やまとごころ.jp

“第二のニセコ”になるか? 世界の富裕層が富良野の不動産に熱い視線を注ぐワケ|富裕層特集

2021.05.31

外国人にとって、北海道で世界有数のリゾート地といえばニセコ。2020年にはパークハイアットやリッツカールトンといった国際的な一流ホテルがたて続けに開業し、コロナ禍で全国の観光地が壊滅のなかその勢いは止まらない。そんなニセコに続くリゾートとして、外国資本から熱い注目を浴びているのが富良野だ。外国資本によるコンドミニアムの建設が続き、2020年には大型のコンドミニアムFENIX FURANOが誕生、その存在感を強めている。


(提供:Zekkei Properties)

 

観光から投資へ、4年で地価34%UPの背景

富良野といえば、ウィンタースポーツやラベンダーをはじめとする花畑で知られる、道内でも人気の観光地だ。人口およそ2万人に対し、ピーク時には年間249万人の観光客を記録(2002年)。新型コロナウイルス感染症拡大前までは1年間で平均190万人が訪れていた。そのなかで目立って増えたインバウンド客について、富良野市経済担当部長の川上氏に伺った。

「1998年頃からアジアを中心に交流が始まり、アジアやオーストラリアのお客さんを中心に徐々に増えてきました。現在は、中国、香港、台湾、シンガポール、オーストラリアの順に観光客は多いです。ピーク時で、年間の外国人観光客の宿泊延べ数が15万3000泊を記録しています」

▲7月に見頃を迎える富良野のラベンダー畑(提供:富良野市)

そんな観光地として認知を広げてきた富良野に、変化が見られるようになったのはここ4、5年のこと。外国資本と思われる開発の相談・購入が増え、リゾートエリアである北の峰地区の地価は4年間で34%上昇。このことについて、2014年から富良野の不動産売買仲介や管理・運営を中心に不動産投資の総合サービスを外国人向けにも行ってきた、有限会社オールアバウトフラノ代表取締役の池野氏に訊ねた。

「2007〜8年頃から、観光で訪れて富良野を気にいったアジアやオーストラリアの個人投資家の方が土地を買うようになりました。以降、2008年後半からの金融危機や2011年の東日本大震災で低迷と回復を繰り返しながらも、2015年頃にはそこにアジアの大手デベロッパーも乗り出し、個人・法人ともに外資による投資が本格化していきました」

その勢いを、土地の値段が証明していると同氏は言う。2015年から現在まで、リゾートエリアである「北の峰地区」の坪単価を追っていくと……

「2015年頃には8〜10万円だったのが、2018年には約2倍の15〜20万円、2019年には30万円ほどまで上昇しました。現在、北の峰のメイン通り沿いのスキー場近くなど人気の場所では、販売価格が坪50万円以上に上るところもあります」

2020年12月には、近年で最も大きな建築物として「FENIX FURANO」がオープン。デベロッパーのゼッケイ株式会社は本社を香港に置く企業で、これまで海外やニセコでの開発実績もあり世界的な認知度もある。ゼッケイ社が富良野の土地を探しはじめた際に問い合わせを受けたのが池野氏で、地元の不動産業者とともに現在のFENIX FURANOの土地(の半分ほどの部分)を仲介したという。

「実績のある国際企業が富良野に着目したこと自体大きな意味がありますが、実際、FENIX FURANOは予約開始から数カ月も経たないうちに(予約)完売したと聞きました。外観のCGだけで予約の問い合わせが殺到するほどだったようです。その後同社は、コロナ禍でも、第2期の販売と建築工事に着手しましたが、第1期の好評ぶりからすると不思議ではありません」



▲FENIX FURANO 約3000万〜2億3000万円の全33戸は香港、ベトナム、オーストラリア等の富裕層により完売(提供:Zekkei Properties)

さらに同社は第3期工事にも乗り出す予定。加えて、この7月からは他社からも温泉付きの大型コンドミニアムが着工予定というから、その勢いがうかがえる。

 

ニセコとどう違う? 富良野のポテンシャル

このような土地の値上がりから「第二のニセコ」と囁かれることも増えている富良野。確かに、ニセコで最も人気があるひらふのメイン通りなどは坪150〜200万円というから、価格の安さは一目瞭然。しかし、両者を「一概に比較するのは難しい」と池野氏は言う。

「ニセコはここ20年間で、外資が切磋琢磨し、新しい価値を創造してきた場所です。近年では一流ホテルが増え、場所自体がハイブランド化し、ニセコに不動産を持つことがステータスに。価格も高騰し、初期投資が高いので、投資のインカムゲイン(管理・運営により継続的に得られる収益)は1〜2%ほどと僅かかもしれません。それでも購入するのは、ステータス以外にも、数年後に不動産の価値がさらに高騰した際に売りに出し、購入時の金額との差益を得るキャピタルゲインを期待している部分があり、インカムゲインがマイナスにさえならなければ良いと考える、やはりある程度資金に余裕のある富裕層かなと思われます」

