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中国「独身の日」 2022年は異例の取引総額非公開、経済低迷で節約志向。国内ブランドが人気

2022.11.15

中国では11月11日、大手ECサイトを中心とした一大商戦である「独身の日」セールが行われた。年々、流通取引総額(GMV)を更新して世界的な話題となるが、14回目の開催となった今年は初めてGMVを非公開とし、波紋を広げている。ゼロコロナ政策による規制が長引き景気低迷が続く中国での消費トレンドとは?2022年のセールの実績とその動向をお伝えする。

 

利益よりユーザー体験向上にシフト、景気悪化で消費<節約へ

2022年は、EC最大手のアリババグループと第2位の京東(ジンドン)共に、初めて具体的な売上額の公表を見送った。アリババは独身の日の実績について、「マクロ面の課題や新型コロナウィルス感染症関連の影響にもかかわらず、前年実績並み」だったと発表。京東も「昨年を上回った」と発表するに留めた。2021年の取扱高は、アリババは自社ECサイト「天猫(Tmall)」にてGMV5403憶元(10.5兆円)、京東も自社サイト「JD.com」で3491億元(6.8兆円)と共に過去最高を更新し、今年も更なる記録更新が期待されていた。

取引総額を非公開とした理由は明かされていないが、数字よりもユーザー体験の向上を重視するようになったためと見られている。アリババは独身の日セール期間中、出店企業のロイヤルカスタマー育成支援体制を強化すると発表し、顧客ロイヤリティ向上へのシフトは戦略的方向転換だとしている。また、昨年に引き続き中国政府の「共同富裕」政策による統制強化も影響しているとの見解もある。

正式な取扱高は非公開ながら、中国のビッグデータ分析会社星図数据(Syntun)のモニタリングデータでは、2022年の独身の日セール期間(10月31日20時~11月11日24時)における主要プラットフォームのGMVは1兆1154億元に上ったと試算されている。

その一方で、ゼロコロナ政策の規制が長期化し、中国経済は低迷中。中国の中央銀行が今年7月~9月に実施したお金の使い方についてのアンケート調査では、「消費を増やす」と回答した人が22.8%、「貯蓄を増やす」と回答した人が58.1%となり、節約志向の高まりが顕著となった。実際に中国の国家郵政局によると、セール期間の11月1日~11日に全国で扱われた小包の量は42億7200万件で、前年比で5億件の減少、11日当日は5億5200万件で、前年比で1億4000万件の減少だったという。

 

中国ブランドの人気急上昇、消費トレンドは海外製品から国産品へ

2022年は天猫で90以上の国と地域から29万を超えるブランドが参加し、昨年より300万点多い1700万品以上の商品が出品された。

アリババによると、独身の日セールにおける消費トレンドは、スポーツ&アウトドア、ペット用品、コレクターズトイ、ジュエリーなどのカテゴリーで強い成長が示されたという。また、美容ハイテク機器は前年比で売上が5570%増加。カーペット専用洗剤やスマートキッチン家電の販売も非常に好調だった。

JD.comによると、ブランド別では、10日夜の最終セール開始直後にアップルが10億元の売り上げを達成。エスティー・ローダー、ロレアル、ロクシタンを含む87の国際的美容ブランドも、最終セール開始直後の10分間の売上高が前年比3倍となった。ブルガリ、モンクレール、ブルネロ・クチネリなどの高級ブランドを含む7万ものブランドが初めて参加したことも、話題となった。

一方で、天猫では、セール開始1時間で102ブランドの売上が1億元(約20億円)を突破し、その過半数を中国ブランドが占めたことが注目された。かつては海外ブランドが売上ランキングの上位を独占していたが、今や国産ブランドの人気が急上昇し、国産品が消費の中心になりつつある。実際に、10月22~31日のプレセール期間において、あるライブコマーススタジオでは国産ブランドの売上高にして1億元超えが8つ、5千万元超えが29にもなった。クラウド百貨店の銀泰百貨では、国産品ブランド全体の伸び率が30%を上回り、化粧品でも海外製品より国産品への注目度が高まっている。

