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【解説】観光再生に活用できる、事業再構築補助金とは?

2021.10.14

コロナ禍が長引き、国民全体があらゆるストレスにさらされ疲弊しているといっても過言ではありません。9月末をもって東京都等に発出されていた緊急事態宣言が解除されましたが、これでコロナ前の日常に戻れると思っている方は少ないでしょう。現に、世界では新型コロナウイルス感染症と折り合いをつけながら生活していく方向へ舵を切る国も出ています。これからはこの感染症との共生を考える時期に入ってきたといえるのではないでしょうか。

今回大きな打撃を受けた観光業でもそれは同じです。終息を待っているだけでは何も生み出さないことから、付加価値を追求したり、新しいニーズへの対応など観光再生への動きが見えてきました。しかし、それには以前と同じではなく、コロナとの共生を念頭に置いた新しい形の観光業、これまでとは違った形での再生という視点が必要になるのはいうまでもありません。

そんな観光業の再生の力強い味方になるのが、「事業再構築補助金」です。ここでは、その補助金の概況を説明します。

 

事業再構築補助金とは?

この補助金は、新型コロナにより甚大な影響を受け、従来のビジネスモデルが成立しない企業が新たな取り組みを行うことを補助する目的で創設されました。新たな取り組みには、業種・事業を変更するという大がかりなものだけでなく、本業は変えずに新サービスや新商品を投入する等も含まれます。

この補助金については、存在は知りつつも申請には至っていない方が大半ではないでしょうか。これまで、第3次まで公募受け付がありましたが、おそらく第5次まで募集があると思われます。チャンスはあと2回。しかも、第5次の申請期限は年明けでしょうから準備期間も十分にあります。今から制度を理解した上で、申請を検討してみてはいかがでしょう。

 

申請の条件は?

まずは補助金の申請対象となる企業の範囲と、どの程度の補助が受けられるかを簡単に見ていきます。

補助金対象となる企業

申請に必要な条件は中堅、中小企業であることと、上掲の3つになります。もう少し詳しく説明します。

1.売上高要件

売上が減っているという点では、観光業界に属する企業であれば問題なく満たしていると思われます。新型コロナにより前年同月比売上高が10%どころか50%~90%程度減少した企業が多いのではないでしょうか。

2.外部と事業計画を策定し事業再構築に取り組む

事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定するとありますが、顧問税理士が認定経営革新等支援機関登録している確率も高く、そうでなくともお付き合いのある金融機関で構いません。自社が中心となって事業計画を策定するのであれば、顧問税理士や取引のある金融機関で良いですが、ある程度以上は外部に任せたいのであれば補助金支援を得意とする中小企業診断士やコンサルティング会社へ依頼する選択肢もあります。

3.付加価値額が年率3%以上増加

付加価値額という用語はなじみがないかもしれませんが、営業利益+減価償却費+人件費のことをいいます。営業利益+減価償却費は償却前営業利益(他にもEBITDAなど)といい、キャッシュベースでの本業の利益を表す指標として広く用いられています。付加価値額はこれに人件費が加わります。補助金の出し手の期待が、企業が利益を伸ばし法人税を多く納めてもらう、もしくは利益にせず雇用を増やす(=人件費増)にあるため、付加価値額という指標を用いていると筆者は理解しています。

 

補助金額の概要

それではいったいいくらの補助金が受け取れるのでしょうか。中小企業を例に考えます。

新事業に伴う投資(建築費、システム構築費等)と一過性の経費(広告費など)が合計で4500万円(税抜)の場合、補助金は2/3の3000万円になります。なお、税抜投資額の2/3であり税込額に対してでないことを留意ください。4500万円の投資を実質1500万円の負担でできるわけで、過去に例を見ない大型の補助金となります。

「そんなうまい話があるわけない、どうせハードルがものすごく高いのでしょう」と思わるかもしれませんが、そんなことはありません。既に公表されている第1次、第2次の採択結果から全体像と宿泊業・飲食サービス業を見てみましょう。

 

観光業界に有利? 再構築補助金に応募すべき理由

上記の表は、中堅、中小企業の通常枠での応募件数、申請件数、採択件数になりますが、1次と2次の採択件数の合計は1万492件です。採択率は第1次が30%、第2次が36%と上昇してきました。支援会社等がノウハウを蓄積しつつあるのと、採択まで何度でも申請が可能なことが要因でしょう。第3次以降もこの傾向が続くと筆者はみています。

 

採択率が高い宿泊業・飲食業

ここで、宿泊施設の採択事例を少しご紹介しましょう。コロナ禍でリモートワークが推奨されるなかでのテレワークルームの導入、また、長期宿泊者の利便性を高めることにもなるホテル内のベーカリーショップの開業等が見られました。特別目新しいものでなくとも構わないのが、この補助金の使い勝手の良さとなっています。

それではその採択率はどのようになっているのでしょうか。下の表をご覧ください。


 
ここから何を感じ取るでしょうか。宿泊業・飲食業の採択率は全体に対して10%近くも高くなっています。これだけの件数がありますので誤差ではありません。断定はできませんが、筆者は宿泊業・飲食業の採択ハードルを下げた審査運用をしているものと思います。新型コロナで最も被害を受けた業界が宿泊業・飲食業であることを考えれば当然ともいえる運用です。ここまでくると宿泊業・飲食業の企業がこの補助金を申請しない理由を見つける方が難しいともいえそうです。

次回は宿泊業・飲食業の採択事例、地元密着企業の経営戦略としての再構築補助金の活用などを話したいと思います。

 

筆者プロフィール:

合同会社スラッシュ代表 坂本 利秋 氏

東京大学大学院工学系研究科卒。総合商社の日商岩井(現双日)にて金融派生商品の運用、おそらく国内初となるSNS企業の財務執行役員、三井物産子会社の取締役、メガベンチャー企業の再生を経験。2009年より中小企業に特化した再生・M&A支援を行うとともに、2020年には再生・M&Aの実務家養成事業を開始。現在、複数の社外取締役兼任。