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ゼロコロナ政策を続ける中国、訪日旅行の回復時期は? 5年ぶり開催の共産党大会から考察

2022.10.25

日本では、「全国旅行割」が始まり、国内旅行の回復が本格化してきました。そして、海外旅行においても、インバウンドもアウトバウンドも、10月11日から開始された「入国制限の緩和」により、まさに完全回復が現実的になってきました。

一方中国は、ゼロコロナ政策により、未だ世界から取り残された状態となっています。そんななか、5年ぶりに中国の最高指導機関でもある中国共産党大会が10月16日に開幕。今後の中国の動向が発表されるだけあって、中国ビジネスに関わる人たちにとっては注目の的となっています。

今回は、十数年以上にわたり、中国市場を中心に訪日誘致やインバウンド戦略立案などに関わってきたフレンドリージャパン株式会社近藤剛氏から、中国ゼロコロナ政策を続ける中国国内の現状を解説いただくとともに、党大会で掲げられた内容や方針を踏まえながら、中国からの訪日回復の時期を予想してもらいました。

 

社会主義に基づき愛国思想を育てる中国、「レッドツーリズム」など推進

大前提として、中国共産党は、社会主義における資本経済の発展に限界を感じつつも、それを認めることが出来ないジレンマを抱えています。

その焦りから、毛沢東時代の過激な「愛国主義」「共同富裕」を国民に植え付けようとする意図が見え隠れしており、一歩間違えば、50年前の文化大革命の悲劇が繰り返されることを危惧する声もあります。

2004年に中国政府によって打ち出された、「レッドツーリズム」と呼ばれる中国国内の革命の聖地などをめぐるツアーが昨今、再び注目され、学生など比較的若年層に向けた旅行に取り入れられています。行程には、中国共産党の歴史に関する場所をめぐり、革命の歴史や精神を学ぶ内容が中心です。傍からみると、あまりにも愛国心に偏むく思想となることは避けて欲しいと感じてしまいます。


▲レッドツーリズムでは、中国共産党関連施設を訪れる(提供:株式会社フレンドリージャパン)

 

ゼロコロナ政策や長引くロックダウンに、国民から批判の声も相次ぐ

しかしながら、現代は50年前とは違い、ネットニュースやSNSが一般化しているため、情報操作、報道統制には限度があり、14億人を洗脳することは不可能であると考えます。

それと同時に、現在、中国が抱えているもう一つの大きな不安要素は、ゼロコロナ政策による行き過ぎた行動制限への国民感情と、国家権力との軋轢です。

中国経済の中心である上海全域においては、2022年3月下旬から2カ月以上に及ぶ長期ロックダウンで、習近平政権の求心力が急激に弱まり、国民からの政権批判が相次いでいます。すでに、国民の不満は限界に達しており、「まともな生活が出来ない。安心して仕事が出来ない」といった現地からの切実な声を頻繁に耳にします。これ以上、習近平政権が強硬に厳しいゼロコロナ政策を推し進めると、大きな暴動に発展する懸念もあります。

それを象徴するかのように、今月14日、党大会を直前に控えた北京中心部の歩道橋に、習近平政権を批判する横断幕が掲げられる事件が起きました。その横断幕には、「PCR検査はいらない。ご飯が欲しい」「ロックダウンはいらない。自由が欲しい」「独裁者の国賊、習近平を辞めさせろ」といった最高権力者への異例の罵声が掲げられていました。もちろん、その横断幕は、すぐに撤去され、SNSも瞬時に削除されたため、中国国内で拡散されることはありませんでしたが、習近平政権に対して大きなダメージを与えたことは間違いありません。


▲北京市内で起こった反政府抗議(提供:株式会社フレンドリージャパン)

このような国民感情を無視出来ない状況に立たされている共産党としては、それほど先ではないタイミングでゼロコロナ政策から脱却し、行動制限や出入国制限の緩和に向けて舵を切らざるを得ないと、私は推測します。

 

5年に一度の中国共産党大会、何が打ち出されたのか?

