない。発生ベースのコミッションの支払いのみで、費用的にリスクはない。

2つ目は認知度が高まること。
OTAの紹介により、世界中の旅行者が知る機会を得る。たとえ予約成立に至らなくても、次に行くときは、ここに泊まろうと覚えてもらえるなど、潜在需要を押し上げる。複数のOTAに登録していると認知度のほかに信頼度も増す場合も。

3つ目は、多言語対応が即実現。
自社サイトだと多言語に対応しようとするとページ制作や翻訳の費用がかかる。OTAは翻訳のサポートがある。30か国(OTAにより異なり、Booking.comは 40 言語)の言語圏にリーチするため、思いもしないところからの申し込みがある。例えば北米など英語圏からの集客を期待したつもりが南米から予約が入ったりする。まさにワールドワイドだ。

4つ目は、海外のOTAに予約ページがあると海外のGoogleの自然検索で上位表示されることも期待できる。さらに最近では地元の旅館組合や観光協会、温泉組合のwebページにリンクが貼られることもあり、販売チャンネルが増す。

一方、デメリットもあると指摘する。

1つ目は、価格競争になる危険だ。
OTAは比較検討サイトである。だから競合他社の加盟が増えると、当然、価格競争に巻き込まれるリスクがある。レビューを増やしたい旅館ホテルでは宿泊者をできるだけ多く獲得しようと価格を安いほうへ動かしがちになる。
もっとも現在は、宿泊施設の供給不足から、このリスクは目立たないが、今後、供給過剰や需要減退になると価格競争に陥るだろう。

2つ目は、コミッションを払い続ける。
初期投資がかからないメリットはあるものの、ブッキングによりコミッションを払い続けなければならない。予約件数が増えるとグロスでの支払い額が肥大化し、広告、宣伝などの販促を行った費用よりも大きくなることがある。
予約が多い大規模ホテルでは、月間あたりに数十万円になる場合も。
もし価格競争で値下げした場合、稼働率はあがっても利益率が低い。財務状況と照らし合わせて戦略を練る必要がある。

3つ目は、特に温泉旅館やリゾートホテルに言えるが、外国人にその良さを伝えきれない。
海外の各OTAは管理の効率化を図るため一定の様式の中で宿泊施設を掲載している。
特に旅館はホテルと違って、特徴や品格など細かいこだわりがあり、定型の文面では伝えきれない価値がある。
その対策として自社の外国語サイトの充実が必要だ。

4つ目は、OTAの担当スタッフの問題だ。
外国人向けにいかに対応するか海外経験のあるOTAのスタッフが相談にのり、助かったと旅館からは好意的な声がある。しかし、OTAは自社のことをよく分かってもらうまでに異動・離職のため担当者が変わってしまうことも多いという現場の意見も。

5つ目は、部屋を何者かに仮で押さえられてしまうリスクだ。
キャンセルを宿泊直前まで無料としているOTAで起こりがちだという。
例えばアジアの中小の旅行代理店の担当者名で、OTA経由で仮予約が入り、部屋を押さえられてしまい、繁忙期にもかかわらず直前に10ルーム以上をまとめてキャンセルされた、というケースもあった。これではビジネスチャンスを逸してしまうので、あるOTAの利用をやめたという話もある。

小野氏がすすめるOTAとの賢い付き合い方はこれだ

そこで小野氏がすすめるOTAとの付き合い方としては、ほどほどの距離感を持ち、リスクを分散化することだという。
一つのOTAからの予約に頼り過ぎるのは、危険。

上述のようにルームを押さえるのにただ利用されてしまうケースもあり、またサーバーがダウンしてしまうと予約が止まってしまう可能性も否定できない。いくつかのOTAに登録すれば、リスク分散をしながら異なる客層をも獲得できる。
例えばホステルワールドなどバックパッカー向けのサイトは、最近開業ラッシュが続く1泊3000円前後の相部屋ゲストハウスだけでなく、素泊まりで1名7,000円~8,000円までの小さな旅館やホテルにも向いている。基本的にレジャー専用サイトなので旅好きの客層が多く、大らかで対応しやすいとの情報もよく聞く。
また今後は自社の外国語サイトからの取り込みも、一定数は確保しておきたい。
さらに現地の旅行会社や国内市場などいくつかのリスク回避のためのパイプは持っておくべきだ。

海外からのOTAを利用した旅館に対するニーズは今後ますます高くなる可能性がある。先述のメリット、デメリットをふまえて上手い付き合い方を自社なりに考えて、集客に活用してもらいたいと小野氏。

デメリットはあるもののOTAと旅館の相性は悪くはない。良くするための方法を考えながら進めれば、心強いツールになることは間違いないようだ。今後、登録件数が増えていくことを願う。

Text:此松武彦