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【最新動向】アフターコロナの観光地経営を担うDMO徹底解説

2021.12.10

観光地経営や地域づくりで重要な役割を担う「DMO」。日本で設立されて6年が経ちますが、コロナ禍のここ数年で、制度改正や支援政策の拡充など、DMOを取り巻く環境は大きく変化しています。観光産業がアフターコロナの復興に向かうなか、地域経営のカギを握るDMOについて、既存の取り組みから最新動向まで、アップデートした情報をお届けします。

 

DMOの必要性と役割は?

観光地域づくり法人、略称DMO(Destination Management/Marketing Organization)は、地域の観光資源に精通し、高い専門性をもって観光行政や地域と共に観光地域づくりを担う、官民連携の組織です。

人口減少・少子高齢化という課題に対し、日本全体で地方創生の重要性が叫ばれています。そうしたなか、各地域が、地方活性化の原動力となるインバウンド需要を取り込み、彼らのニーズに柔軟かつ的確に対応することが重要視されています。そこで、行政や自治体と協業しつつも、民間の先進的な手法を用い、観光地経営の視点で戦略的に地域をプロデュースできるDMOが、観光振興に重要な役割を果たしているのです。

観光庁が地方創生プロジェクトの一環として2015年11月に日本版DMO登録制度を創立して以来、その数は増え続け、2021年11月4日付での最新登録数は、「登録DMO(旧日本版DMO)」213団体、「候補DMO」90団体となっています

▷DMOの基礎知識はこちら

 

ガイドライン改正、重点支援DMOが誕生。目指すは世界水準のDMO

新型コロナウイルスの流行で観光業が大打撃をうけるなか、DMOにも2つの大きな変化がありました。

1つは、2020年4月に行われた、DMO登録制度のガイドライン改正です。改正の背景には、DMOの目的や役割の不明確さや、自治体や事業者との取組の重複、そして安定的財源確保と人材不足といった課題がありました。世界水準のDMO形成に向けてより一層強化すべく、ガイドラインを改め、従来の「日本版DMO」は「登録DMO」に名称を変更しました。

DMOの重点的な役割は、「地域での多様な関係者の合意形成において主導的役割を果たすこと」「地域観光資源の磨き上げや受入れ環境整備に最優先に取り組むこと」「戦略的なプロモーションを徹底して実施すること」となっています。

また、登録基準を厳格化。登録は3年毎の更新性となり、取消制度も導入。候補法人登録後3年を経過しても本登録していない場合は、登録取消となります。

出典:(別紙2)令和3年度重点支援DMOの各類型の概要について

 

もう1つは、2020年8月に創立された「重点支援DMO」です。登録DMOのなかで特に意欲とポテンシャルが高く着地整備に注力している法人を選定し、職員の派遣、観光庁補助金事業の活用による支援、情報提供などの重点的なサポートを行い、観光地形成を促進するというものです。初年度は32法人が、そして2021年度は前年選定法人に新たに5法人が加わり、全37法人が選定されました。

選定された37法人は、1.総合支援型(19法人)、2.特定テーマ型(7法人)、3.継続支援型(11法人)の3類型に分けられ、各類型に適した支援が実施されます。各類型の選定基準は、「1.総合支援型」は既に一定以上のインバウンド実績があるか、今後インバウンドを伸ばす取組に期待ができるDMO、「2.特定テーマ型」はテーマに応じた特色ある取組が認められ、他のDMOへの横展開のお手本となるDMO、「3.継続支援型」は2020年度に選定され、1.2に該当しないが更なる取組が期待されるDMO、となっています。観光庁は、「重点支援DMO取組事例集」を作成し、特に優れた取組をベストプラクティスとして取り上げるなど参考事例を紹介することで、他の観光地域づくりに係る人々への間接的支援にも繋げています。

 

DMOのメリットとは? 知っておきたい支援施策

各府省庁が様々な施策を実施し、登録DMOへの支援を強化しています。ここではコロナ禍の2020年~2021年度に実施された数ある支援のなかから、主だったものを紹介します。

