やまとごころ.jp

人吉 球磨川くだりの事例に学ぶ、防災・危機管理の重要性。企業経営者が語る災害時に備えたい3つのポイント

2021.06.25

コロナ禍からの回復を待つ準備期間にやっておきたいことのひとつに「危機管理」が挙げられる。地震は日本国内で頻繁に発生し、豪雨災害や水害も毎年のように起こる。

2020年7月4日の人吉球磨豪雨災害で壊滅的な被害をうけた熊本県人吉エリア。ここは、5年前の2016年4月に発生した熊本地震では大きな被害はうけなかったものの、豪雨災害から1年が過ぎようとしている現在も復旧、復興中である。今回は『球磨川くだり株式会社』の事例から、日頃からの防災、危機管理の重要性を考えてみたい。

 

災害復興にみる日頃の危機管理の重要性

私が『球磨川くだり株式会社』の話を、みなさんにお伝えしたいと強く思ったのは、2021年2月12日に熊本県山鹿市の八千代座で開催された「熊本県3つの日本遺産サミット2021」で、同社社長の瀬﨑公介氏の基調講演をお聞きしたことからだ。

「球磨川くだり」とは、最上川、富士川と並んで、日本三大急流といわれる球磨川を、木舟に乗り、熟練した船頭のガイドをききながら四季折々の景観を楽しむアクティビティで、100年以上の歴史を持つ。私も何度も体験したことがあり、人吉球磨の名物ともいえる。第3セクターで運営し、近年倒産寸前の状況だった同社の再建を手がけていたのが、瀬﨑社長であった。

▲八千代座

▲講演風景

瀬﨑氏は、熊本県上天草市の出身で、上天草市で株式会社シークルーズの代表取締役として、定期航路運行や滞在型宿泊施設や観光施設を運営。2018年8月に金融機関の仲介で経営再建の要請を受け、人吉市の第3セクターで倒産寸前の状況だった「球磨川下り」の経営再建を引き受けることになった。

それからわずか5カ月後の2019年1月には正式に代表取締役に就任し、料金体系及び出航時刻の見直し、WEB機能の充実及び旅行会社との連携強化、京都の保津川下りから譲渡された船をリニューアル、JR九州の豪華列車「クルーズトレインななつ星」を手がけた水戸岡鋭治氏デザインの新型船の導入など、様々な改革を行ってきた。

2019年9月〜11月の秋季は前年比150%、12月〜2月の冬季は過去10年で最高の乗客数と改革の効果が出始めていた頃に、新型コロナウイルス感染症の拡大、そして2020年7月の豪雨で壊滅的な被害を受けた。発船場の事務所は床上1.2mの浸水、球磨川くだりの船12隻全てが流出し、数隻を除いて使用不可能になった。運搬用の車などすべて水没してしまった。

そのような非常事態に際しても、落ち着いて何を優先すべきかを考えた瀬﨑氏は、災害時に大切な3つのポイントを次のように挙げた。

「企業経営者が伝えたい、災害時に大切な3つのポイント」
1.常に最悪を想定して対応することの必要性
2.冷静な判断の必要性
3.業務のオンライン化・データクラウド化の必要性

この3つのポイントは、自然災害だけでなく、会社経営においても非常に大切なポイントではないだろうか。

水害発生当時、大阪に出張中だった瀬﨑氏は戻ることより、復旧方法を検討することを優先。復旧作業前の状態の写真をしっかり撮影する事を指示した。これが後に補償や保険の交渉に役立ったという。

また、浸水によって同社の全てのパソコンやデスク、書棚が水没したにもかかわらず、ほぼ全てのデータを電子化してクラウド上に保存していたため、保険手続きや各種申請がスムーズに進んだという。

そして、被災後わずか半年で再建計画を発表。被災した発船場をHASSENBAという観光複合施設として、水害から満1年の7月4日に開設する予定で準備を進めている。球磨川くだりや後述するサイクリングツアーの受付・集合場所として、「九州パンケーキ」(フランチャイズ契約による)のカフェや、水戸岡鋭治氏の設計による会議室などを備えた施設は、人吉・球磨エリアの復興のシンボルともいえる。

▲オープン前6月上旬のHASSENBA

なお、瀬崎氏の講演は「熊本県3つの日本遺産サミット」のアーカイブから見ることができる。

 

復興、防災を体感する人吉はっけんサイクリングツアー

先述したように、球磨川くだりの船は12隻全て流され、船を確保しても、球磨川に大量の土砂が堆積したため、長期休業を余儀なくされた。

そんな中、事業を補い、また復興に向かう人吉のまちを体感できる「人吉はっけんサイクリングツアー」が4月から開始されている。熊本県の補助金を活用して、電動自転車を10台購入。発船場から人吉城跡や国宝青井阿蘇神社、古いまちなみが残る鍛冶屋町通りなど4.5kmのコースを3時間かけて周遊する。案内するのは、球磨川くだりの船頭たちだ。このサイクリングツアーは瀬﨑社長の発案で、体力があり、まちのこともよく知る船頭がサイクリングツアーのガイドに向いているとのアイデアも基になっている。

私は事業開始間もない4月22日に参加、船頭やラフティングのツアーも行っていた藤山和彦氏の案内で周遊した。自転車の操作や注意点をじっくりきいたうえでスタート。まずは、球磨川を前にどのくらいの被害状況だったのか写真で示してくれた。

その後、人吉城や水害の被害を受けた青井阿蘇神社などで観光名所としてのストーリーや昔の賑わいに加えて、被災直後にどんな状況だったか、どのように復旧していったのかをリアルに説明してくれる。

▲三の丸跡

三の丸跡からはまちを見晴らしながら、「被災直後は半分以上が浸水した」との説明があった。

青井阿蘇神社では、どのあたりまで水位があがったかを電柱の印で体感させてくれる。周遊を楽しみながら自ずと「防災」「日頃の自分たちの備えは大丈夫か」と意識させられる。

終盤には古い家屋で茶販売を営む立山商店でティーブレイク。ガイド以外のまちの方からも被災から復旧のお話を聞くこともできた。ある程度知っていた人吉だが、まるで自分の親しいまちのようにも思えてくる。


▲立山商店

サイクリングツアーの構築やガイディングについては、藤山氏はじめスタッフが「飛騨里山サイクリング」に研修に行き、人吉現地では、「飛騨里山サイクリング」を運営する「株式会社美ら地球」の山田拓氏の指導を受け、ブラッシュアップに余念がない。今後、ロングライドのコースや球磨川くだりとのセットコースなど様々な商品が計画されている。

「備えあれば憂いなし」

その言葉の重みを頭ではわかっているようで、自分ごととして捉えられることはそんなに多くはないのではないか(自戒をこめて)。「防災」「危機管理」の視点をもって、自分のまち、地域をみつめることで、価値や魅力が改めてみえてくる。人吉の取組はそう教えてくれている。