対して、同じ富裕層でも、富良野の不動産を買う人は「堅実派」だと池野氏。

「そもそも富良野は、ニセコと比べて年間の宿泊数が多いです。今では昔より情報の広がりをみせていますが、少し前まで富良野に来る外国人の投資家や観光客には、富良野は冬だけでなく夏の観光客も期待できる、と言うとよく驚かれました。それも、宿泊グループ数でいうと夏の方が断然多いんです。ニセコと富良野にコンドミニアムを持っている人のなかには、回収率は富良野の方が良い、と言う方もいます」

▲森に点在する15棟のログハウスで、さまざまな手工芸品と触れ合えるニングルテラス。夏も冬もおとぎ話のような雰囲気(提供:富良野市)

これについて富良野の観光に詳しい川上氏は、富良野観光は冬季から始まり、夏季のニーズも伸ばしてきたと語る。

「富良野市の観光は元々、冬季観光から始まっており、国体やワールドカップを積極的に受け入れてきました。ニセコと同様、富良野の質の高いパウダースノーも魅力であったと思います。それが、テレビドラマ『北の国から』でラベンダー畑をはじめとする四季の風景が取り上げられると、次第に夏の観光にも比重が置かれるようになりました」

富良野は今、2シーズン楽しめるリゾート地として世界に認知されつつある。今後の伸びしろに期待が高まる。

 

攻める外資と揺れる行政

土地の開発が進めば地元経済は活性化し、雇用も増える。だが、手放しには喜べない、というのが富良野市総務部長稲葉氏の見解だ。

「市の都市計画に沿った開発は歓迎したいです。ただし、投機目的の転売などは、防犯面や環境面で好ましくないと思っています。土地の売買によって、地元民の流出や地域コミュニティが希薄になっていくのも心配です」

これらの懸念は土地開発には付き物だが、富良野の場合、より留意する必要があると稲葉氏は続ける。

「北の峰地区はもともとが住宅地で、生活者の多い場所です。富良野のスキー場は、民間活力により開発されており、まちづくりについても、民間と地域住民、そして行政がうまく連携して街並みやコミュニティを形成してきました。現在、市では乱開発に繋がらないようなルールを検討しており、今後も行政主導ではなく民間に協力を求める形で、二人三脚で街をより良くしていきたいとの思いです」

▲北の峰地区、市街地側からスキー場を望む(提供:富良野市)

北の峰の街並みは、山麓からスキー場に向かって伸びる斜面に、メイン通りを中心に広がっている。住宅地という土地柄、近年同地区ではこんな現象が起きていると池野氏は言う。

「中腹から上半分は旅館業・民泊の営業が可能なため最も人気で、前述の通り価格が高騰していますし、下半分は住居専用の用途地区のため旅館業は禁止されています。北の峰に隣接する下御料(しもごりょう)地区では旅館業や民泊の営業が可能なため、最近では下御料地区にも不動産を求める人が増えてきています」

こうした不動産取引や宿泊施設の計画が増えているのを受け、市でも対策を進めていると建設水道部長の小野氏は言う。

「2017年に下御料地区の一部を都市計画法に基づく景観地区に指定しました。これにより、宿泊施設の高さは20mまでといった建物の規模や高さ、色彩等に細かなルールが設けられました。加えて、2020年には富良野市全体に景観条例が施行されたので、景観法の規定も加わりました」

▲スキー場(写真右上)に隣接する北の峰地区、奥は富良野市街地(写真提供:オールアバウトフラノ)

景観条例によると、高さ10m超や、延べ床700平米以上の新築、また3000平米以上の開発行為については住民説明会を開くことが定められている。地域と開発側との相互理解がますます重要になるなか「地元富良野出身の不動産屋として、できる限り外国人投資家と地元地主様の間の架け橋になりたい」と池野氏は語る。

「購入する方には、重要事項として町内会への参加の有無まで確認し、参加不参加を問わず、富良野のゴミの出し方のルールなどを説明します。実際、外国の方は宿泊施設運営のために購入するケースが多いので、旅館業の許可を取り、ルールに沿ってきちんと管理運営することで大半のトラブルは未然に防げると思います」

外国人投資家にとっては、まだまだ“買い時”な富良野。今後、市場拡大が予想されるなか、外資側への規制という一方通行の対策だけではなく、地域側との相互理解を深めることがますます必要になりそうだ。

(取材/執筆:池尾優)