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「ベジタリアン対応」こんなに違う欧米諸国と日本の現状

2022.11.11

これまで2回にわたって、ベジタリアン・ヴィーガンの基礎知識や、観光インバウンドで取り組むべき意味や意義について伝えてきました。 世界を見渡せば、特に欧米諸国では、ベジタリアンやヴィーガンが当たり前のように存在しています。例えば、ここ数年でも大半の飲食店にて「Vegan」や「Plant-Based(植物由来)」という表記が一般的になってきていて、肉や魚以外の「もう一つの選択肢」となっています。


▲お店に行くと、Vegan表記は一般的になりつつある(提供:フードダイバーシティ株式会社)

それに対して、日本では最近でこそ、健康志向の高まりなどを背景に「ゆるベジ」などとして認知されはじめていますが、一部の大手チェーン飲食店を除き、そのような表記を見ることはほとんどありませんし、大半の飲食店は、事前予約を求めたうえで、取り組むケースがほとんどです。

今回のコラムでは、「食の多様性」「ベジタリアン対応」という観点で、欧米諸国と日本を比較した際に、私自身が感じている差を紹介します。

 

「ヴィーガンメニュー」が当たり前に浸透する欧米諸国

ベジタリアン・ヴィ―ガンに対する知識の差

例えば、日本の居酒屋で「ヴィーガンメニューはありますか?」と聞いてみると、多くの場合は「それは一体なんでしょうか」、あるいは「店長を呼んできます」、もしくは「うちにヴィーガンメニューはありません」と言われます。しかし、その居酒屋には「枝豆」「冷奴」「お漬物」「フライドポテト」「椎茸の串焼き」などが普通にメニューとしてあります。本来、ヴィーガンメニューと聞かれたら、こうしたメニューをお勧めすればいいだけなのですが、このように回答できる居酒屋は日本で数えるくらいしかありません。

しかし、海外で同様に「ヴィーガンメニューはありますか?」と聞いてみると、大抵グランドメニューにヴィーガンメニューであることを示す「V」マークが付いているか、もしくは付いていなかったとしても、アルバイトのスタッフですら、「これ、これ、これがヴィーガンです。これはチーズを抜けばヴィーガンになります」などと、はっきりと回答してくれます。


▲米国では現地の嗜好に合わせてヴィー
ガンメニューを提供する日系チェーン(提供:フードダイバーシティ株式会社)

なぜ、ベジタリアンやヴィーガンに関する知識が一般の層にまで普及しているのでしょうか。欧米諸国と日本の教育レベルの違いに起因しているのではありません。欧米諸国では「多様性のある社会で人とコミュニケーションを取るときに必要な知識」として、小さい頃から、ベジタリアンやヴィーガンについての知識を普段から学んでいるからこそ、このような対応を普通にできるのだと考えます。日本では多様性に触れる機会はやはり少ないので(コロナ禍では特に)、このような知識については大人も理解していないケースが多く、子供たちに適切な教育が行われていないと言えます。

日本では事前に予約をしないとヴィーガンメニューに対応してもらえない飲食店も多いですが、これも残念ながら知識レベルの差と言わざるを得ません。もともとメニューが豊富な和食や居酒屋メニューの中では、何か特別なことをしなくても、ヴィーガンに対応できるものは多いのですから、これは非常にもったいないことだと思います。

 

畜産と環境問題の関係性を知らない人が多い日本

「環境問題への意識と責任」への差

新型コロナウイルス感染症だけでなく、昨今世界で解決すべき共通課題として気候変動があります。日本でも気候変動から、毎年自然災害の被害が大きくなっていたり、台風などの発生時期が早まったり、海面温度上昇で以前獲れていた魚が取れなくなったりなど、皆様も感じていらっしゃることは多いと思います。

特に、家畜を育てるためには、飼料の生産、家畜の飲料、生産工程などで大量の水が必要となること、また家畜が排出するメタンガスが地球温暖化の原因の1つになっていることから(牛1頭から1日あたり、200~800Lのメタンが放出)「お肉を食べること」については世界中で議論に上がるようになってきました。

記憶に新しいところでは、2019年に小泉進次郎元環境相がニューヨークで国連気候変動サミットに出席した際に、公の前で堂々とステーキを食べに行った姿や「毎日でもステーキを食べたい」と発言したことは、世界中がニュースとして報道しました。

もちろんこれは「お肉を食べてはいけない」という話ではなく、「国連気候変動サミット」に出席した一国の環境大臣が、環境への影響が大きいとされるお肉に関して、大勢のマスコミの前で個人的な嗜好に関する発言をしたことが問題となったわけです。