そして、そのような情勢下、5年に一度開催される中国共産党大会第20回が10月16日(日)に開幕しました。

大会初日に習近平主席が演説した「政治報告」を聞く限りでは、習近平政権の続投はほぼ確実でした。最大の注目点である国家主席を含む7人の最高幹部(常務委員)の発表は、大会最終日の翌日(23日)に行われ、習近平にとって“都合の良い組織体制”がスタートしました。

今回、習近平主席が語った「政治報告」は、5年前の3時間を超す大演説に比べて、1時間45分とういうコンパクトな演説でした。大筋の内容は、以下の通り。

過去の実績報告
現・習近平政権の実績を強調。
①腐敗政治の撲滅(徹底的な反習近平派に対する粛清)
②経済発展に成功(世界2位の経済大国まで成長)
③農村部の貧困からの脱却に成功(共同富裕)
④人命を最優先としたゼロコロナ政策を揺ぎなく堅持し、感染抑制に成功
*国営メディアでは、大会前から習氏の業績をたたえる特別番組「領航」を繰り返し報道。

今後の基本政策
①中国式社会主義(共同富裕の継承)
②中華民族思想の強化(チャイナドリーム)⇒ 習近平思想の浸透
③祖国の完全統一の継承(台湾統一)
④経済復興(改革開放政策の継承/科学技術の発展強化)
⑤コロナ防疫政策の継承(ゼロコロナ政策の継続)


▲共産党大会での習近平主席による政治報告(提供:株式会社フレンドリージャパン)

 

中国の今後の政策、海外渡航や観光への言及は?

なお、我々が最も気になる、観光・海外渡航に関わる内容については、残念ながら言及されませんでした。現時点で、観光を大きな課題として捉えておらず、政権維持を前提とした国家思想(習近平思想)や、中国経済の復興に向けた政策方針が焦点となっているのでしょう。

また、海外渡航を再開するには、「これまでの徹底したゼロコロナ政策が功を奏した」と誇示するために、現時点では出入国制限の緩和を言及することが出来なかったと考えられます。

ただし、9月に香港の出入国制限を事実上撤廃するなどの布石を打っていることから、ゼロコロナ政策から脱却できるかどうかが、今後の注目点です。

 

ゼロコロナ政策による中国国内の状況は? 大卒の失業者急増など悪化の一途

今回、中国の実態を探るため、現地関係者にヒアリングしました。その声も踏まえて、筆者自身の見解を述べます。なお、現地関係者の生の声は、最後に載せておりますので、参考にしてください。

習近平政権の続投が確定しましたが、私の感触では、今後の中国が、経済復興を目指す中で、早期にゼロコロナ政策から脱却し、出入国制限を緩和させていくと確信しています。

現在、中国各地での強行で無計画なロックダウンの影響により、4-6月期間のGDP成長率は0.4%にとどまり、年間目標である5.5%の達成は不可能な状況となっています。特に、その悪影響を受けているのが若年層で、16歳から24歳の失業率は20%と記録的な低水準です。また、今年の大卒者の就職率は20%以下となり、「大学卒、即失業」というキーワードがSNSのトレンド入りするほど大きな問題になっています。中国の若者がやる気をなくし、国に対して希望を持てなければ、優秀な人材を海外へ流出し、将来的な中国経済に大きなダメージを与えることは間違いありません。

その点を踏まえると、新政権も、経済復興の推進が急務であり、それを実現するためには、ゼロコロナ政策の転換が不可欠です。

党大会初日に習近平主席から語られた政治報告では、ゼロコロナ政策を大きな成果とするために、決して否定的なことは言えず、【建前】としては、ゼロコロナ政策の継続を宣言せざるをえない事情がありましたが、【本音】では、一刻も早くゼロコロナの呪文から脱却したいと思っていることは間違いありません。そのことは、関係者の皆さんからの意見でも多く指摘されている通りです。

 

ズバリ予測、中国からの訪日回復の時期はいつなのか?

