【中国最新動向】ゼロコロナ政策を続ける中国の実態は? 訪日旅行再開はいつなのか
2022.08.04
世界では渡航制限の緩和・撤廃に伴い、海外旅行が急速に回復している。特に欧米では2年以上続いた停滞ムードを脱却し、経済活動を優先、海外旅行においては、インもアウトも旅行が自由に出来る方向へ進んでいる。回復が遅れていたアジアでも、東南アジアは真っ先にその流れに乗った。日本でもかつてのような厳しい行動制限はなくなり、夏休みに入って旅行者が増えてきた。その矢先にコロナ感染第7波による感染者の急増が起きているが、新たな規制の導入もなく、もはや個々人に対策を委ねるウィズコロナの流れとなっているだろう。
それと比べて未だゼロコロナ政策を続けているのが、中国だ。旅行市場として最もポテンシャルが大きいだけに、「いつ戻るのか」という声も聞こえてくる。ここでは、中国の政策の現状と、中国の訪日旅行の再開時期について筆者の見解を述べるとともに、そこに備えて準備するべきことをお伝えする。
▲上海の団地でPCR検査を行う様子(提供:株式会社フレンドリージャパン)
コロナ禍における中国の実態
中国の状況を見ると、2カ月以上続いた上海におけるロックダウンが6月1日に解除されたのもつかの間、また中国国内で数十人規模の感染者が報告され、ロックダウンには至らないまでも厳しい防疫対策を強いられることになった。象徴的な都市である上海では、7月に入っても3日に1回以上のPCR検査が義務付けられており、さらに大型テーマパークさながらに、大規模PCR産業パークを設置する計画もあるようだ。
これは、コロナ感染自体の問題ではなく、『ゼロコロナ政策』が引き起こした政治的な混乱と言ってよい。7月の中国本土の新規感染者数は1日30人から多くても200人程度であり、日本の人口に置き換えると3人~20人程度である。しかしながら、“ゼロ”ではないため、防疫対策に躍起になっているのである。
▲ロックダウン中の上海市内(提供:株式会社フレンドリージャパン)
中国がゼロコロナ政策にこだわる理由
それではなぜ、中国はそこまで『ゼロコロナ政策』にこだわるのか? それは、今年の秋に予定されている5年に1度の中国共産党大会で、習近平政権が続投するためには、政策の柱である『ゼロコロナ政策』を否定できないからだ。国民生活とは全くかけ離れた、政権争いの焦点となっているのである。
よって、秋の共産党大会が終われば、習近平政権が続投しようがしまいが、私は『ゼロコロナ政策』は転換するとみている。もちろん、続投しなければ、すぐにでも政策転換されるだろうが、習近平政権の続投が決定しても、今後5年間、安泰な権力を握れば、経済状況や国際情勢をにらみ、様々な理由をつけてゼロコロナからの脱却を図るに違いない。
ゼロコロナ政策の裏で進む規制緩和、中国の海外旅行再開はいつ?
その前提として、既に一部のコロナ関連政策において、緩和策が示されている。その1つ、かつてあった国内旅行の厳しい移動制限は無くなり、完全自由化された。
そして、最も大きいのが、「7+3政策」だ。これは6月28日に政府が発表した中国入国規制(隔離政策)が、それまでの「14日間の集中隔離+7日間の自宅健康観察」から、「7日間の集中隔離+3日間の自宅健康観察」に大幅に短縮された政策だ。この発表を受け、現地旅行関係者は、海外旅行の再開に向け喜びを露わにさせ、SNS上では「訪日再開に向けて大きな前進」や「7+3なら多少無理しても海外旅行に行く人もいるだろう」といった前向きなコメントであふれた。
秋の共産党大会終了後を1つの区切りと見て、私は、中国からの訪日再開は、早ければ今年の10月、遅くとも来年1月下旬の春節時期には再開すると読んでいる。
日本のインバウンド再開に対する、中国旅行会社の声は?