▲ビーガンレストランチェーン「Veggie Grill」が提供する代替肉を使用したカツ(提供:フードダイバーシティ株式会社)

 

ヨーロッパで変化する、公共の場での「肉」や「魚」の提供のあり方

また、昨今ではオランダの都市で「公共の場での食肉の広告を禁止」したり、フィンランドの都市で「公共イベントで肉の提供を禁止」したりなどの動きがあり、もちろん現状は賛否両論ありますが、このような流れは今後基本的に加速していくことが予想されています。

直近で言えば、2023年にG7が広島で開催されます。また同時に日本全国14の都市で閣僚会合も開催されますが、会食の場、立食の場で提供する食事メニューは日本としてしっかりと考えていく必要がありそうです。例えば、「我がまちの自慢の和牛」については、公式サミットなどの公の場では、口にしない人も増えていることでしょうし、「我がまち自慢の魚」についても養殖に関する「ASC認証」や天然の水産物の証である「MSC認証」の取得を気にする人が増えていることでしょう。


▲米グロサリーストア「Whole Foods Market」魚売り場ではMSCの表記がある(提供:フードダイバーシティ株式会社)

私も全国各地で講演業を行っていますが、「お肉の消費が気候変動とどんな関係あるのでしょうか?」という質問をよく頂きます。まだまだ日本では、家畜と気候変動の関係性についての知識や意識が世界と比べて遅れていると言わざるをえません。

 

欧米のスーパーで、選択肢の1つとして広く受け入れられるヴィ―ガン食

ここまで知識と意識への差について話をしましたが、もっと具体的な例についてご紹介します。それは、スーパーマーケットにおけるベジタリアン・ヴィーガン対応商品の売り方です。

日本ではヴィーガンコーナーや大豆ミート売り場を作り、対応商品を同じ場所に固めることで「これはベジタリアン/ヴィーガンの方向けの商品です」という打ち出し方をします。当然、多くの一般コンシューマーは「これは自分たちが買う商品ではない」と認識し、結果ベジタリアンやヴィーガンのお客様しかそのコーナーから商品を買いません。そうなると棚の売り上げ効率が悪くなって、専用コーナーができても数カ月後に消えているケースも多く、一般の人々の目に触れる機会も少なければ、浸透するチャンスも少ないといえます。

一方で、海外では専用コーナーをほとんど見かけません。日本とは異なり一般コンシューマーをターゲットにした販売方法を行います。

米国では、植物由来の肉や乳製品を製造・開発するフードテック企業が開発した代替肉「インポッシブル・ミート」(インポッシブル・フード社製)、「ビヨンドミート」(ビヨンドミート社製)などが販売されています。
下の写真の通り、こちらはとある米国のスーパーマーケットのハンバーガーのパティ売り場ですが、「Impossible Meat」が販売されています。一般コンシューマーの「今日の晩御飯のメニューは、お肉を抜きにしておこうかな」というニーズに基づく消費を狙っているということです。


▲スーパーには通常のお肉と並んで代替肉が陳列されている(提供:フードダイバーシティ株式会社)

また市場調査会社NPDグループによると、「Beyond Meatを買っているお客様の95%はベジタリアンでなく、普段お肉を買っている人」という調査結果も出ています。

2年半ぶりにインバウンド観光が再開し、今後海外との人の往来や情報の行き来が活発になっていくにつれて、日本でもこうした情報がこれから広まっていくと思います。ただ、いち早く情報を獲得して、訪日客のニーズを把握して準備を行い、インバウンド消費にしっかりと対応していく必要があるのではないでしょうか。

 

プロフィール:

フードダイバーシティ株式会社 代表取締役 守護 彰浩

楽天株式会社を経て、日本国内のハラール情報を6カ国語で発信するポータルサイトHALAL MEDIA JAPAN 運営。国内最大級のハラールトレードショー・HALAL EXPO JAPAN を4年連続で主催。2018年よりベジタリアン事業にも注力、中国語でのベジタリアン情報サイト「日本素食餐廳攻略」や、英語圏のベジタリアンへの情報発信に向け、世界最大のベジタリアンアプリ「HappyCow」と日本企業唯一の業務提携を交わす。フードダイバーシティをコンセプトにハラール、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャなど、あらゆる食の禁忌に対応する講演やコンサルティングを提供中。 2020年、観光戦略実行推進会議にて、菅前総理大臣に食分野における政策提言の実績あり。流通経済大学の非常勤講師。