やまとごころ.jp

ラオックス株式会社 代表取締役社長 羅 怡文氏

2012.06.09

免税ビジネスに特化した家電量販店の進化のカタチ

家電量販店の過当競争の時代、経営悪化に陥っていたラオックスに新しい中国人リーダーが登場した。もともと、免税品販売を行っていた同社の経営資源を生かしたカタチで免税ビジネスに特化。家電量販店から家電免税店へと大きく舵を切ったことで、瞬く間に経営を立て直していった。そんな羅 怡文氏にインタビューを実施。外国人に特化するビジネススタイルの中から、インバウンド施策のヒントを探ってみた。

 

プロフィール
1963年生まれ。1989年来日、1996年横浜国立大学大学院卒業。
1992年:大学院在学中に中文書店創業、在日中国人向け新聞「中文導報」を創刊。
1995年:中文産業株式会社設立、代表取締役社長就任。
2006年:上海新天地株式会社(現・日本観光免税株式会社)代表取締役社長就任。
2009年:8月ラオックス株式会社 代表取締役社長就任。

 

グローバル化することで、ビジネスチャンスがある

村山

経歴を拝見しますと、日本の大学で学ばれたとありましたが、どういった志を持って来日されたのでしょうか?

私が留学生として日本に来た1989年というのは、中国で改革開放が実施されたばかりの時代。どんどん海外の情報が入ってきていましたし、あらゆる意味において中国と世界の差は歴然でした。海外へ留学することなど、それほど簡単なことではなかったのですが、多くの若者の関心は海外に向いていましたし、私もその波に乗って日本で勉強したいと思ったのです。

日本の大学では経済学を専攻しましたが、アルバイト代わりに日本在住の中国人に向けて新聞を発行。まだ在学中ではありましたが、その翌年には起業し、それからCS放送のTV局運営や雑誌の発行など、広くメディアや通信関係の業務を展開してきたのです。

2009年には縁あって、中国国内で一番大きな家電量販店と共同でラオックスに出資提携。代表取締役に就任しました。それまで経営していた会社を他人に任せて、今はこちらに注力しているところです。

 

村山

メディアからの大きな転身を図られたわけですが、最初はご苦労があったのではないでしょうか?

異なる業界ではありますが、経営やマーケティングの考え方は共通する部分が多く、特に大きな抵抗や障害を感じることはありませんでした。私はラオックスに入る前から、日本のマーケットは閉鎖的であると感じていましたし、同時に、いずれは開放されるときがくると予測していました。

ラオックスは早い段階から免税ビジネスを手掛けていましたので、私の役目はそれを拡大することと自覚。当時、経営的には厳しい状況でしたが、グローバル化していけばビジネスチャンスがあると考えたのです。

 

村山

社長に就任し、まずはどのようなことから取り組まれたのでしょうか?

2009年に就任してすぐに、秋葉原の本店をリニューアルして免税売り場を拡大。不採算店舗を閉鎖し、経営のエネルギーを免税ビジネスに集中しました。

しかし、決して順風満帆とはいえませんでした。ここ数年の間に、震災や尖閣諸島の問題など、外部要因による大きな影響を受けたのも事実です。平和な環境こそグローバルビジネスの基本だと改めて実感しました。

しかし、全体的に見れば、当時、免税ビジネスに特化する方向へと舵取りをした選択は間違っていなかったと思っています。

経営資源、マーケットの可能性、そして時流と、私たちが目指した経営方針がぴったり合致した結果、新生ラオックスとして飛躍的な成長を遂げることができたのです。

 

 

顧客動向を正確に捉え、魅力的な商品を揃える

 

 

村山

御社では、15ヵ国語対応の接客が可能だとお聞きしましたが、人員の確保など難しくはなかったでしょうか?

 

 

 

 

ワールドワイドな人員の確保は難しい課題です。
今年入社を果たした31人の新入社員の半分は外国人ですし、アルバイトも日本在住の留学生を積極採用しています。短期のアルバイトも派遣社員も活用します。
言葉の問題だけではなく、同じ国の人が店舗にいるだけでお客様も安心しますし、実際に売り上げを左右します。ですから様々な国籍の方を確保しなくてはなりません。

同時に、外国人のお客様に安心して購入いただけるサービスとして、延長保証制度を導入しています。日本で購入した商品であっても、中国国内にて1600店舗を展開するグループ店に持ち込んでいただければ、その場で修理・交換対応を行っています。

 

村山

それは素晴らしいサービスですね。他にも、外国人のお客様相手だからこそ、意識されている点などありますか?