ところで、中国旅行会社の訪日担当者は、今後の訪日情勢を、どのようにみているのだろうか。中国でコロナが流行してから2年半、その影響が長期化するにつれ、国内旅行や管理部門へ異動させられた人や、倒産や訪日部門の廃止により離職を余儀なくされた人も多くいた。弊社上海事務所では、その間も、彼らへ日本観光情報を継続的に提供し、“いずれ必ず再開する訪日旅行”への情熱を絶やさないように連携を取り続けた。
私は彼らに、日本への入国制限が6月1日から緩和され、6月10日からは団体観光客の受け入れが再開するニュースが流れたタイミングで、ヒアリングを行った。「日本が受け入れを再開しても中国がゼロコロナ政策である限り変わらない」といったネガティブな意見もあったが、大多数の人は、「単純に嬉しい」「訪日再開への大きな一歩だ」「東南アジアだけでなく日本まで観光客の入国を認めたことは大きい」「これを機に日本から中国政府に圧力をかけて欲しい」といった喜びや前向きな意見であった。観光系メディアやKOLも同様な意見であり、本来の自分の仕事が長い間出来なかった鬱憤を晴らすかのような、積極的なコメントが多かった。
▲鬼怒川の自然は、中国で人気スポットのひとつ(提供:株式会社フレンドリージャパン)
ただ、このニュースに対する中国国営メディアの報道は扱いが小さく、一般の中国国民までは浸透していないようだ。それでも、訪日関係者にとって、希望の光となったことは間違いない。それに加え、前述の「7+3政策」が発表されたことで、訪日再開が現実的に見えてきた感触を持つ者も多い。
海外旅行再開後、中国人旅行客は日本のどこへ行き、何をするのか?
私は、中国からの訪日が再開し、日本側も通常通りの受け入れが出来るようになれば、必ず、短期間でコロナ前の状況までV字で回復すると確信している。旅行業界歴36年の経験から言うと、海外旅行需要の停滞は、阻害要因が明確な場合、復活したら驚くほど早期に回復し、更に躍進することが多い。
それでは再開後、旅行の傾向や訪日旅行へのニーズは、以前と比べて、どのように変化していくのだろうか。すでに解禁された中国での国内旅行の傾向を見ると、旅行や観光の中身は確実に変わっている。コロナ前の2019年頃から都会を離れて郊外で、「大自然の景観を観賞したい」「自然を実感できる体験がしたい」「空気が良く綺麗なビーチリゾートでくつろぎたい」といったスタイルがブームになり始めていたが、コロナ後はそれがより顕著となった。
訪日旅行でも、東京、大阪といった大都市滞在型から、自然豊かな地方都市への分散が確実に起こり、加えて、安心、清潔、衛生的が重視され、かつ高級志向が強まり、高くても安心して楽しめる旅を求める傾向になる。具体的には、日本の綺麗な空気の中で過ごすキャンプやグランピング体験、ビーチリゾート、ウィンタースポーツやマリンスポーツへのニーズがより高まると考えられる。
▲沖縄ブセナのビーチリゾートも人気のスポットだ(提供:フレンドリージャパン)
最近、中国富裕層の意識調査レポートを読んだのだが、その中でも同様に、自然景勝地、キャンプ、ビーチリゾート、スキーやスノボー、高級ラグジュアリーホテルというキーワードが多く出ている。
こうした変化の一方、この先も訪日人気は変わらない。コロナ前と同様に和食人気も根強く、ショッピング大国のイメージも変わらず強い。
最重要市場「中国」からの訪日旅行再開に備えするべきこと
日本にとってインバウンドは必要不可欠であり、その中でも最大のボリューム市場である中国マーケットの復活が鍵だ。2019年、インバウンド全体の3分の1にあたる960万人の中国人観光客が来日した。それでも、中国の人口の0.7%にも及ばない人数であり、まだまだ伸びる余地は十分にある。航空便については、はじめから定期便での運行は難しくても、毎日チャーター便を飛ばせば実質上の定期便と変わらず、かつ、成田、羽田、関空以外の地方空港から、中国の地方都市への運行も可能だ。機材も十分に余力はあり、ポテンシャルは青天井である。
訪日再開に向け、願わくば、今から現地旅行社や観光系メディアに対して積極的に情報を発信するとともに、何よりもファムトリップ(招請旅行)の実施を検討して欲しい。何せ、最も訪日再開を待ちわび、誰よりも日本に来たいと思っているのが、彼らだからである。いかに早いタイミングで、このキーマンたちを呼べるかが、今後の誘客を左右することは間違いない。
▲訪日旅行再開を待ち望む中国の旅行会社、写真はコロナ前のFAMツアーの様子(提供:株式会社フレンドリージャパン)
株式会社フレンドリージャパン 代表者取締役
中国インバウンドコンサルタント
近藤 剛
ANAセールス株式会社で22年間勤め、国内や海外旅行のツアー造成や訪日旅行、イベント企画などを担当。その際に駐在した中国・上海で現地の旅行会社や上海の実力者たちと知り合う。2009年に独立し、株式会社フレンドリージャパンを創設。以降、中国で得た知見やネットワークを活かして、インバウンドに関わる旅行コンサルティング、販促物の提供、中国からの誘客促進などに従事。独立当初より上海にも事務所を立ち上げ、中国旅行会社向けBtoB販促冊子『壹游日本(いいよりーべん)』の発行なども手掛けた。
☆ホームページ http://www.friendlyjp.com/