以上の考察を踏まえ、私は、訪日の回復は、ずばり、2023年春節(1/22)前後と推測します。

そうなると、待ち望んでいた中国人観光客が一気に戻ってくることが容易に想定できますし、すぐにコロナ以前に劣らないビックマーケットとなり、インバウンド市場の主役になることは間違いありません。

そのマーケットを確実に取り組むためには、訪日の再開が確実になったタイミングを逃さず、誘客&情報周知を目的としたプロモーションを仕掛けることが大変重要です。特に、3年という長い間、待ちわびていた訪日キーマン(旅行会社・KOL)の皆さんを招請するファムトリップを実施することが、今後の誘客に向けて極めて効果的です。

なお、訪日キーマンの招請については、全国の自治体や企業からの取り合いになることが想定されるため、早いタイミングで動くことが重要です。

まさに今が正念場、ここで成功すれば、きっと勝ち組になります!

※なお、今回中国の実態を探る為、現地関係者にヒアリングしました。“生の声”を、一部紹介させていただきます。

インバウンド関係者(日本人/上海在住)
●政治報告では、コロナ防疫については、「ゼロコロナ」の成果のみがうたわれ、今後についての説明はなく、当⾯「ゼロコロナ」が継続される⾒通しとなりました。しかしながら、中国経済、またコロナの弱毒化が進んでいる状況を考えると、共産党⼤会後、感染者数が爆発的に増えなければ、ゼロコロナ政策を段階的に緩和させていくのではないでしょうか。

そして、2023年3月の全人代で習氏が国家主席に再任することを転換の機会として、コロナ勝利宣⾔が出され、⼤きく規制緩和が⾏われるのではないかと考えています。これが中国インバウンドの回復のターニングポイントになるのではないかと考えています。

私の周りの中国⼈スタッフの多くは、今回の政治報告ではゼロコロナ政策の規制緩和の⽅向性が⽰されなかった事に失望していました。半面、やはり中国⼈の訪⽇意欲は旺盛だと感じました。

またインバウンドの復活には、フライトの正常化が⽋かせませんが、その航空代金などがまだまだ⾼額で、今のままでは現実的ではないとの意見が多いです。その点においては、中国国内の航空会社からも、徐々にフライトを増便するとの報道があり、今後に期待できる動きだと感じています。

インバウンド関係者(日本人/広州在住)
●習近平総書記からの政治報告では、共産党政権の思想を堅持する内容が多く、ゼロコロナ政策によってコロナ感染が抑えられ、今後もゼロコロナ政策を継続するとの発表がありました。また、観光や旅行についての具体的な政策についての発言はなく、観光市場の回復や入国制限の緩和は、やや先になるとの印象を持ちました。

しかし、私の周りでは、党大会後、少しずつ隔離政策も入国制限も緩和されるのではないかといった意見を耳にします。個人的には、今後、7日間の集中隔離を3日間に短縮するなど段階的に入国制限を緩和させ、2023年3~4月頃には訪日旅行が再開されるのでないかと思っています。

旅行関係者(中国人/上海在住)
●全体的に、習近平を唯一無二の指導者としてイメージを固定したいことをはっきり示しています。そして、今回の共産党大会が、習近平及び共産党幹部にとって、非常に大きな意味を持つ重要な会議だということをはっきりと認識しました。今年の上海ロックダウンも含め、すべて、この大会へ向けての準備だったという印象を受けます。

訪日の再開については、個人的には、2023年の春節時期までに条件付きで海外団体旅行を再開し、段階的に開放しながら、2023年3月以降に完全に開放すると予想しています。