「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」 

「地域の観光・飲食・宿泊施設の改修や整備を行い、観光客の受入れに望ましい環境を整えたい」「観光客にとってより魅力的な景観となるよう、廃屋を撤去したい」「公共施設にカフェを併設するなど、民間の力も取り込んで収益力を高めたい」

こうした要望に対しての短期集中かつ協力支援として実施されているのが、この事業です。2020年度は全国102カ所が選ばれました。

例えば福井県あわら市では、2024年春に北陸新幹線が福井県まで延伸されることを見据え、景観改善のための廃屋撤去や、「旅館の外に出たくなる賑わいの創出」をコンセプトとした旅館連携型の湯・体験プラン巡りのプログラムを開発。熊本県人吉市では、「観光地としての面的な創造的復興」を目指し、豪雨災害で被害を受けた宿泊施設などを改修整備し、夜の誘客を狙って照明を使った新コンテンツを開発するなど、個人旅行への対応強化や、地域一帯の周遊促進といった点が高評価を受けています。

出典:令和2年度 3次補正

 

「観光地域づくり法人による宿泊施設等と連携したデータ収集・分析事業」

「地域にどんな観光客が来ているのか?」「どのような滞在を好み、何にニーズがあるのか?」

データに基づいて自分たちの顧客をよく知り、的確なターゲットに向けた施策を打ち出していきたいDMOを支援するのがこの事業です。具体的には、宿泊データ分析システムやCRM(顧客関係管理)アプリを駆使して、客層や動向を総合的に分析することで、経験値からの感覚的な判断ではなく、データで裏打ちされた確かな情報を基に、最適なマーケティングやプロモーションが可能となります。また、顧客の特性がわかれば、ニーズに合った商品開発やサービスの提供ができ、旅行消費の増大やリピーターの獲得にも繋がります。

例として、2020年度の実証実験地域の岐阜県下呂市では、客層の多くが岐阜県民であろうと県民向けのキャンペーンを考えていましたが、宿泊データの結果を分析し、3割強が愛知県からの宿泊客だという事実が判明。愛知県民限定プランを販売することで売上増となり、2020年3月の下呂市への観光客数は全国平均がコロナ禍で前年比3割のところ、前年比7割をキープしました。

出典:令和3年度国土交通省予算決定概要・観光庁

 

「観光地域づくり法人(DMO)の改革」

「人材不足に悩んでいるが、予算が足りず採用できない」「専門的な知識を持つ適切な人材を見つけるのが難しい」「人材育成を強化したい」

DMOが抱える代表的な悩みである人材不足を補強し、専門性を高めることでDMOとしてのレベルアップを支援するのがこの施策です。具体的な支援内容は、DMOと専門人材のマッチングを実施しての適切な人材採用と、スキルアップのための研修やセミナーの受講などへの補助。そして、安定的に財源を確保できるよう、最も基幹的な自主財源である地方税を導入すべく、関係者の合意形成へも支援が及びます。アフターコロナにおける観光需要増大を見込んで、人材の確保や強化に更に注力したい地域のニーズが高まるなか、当支援を活用しない手はないでしょう。

出典:令和3年度国土交通省予算決定概要・観光庁

 

コロナ禍で旅のスタイルも変化、注目の新施策は?

既存の施策に加えて、コロナ禍でのライフスタイルや価値観の変化によって旅行にも新たなニーズが生まれ、それに対応すべく新規事業も誕生しています。ここでは2022年度に引き続き実施予定の施策と、新たにスタートする施策をご紹介します。

「新たな旅のスタイル促進事業」

コロナ禍でテレワークが普及するなど、ここ数年の働き方の多様化に伴い、滞在型の旅へのニーズが高まりました。そこで、ワーケーションやブレジャーなどを「新たな旅のスタイル」として、これらの普及・促進に向けた体制整備支援が2021年度からスタートしています。具体的には、ワーケーションなどに興味がある企業と受入れ先の地域をマッチングさせ、モデルプランへの効果を検証することで、適切な受入れ態勢を整備やより魅力的なプラン作成に繋げるというものです。