 

やはり魅力ある商品を取りそろえることに尽きます。お客様の動向から、求める商品は何なのかを正確に捉えることです。
ラオックスの店舗は決して広くはありませんが、お客様が求める商品をそろえ、お客様にご満足いただけるよう努力しています。
消費者のニーズの移り変わりは早いので、お客様の動向からいち早く察知する必要があります。

それをヒントとして商品を仕入れたり、外国人の消費動向に合致したオリジナル商品の開発にも着手していますし、メーカーと一緒に商品の改良や新商品の導入も行っています。

今後はさらに、特化した商材、他にない商品を作って、ラオックスの特徴を全面的に出していかなければと考えています。ニーズの観察とリードの両方をバランスよく捉えながら、消費者に対して新しい商品を提案していくつもりです。

 

 

村山

新しい商品を提案するには、店舗スタッフのスキルも必要になりますね。

 

 

 

 

知識を持っているスタッフとそうでないスタッフでは、ひとり当たりの売上金額が違うというデータから見ても、商品知識の必要性は明らかです。

ラオックスではしっかりとした商品知識の教育や接客方法についての指導を実施しています。また、国別に違う消費傾向を現場スタッフが把握し、共有しているのも強みのひとつ。関税や文化の違いによって売れるものが違うので、それを理解したうえで提案することで、購買意欲を高めるのです。

 

 

銀座店におけるチャレンジが免税ビジネスを大きく飛躍させる

村山

先日、御社の銀座店にお邪魔したのですが、そこで新しいラオックスさんの可能性を感じました。フラッグシップ的な役割を果たしていると考えてよいのでしょうか?

まだまだ発展段階ですが、今、私たちラオックスが目指している方向をある程度理解していただけるモデルケースであることは間違いありません。

ラオックスはもともと家電量販店であり、海外仕様向けの家電製品を売る店でした。

しかし、銀座店を見ていただければお分かりの通り、家電のみならず衣料品や雑貨、化粧品なども販売しています。家電量販店から家電免税店への変化というステップを経て、今は家電免税店から総合免税店への進化を遂げる段階にあるのです。

 

村山

南部鉄器など、日本の伝統工芸品が販売されているのも印象的でした。

日本でしか購入できないメイド・イン・ジャパンの商品販売にも注力したいと考えていますし、実際に売れ行きも好調です。
当初は南部鉄器など、あれだけ大きなスペースを使って、高価な商品を並べて、大丈夫か?との声もありましたが(笑)、そんな危惧など吹き飛ばすほど好評を博しています。

やはり、外国人であっても、本当によいモノであればその価値を理解してもらえますし、それに見合った金額で購入してくれます。

日本のよいモノを海外に向けて提案していくのも、私たちのような立ち位置にある企業にとって大切な役目であると考えているのです。

 

村山

素晴らしいお考えですね。ところで、中国現地でのプロモートなどはどのような形で実施されているのでしょうか?

海外、特にアジア各国のお客様が日本に訪れる目的は観光だけではなく、やはりショッピングという行為が大部分を占めているというデータがあります。
国や地域によって差はありますが、要するにみんな、日本に来ておいしいモノを食べて、好きなモノを買って帰りたいと思っているのです。

現地の旅行会社にとっても、ラオックスの存在は、そういった旅行コンテンツの醍醐味を満足させるものと期待を寄せているのです。

 

村山

なるほど、現地の旅行代理店の方々も、ラオックスのように外国人の方々が安心して買い物が楽しめるお店の存在にメリットを感じているということですね。今年の10月に免税品目が拡大となりますが、これも御社にとっての追い風になるのでは?

 

そうですね。今回、追加される品目の中には、当社が成長分野であると捉え、力を入れようとしている化粧品や食品などが含まれています。ビジネスチャンスは間違いなく拡大されます。

 

村山

ますますの発展が期待できますね。それでは最後に、今後の日本におけるインバウンドをどうしていくべきかについて、何かご提言などいただけますでしょうか?

日本は魅力的な国ですから、まだまだ外国人誘致について大きなポテンシャルがあると考えます。
企業は、インバウンドで利益を生み出せるとわかれば、積極的に工夫して取り組んでいきますが、必要なインフラ整備や国民の意識はどうでしょうか。
例えば今は、「外国人のお客様どうぞ日本へいらっしゃい」と思っていても、地下鉄やホテルが外国人でいっぱいになったとき、不便になったな、などと感じずに同じ気持ちでいることができるでしょうか。
そういった国民意識とインフラの問題は、国レベルでの取り組みが必要だと考えます。

 

 

村山

おっしゃるとおりですね。今日はお忙しい中ありがとうございました。僭越ながら御社のますますの発展を祈念いたします。