旅行関係者/弁護士(中国人/日本在住)
●党大会の様子を見ると、共産党内では、未だ複雑な政権状況であるとの印象を受けました。党大会の最前列の参列者を見ると、前主席の胡錦涛氏、現首相の李克強氏、その他長老たちの顔ぶれを見ると、習近平政権が完全に党内の権力を掌握した状態ではないことが分かります。

過去の共産党の歴史を見ると、完全に権力を掌握した政権は、過去の成果や思想を強く訴える必要はなく、ただひたすら国家の発展や、国民の幸福のために、柔軟な政策を推し進めることが出来ます。

ゼロコロナ政策により経済的ダメージを受け、国民が不満を感じていることを、習近平政権も理解はしているはずです。しかしながら、建前上、それを打破する政策を言い切ることが出来ないジレンマを抱えています。今後は、徐々にゼロコロナ政策の規制を緩めながら、経済復興を進めていくことが考えられます。

旅行会社(中国人/成都在住)
●これからの将来指針として、習近平政権の重要任務として「全面的な近代化国家を作り上げること」が明確に示されました。また観光政策については、政治報告では語られませんでしたが、政府の五大原則の一つとして「対外開放の深化を堅持すること」が挙げられました。その点で、私個人の意見としては、イン・アウトバント旅行は対外開放の重要な一環として言うまでもなく強く推し進められると思います。

ゼロコロナ政策やピンポイント防疫対策は継続されますが、諸外国の対策緩和政策などを鑑み、今後、水際対策の緩和が徐々に進んでいくはずです。事実、内陸都市も含め国際路線の復航がすでに進んでいます。そのような環境を受け、訪日旅行の再開は、あくまでも個人の予想ですが、早ければ2023年上旬には実現されると思います。

弊社スタッフ(中国人/上海在住)
●初日に行われた習近平主席の政治報告では、観光・旅行というワードがほとんど聞かれず、ゼロコロナ政策の堅持、共有富裕、チャイナドリームが中心でした。しかしながら、実際にはゼロコロナ政策を段階的に緩和させていき、それに伴い出入国の緩和、海外旅行の再開に向けて動き始めると期待しています。

そうなると、訪日再開は年明けから徐々に進み、完全復活は、国家主席が正式に任命される全人代(2023年3月)頃になると思います。

弊社スタッフ(中国人/日本在住)
●政治報告では、今まで実施したゼロコロナ政策の効果を、大きな成果として発表しただけで、今後の方向性については言及されませんでした。しかし、人民日報によると、政府関係者は、大会前日の記者会見において「ゼロコロナ政策は最善な方法であり、これからも継続する。ただし、実状況に合わせ、国民生活や経済への影響を最低限に抑えるように調整する。」と語っています。共産党政権としても、実態としては、段階的に緩和させたい!と考えていると思います。

10月17日、「中国東方航空は10月20日から複数の国際路線を再開する」と発表しました。共産党大会中に、国営航空会社が、このような発表するということは、共産党政権も、海外との交流を活発化する意思がある証拠で、インバウンド再開も近いと感じました。
(参考)中国=日本路線:杭州/青島/南京/昆明 ⇔ 東京成田

個人的には、訪日は、2022年の年末から条件付きで再開し、その後の中国国内のコロナ感染状況によっては、2023年の春節頃には、完全復活が期待できると思います。

 

株式会社フレンドリージャパン 代表者取締役
中国インバウンドコンサルタント
近藤 剛

ANAセールス株式会社で22年間勤め、国内や海外旅行のツアー造成や訪日旅行、イベント企画などを担当。その際に駐在した中国・上海で現地の旅行会社や上海の実力者たちと知り合う。2009年に独立し、株式会社フレンドリージャパンを創設。以降、中国で得た知見やネットワークを活かして、インバウンドに関わる旅行コンサルティング、販促物の提供、中国からの誘客促進などに従事。独立当初より上海にも事務所を立ち上げ、中国旅行会社向けBtoB販促冊子『壹游日本(いいよりーべん)』の発行なども手掛けた。