withコロナ時代の観光戦略 vol.4 オーバーツーリズム:観光に消費されないまちのつくり方
2020.08.05
withコロナで三密回避が叫ばれるなか、観光客が集中する人気観光地ではオーバーツーリズムへの対応も求められている。今回はゲストに、株式会社日本総合研究所主任研究員の高坂晶子氏をお招きし、オーバーツーリズムの事例や混雑緩和策について話を伺った。最近ではSNSをきっかけに突如観光客が集中する例も多発している。長年にわたり国内外のオーバーツーリズムを調査・研究してきた高坂氏からは、危機管理の一環として、今やどの地域でも準備しておくべき時期に来たとして、具体的かつ早急な対策を教えていただいた。
オーバーツーリズムの定義とは
国連世界観光機関(UNWTO) は「オーバーツーリズム(観光公害)とは、観光資源の環境容量に対する過剰利用とその結果生じる問題事象」と定義している。国連では1970年代から持続可能な地球環境を掲げてきたが、最近では自然環境や天然資源だけでなく、観光地に住む人の社会生活に及ぼす悪影響も含めてオーバーツーリズムとして捉えられている。
発生のタイプは人気観光拠点型、リゾート型、希少資源型の3つ
オーバーツーリズムが問題となっている観光地は世界中に点在しており、発生地のタイプは、人気観光拠点型、リゾート型、希少資源型の3つに大別できるが、特徴が複合的に重なり合って存在する観光地もあることを前提に聞いてほしいと高坂氏より最初に説明があった。
人気観光拠点型とはバルセロナやベニス、京都のような宿泊施設や交通網などインフラも整備されている場所で、アクセスが便利なぶん、総量規制が難しい観光地だ。
リゾート型はモルディブ、ツェルマットに代表されるようなアクセスが限られているため総量規制はできるが、そもそもの面積が狭く混雑しやすい。
希少資源型は富士山、ヒマラヤ、ガラパゴスのような資源が希少で、毀損された場合の修復が難しいため、たとえ少数の観光客であっても慎重な人数制限か行動管理が必要とされるケースが多い。
混雑緩和には分散、金銭的インセンティブ、規制の3つが効果あり
オーバーツーリズムの対応の具体的手法として、高坂氏は「分散」「金銭的インセンティブ」「規制」の3つを挙げる。
まず分散には季節的、空間的、時間的の3つの観点からアプローチできる。観光客が集中するハイシーズンを避けてもらうために、オフシーズン限定で貴重な観光資源を公開するなどの季節的分散、交通フリーパスなどを提供し、周辺観光地へ誘導する空間的分散、早朝・夜間に楽しめるコンテンツ作りなど時間的に分散させる方法がある。
金銭的インセンティブは、まず直接的手法として、イベントの参加費、入山料などを設定することで観光客の行動を変えさせる方法がある。間接的手法としては、高級ホテル・リゾート等を誘致してある程度限られた客層を受け入れるという方法だ。
規制は、受け入れ人数を制限したり、自然保護のため入域前のシャワーや靴底の洗浄などを義務付けるなど、直接的な行動を求めるものだ。しかし、厳しい規制は観光客の心象を害するリスクもあり、「観光資源保護のために必要な規制であると丁寧な説明を行う必要がある」と高坂氏は指摘する。
有名観光地でなくても、突然のブレイクを誘発するSNS
最近ではSNSの写真・動画投稿をきっかけに、穴場が瞬時に拡散され、観光客が殺到するケースが出てきた。アニメの舞台や珍しい自然現象が見られるなど、地元の人しか知らないような場所でも、ちょっと調べれば外部の人が容易に到達できてしまう。もともと観光地ではないため受け入れ体制が未整備で、路上駐車やゴミの放置、民家への無断立入りなどの問題を引き起こしている。
高坂氏は早急な対応を訴える。なぜなら観光客が押し寄せることで、貴重な観光資源や自然環境が棄損されれば、元に戻すのには莫大なコストがかかるからだ。また、対策を実行するには関係する観光事業者だけでなく、周辺住民の理解も得る必要があり合意形成まで非常に時間がかかるという。
ICTやAIの最新技術を対策に役立てる
新しい技術の普及はオーバーツーリズムを誘発している一方で、その対策に役立っている面にも高坂氏は言及した。京都ではスマートフォンの位置情報を収集・分析して人気スポットの混雑予測を公開し、AIが代替ルートを提案する社会実験を2019年秋から実施している。広島県の宮島では駐車場やトイレの混雑状況を公開したり、ロープウェイの予約とキャッシュレス決済ができるアプリを観光客に提供し、スムーズな移動をサポートしている。ICT(情報通信技術)やAI(人口知能)を活用したオーバーツーリズム対策が全国で始まっている。
政府・地域・観光客がそれぞれの役割を果たし、解決に向け協働する
効果的な対策を実現するには、受け入れる地域だけでなく、行政と観光客もそれぞれの役割を果たす必要がある。地域は合意形成の役割を担い、危機意識の共有と想定される事態への準備を進めておくこと、行政は注意喚起と持続可能な観光ビジョンの明確化、観光客は責任ある観光=レスポンシブル・ツーリズムの実行だ。
レスポンシブル・ツーリズムには、旅先の自然文化、住民の生活様式を尊重し、それを侵害しないように観光することが含まれている。観光施設だけでなく、行政、地域、観光客がそれぞれの役割を果たし、自覚を持って行動することで初めて目標が達成できる。
最後に高坂氏は「オーバーツーリズムは現在進行形の問題です。自分たちの地域の観光資源の良さを見つめ直し、観光地の将来像をどうするか考える必要があります。観光客にも協力してもらいながら、粘り強く取り組んでいきましょう」と締めくくった。
【登壇者プロフィール】
株式会社日本総合研究所 主任研究員
高坂 晶子氏
1984年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1989年慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。1990年日本総合研究所入社。2020年3月には著書「オーバーツーリズム 観光に消費されないまちのつくり方」を上梓。
【開催概要】
日時:2020年7月31日(金)16:00~17:00
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ
【今後開催予定のセミナー】
◆withコロナ時代の観光戦略 vol.5 〜エクスペディアから見る観光業の現状と対策〜
2020年8月7日(金) 15:00~16:00