今年6月に行われたモデル事業の公募結果では、40の地域と企業が選出され、北海道から沖縄まで全国に渡る地域と、主に関東圏の企業(40社中28社)が選ばれました。例えば、くまもとDMCはIT企業アステリア株式会社とタッグを組み、今年10月~来年1月にわたって熊本県人吉市と球磨郡水上村にてアステリアの社員向けにワーケーションプログラムを3度実施し、宿泊地でのテレワークの他、森林セラピー、地元住民との交流、地元企業とのワークショップなどを開催しています。「新たな旅のスタイル」の普及は、働く側の休暇取得促進に繋がる一方で、観光地側では週末や連休以外の観光客が期待でき、企業と地域の双方にメリットがあることから来年度も継続される注力事業です。

出典:令和4年度概算要求版

 

「広域周遊観光を促進する事業:観光地域支援と専門家派遣」

広域周遊観光とは、共通のテーマやストーリー性に基づいて、観光資源や地域を結び付けて、エリアを超えたルートを旅すること。長期滞在による地方活性化を狙って、2015年から観光庁が広域観光周遊ルートづくりを促進していますが、観光地域支援事業では、ルートづくりにあたる市場調査にはじまり、環境整備、コンテンツ企画やプロモーションに至るまで、幅広い支援を実施しています。

▽観光地域支援事業

出典:令和4年度概算要求版

DMO向け支援策としてはおなじみの事業ですが、コロナ禍における新たな旅のニーズに対応すべく、例えば三密を避けた屋外の観光資源を活かしてのコンテンツを造ったり、感染症対策や混雑状況などの情報提供を通じて安心安全な観光環境を整えたりと、新型コロナウィルス流行前とは違った取り組みも実施されています。また、広域周遊観光においても人材不足は大きな課題であり、DMOからのリクエストに応じて登録している専門家をアドバイザーとして派遣もしています。

▽専門家派遣事業

出典:令和4年度概算要求版

 

2022年の新施策:「DXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出」

2022年度からの新規施策として注目されているのが、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」を駆使した事業です。DXとは、データと最先端のデジタル技術によって、製品やサービス、ビジネスモデルをより良く変革させていくことを指します。ポストコロナでのインバウンド需要を見据えて、目指すは期待を超える新時代の体験。既存の観光資源や交通機関にデジタルを駆使することで新しい体験価値を生み出し、動画配信やバーチャル空間を利用して日本の魅力を伝えることで、訪日意欲を更に高め、日本のファンを定着させる狙いです。

観光庁が2020年12月に公募した「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」では、京浜急行電鉄のXR(クロスリアリティ;VRやARなどの総称)を活用した屋外周遊型テーマパーク開発、ゼンリンデータコムの5G・自動運転・XRによる「どこでもテーマパーク」創出、を含む5事業が採択されています。本支援はDMOに限らず、観光関連事業者や自治体、ICT分野の専門知識を有するベンチャー・大学・民間企業なども対象としていて、日本の最先端デジタル技術がどう活かされるのか、注目が集まります。

出典:令和4年度概算要求版

なお、登録DMOに限らず、自治体・事業者など、観光地域づくりに取り組む関係者を対象にした多様な支援施策について、「観光地域づくりに対する支援メニュー集」が観光庁のHP上で公開されています。詳しくは以下のリンクをご参照ください。

▷「観光地域づくりに関する支援メニュー集(2020年度概算要求版)」はこちら

 

インバウンド客数6000万人達成に向けて、強化すべきは地域連携

2020年の訪日外国人旅行者数は412万人にまで落ち込みましたが、日本政府が掲げる目標は、2030年の訪日外国人6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円を堅持しています。東京観光財団がワールド・ビジネス・アソシエイツとの共同研究により今年発表した「アフターコロナのDMOの役割」によると、世界のDMOが重視しているのは「地域社会の構築」「カスタマーエンゲージメント」「組織の持続性」の3点で、「デジタルの活用」と「地域との連携強化」が引き続き重要であると強調されています。アフターコロナ時代のインバウンド復興を目指し、日本全国のDMOが力を発揮し、地域全体が協力し合いながら、10年後の目標達成に向けてどのような歩みを進めていくのか?期待せずにはいられません。