米国初 100%自家発電のサステナブルなホテルとは? 罪悪感を払しょくする新しい旅
2022.05.24
2022年5月に開業した、米国コネチカット州のホテル「ホテル・マルセル・ニューヘイブン タペストリー・コレクション・バイ・ヒルトン」が自家発電で電力を供給するエコなホテルとして話題になっています。
100%自家発電、アメリカ初のネット・ゼロ・エネルギーなエコホテル誕生
この「ホテル・マルセル」は、長いこと使用されずにあった1970年代の建物を、地元の開発者ブルース・ベッカー(Bruce Becker)氏が、ネット・ゼロ・エネルギーホテルに再開発したものです。ホテル名は、バウハウスで学んだハンガリー出身の建築家兼デザイナーで、この建物の作者であるマルセル・ブロイヤーに敬意を表してつけられました。100%自家発電の太陽光エネルギーだけで建物全体の電力を賄うと宣言しており、アメリカ初のネット・ゼロ・エネルギーホテルとして注目を浴びています。
ナショナル ジオグラフィック(National Geographic)誌によると、同ホテルが実際にネット・ゼロ・エネルギーであるかどうかを確かめるには、今後1年間、建物が生産したエネルギーと、消費したエネルギーとを測定し、エネルギー効率の改善に取り組む第三者機関であるNew Buildings Institute (NBI)が認証することになるということです。
ホテルの二酸化炭素は全体の1%、グリーン化が観光産業の重要な課題
「ネット・ゼロのホテルが、いかに、地球の気候に優しい旅を作るか」というこの記事では、パリ協定の数値目標を達成するには、観光産業は2030年までに66%もの排出量を抑えなければならないと指摘しています。国連世界観光機関(UNWTO)によると、ホテルからの二酸化炭素排出量は、現在既に世界の総排出量の約1%を占めており、今後、世界中で更に多くの人々が旅行ができる経済力を持つようになると、この数値はさらに増えると予測されます。そのため、ホテルのグリーン化は、観光業界にとって非常に重要な課題です。
世界中に広がるエコなホテル、エネルギー排出抑制に向けた取り組み加速
同記事にはエコなホテルの事例が2つ紹介されています。
1つ目オーストリアのウィーンにあるブティックホテル「シュタットハレ(Stadthalle)」は、2009年にネット・ゼロホテルに改修されました。オーナーのミヒャエル・ライタラー(Michaela Reitterer)氏によると、当初リーマン・ブラザーズに融資を求めたものの金融危機でまとまらず、その後、彼女のビジョンに理解を示した女性バンカーから、ホテルのエネルギー供給源となるソーラーパネルとヒートポンプのための資金が提供されたそうです。レストランではオーガニック食品が提供され、朝食用のコーヒー豆はヨットで輸送されます。客室のミニバー冷蔵庫は大量のエネルギーを消費するので、スナックや飲み物は、ホテルのロビーで販売されています。
消費以上のエネルギーを作るサステナブルなホテル、2024年ノルウェーで開業
2つ目の事例、2024年にノルウェーの北極圏で開業予定のホテル「スヴァルト(Svart)」は、世界初のネット・ポジティブ・ホテルを目指します。ネット・ポジティブとは、ネット・ゼロを超えて、消費する以上のエネルギーを作り出すという意味です。ソーラーパネルと熱のリサイクルの両方を活用して実現させるのだとか。海面に浮かぶ円盤のような印象的な建物は、他の素材よりも製造過程でエネルギー消費の少ない素材で建設され、既に完成しています。敷地内に有機農園と養殖場があるため、食品ロスが少なく済むことも特徴です。持続可能性に十分に配慮しつつ、スパや冬のオーロラ鑑賞など、優雅な時間を過ごすことのできる設備を備えており、このホテルの開発ディレクターイヴァイロ・レフテロフ(Ivaylo Lefterov)氏は、「罪悪感を持つことなく、贅沢と旅を満喫することができる」と言います。「罪悪感を感じない贅沢を」というニーズに応えるホテルです。自分の楽しみの為に環境に負荷をかけることに罪悪感を覚える人々がそれだけ多いということでしょう。
世界中のすべてのホテルが沿うべき持続可能なホテルの基準策定
2022年4月、世界最大規模の観光国際会議である世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のグローバルサミットが、マニラで開催され、責任ある旅行と観光の推進のため、すべてのホテルが最低限実施すべき基準「Hotel Sustainability Basics(持続可能なホテルの基本事項)」が発表されました。これは、ホテルの規模の大小に関わらず沿うべき12の基本基準で、エネルギー、水、そして二酸化炭素の使用量を測定し減らすこと、ゴミを特定し減らすことなどが盛り込まれています。また、リネン類の再利用や、環境に配慮した清掃・洗浄製品を使うこと、プラスチック製のストロー、使い捨てのペットボトルの廃止、アメニティの見直しなども含まれます。WTTCのCEOジュリア・シンプソン(Julia Simpson)氏は、持続可能性への取り組みは待ったなしだと、そしてこの基準は、小規模なホテルも含めすべてのホテルが世界基準へ近づくことができるように定めたものだと言います。つまり「最低でもこれだけはしなければ」というラインの設定です。
待ったなしで取り組む世界から取り残されぬよう
シンガポールでは2022年3月、政府観光局とシンガポールホテル協会が共同で「ホテル・サステナビリティ・ロードマップ(Hotel Sustainability Roadmap)」を発表しました。これは2050年までに全てのホテルでネット・ゼロを達成するという目標に向けた包括的で具体的なロードマップです。
日本でもついに2022年4月1日「プラスチック新法」が施行され、宿泊施設にプラスチック製品の削減に向けた取り組みが課されました。これまで、何を買っても自動的に入れてくれるコンビニのレジ袋など、日本のプラスチック製品の使い方は訪日客から不評でしたが、レジ袋も2020年にようやく全国的に有料となりました。余力のある事業者には、想像力を働かせて、法規制の先を目指してもらいたいと切に願います。遥か彼方のネット・ポジティブという進化系に思いを馳せつつ、訪日旅行が復活した時にがっかりされない準備をしなければ、日本は訪れることに罪悪感を感じる目的地になってしまうかもしれないという危機感を感じます。