 

消費者の利便性向上と環境への配慮

今年の独身の日セールは、消費者がより便利に買い物を楽しめるような工夫が施された。例年セール開始時刻は深夜0時だったが、今年は午後8時に変更。消費者が夜更かしせずに参加できるようになった。また、あるプラットフォームではショッピングカートの商品上限を120点から300点へ拡充したり、1回の注文で複数の届け先に対応するなど、ユーザーにとって便利な機能が追加された。最低価格を保証して、他のサイトより高価な場合は1クリックで差額が返金されるシステムも、多くのプラットフォームで標準装備化された。

昨年に引き続き、環境に配慮したグリーン消費を勧める施策も目立ち、温暖化ガス排出量の少ない商品購入に対してポイント還元する取り組みも実施された。包装資材の廃棄問題には、アリババ傘下の物流会社「菜鳥(ツァイニャオ)」が13の配送拠点に包装資材の回収箱を設置して、段ボール1箱につき卵1個と交換することで市民にリサイクルを奨励。セール期間中に約400万個の紙箱をリサイクルした。宅配業界では、低炭素・排出削減にむけて、配送伝票の電子化、セロテープの使用削減、生分解性の包装資材の利用拡大に取り組んだ。

 

越境ECに新しい物流支援策、海外ブランドへの支援強化は継続へ

越境ECに出店する海外企業に向けては、物流面における新たな支援策が多く実施された。中国向け越境物流サービス強化策としては、長距離輸送を20%増やし、自社運営保税倉庫スペースを倍増。通関支援としては、通関申告のデジタル化や80%以上の検問所の24時間65日稼働を実施し、継続的な在庫補充ができるように期間中倉庫を無休稼働した。また、中国主要都市には、新たに海外輸入商品管理専門の保税倉庫を開設。更に販売促進策として、海外企業とライブストリーマーの連携促進や、ツァイニャオの保税倉庫でのライブストリーミング販売支援も行った。

アリババの越境EC「Tmall Global」に出店している海外1009ブランドは、前年比GMV成長率100%以上を達成。Tmall Globalは今後、海外ブランド支援策として、新消費トレンド醸成の機会提供やマーケティング戦略・サプライチェーンの強化を行い、今後3年間で1000以上のブランドの売上が1000万元(約2億円)を超えることを目標に掲げている。

越境ECでは、健康意識の高まりから未病・予防ヘルスケア、エージングケア関連商品が人気で、特に50・60代向けの健康食品や睡眠改善サプリメントが売れている。そんななか、今年日本企業では、世界特許取得のアルコール代謝サポートサプリの「SUPALIV」が独身の日セールに初出店。腸活ブームで更なる売上アップが期待される森永乳業のプロバイオティクス商品、独身の日セールで新色を販売するカネボウ化粧品のメイクブランドKATEの「リップモンスター」など、中国人消費者を惹きつける商品が並んだ。

中国ブランドの人気が急上昇する中、海外ブランドは国産品に勝る商品価値をいかに創出できるかが問われていくのだろう。

 

視聴者数3億人越え、ライブコマース×インフルエンサーが売上アップの秘訣

今年も多くの企業が、インターネットの生中継で商品を売り込むライブコマースに注力し、成果を得た。アリババ傘下のプラットフォームである淘宝直播(タオバオライブ)では、10月24日のプレセール開始以来、3億人以上の消費者がライブストリーミングセッションを視聴。プレセール初日には、開始後たったの4時間で130のチャンネル経由で1000万元(約2億円)を超える売上を記録した。開始1時間のタオバオライブにおける再生数は、前年同期比で600%増加。この1年で新規参加したライブ配信者は50万人以上で、セールが迫る9、10月に登録されたライブ配信団体は100以上にのぼった。これらの新規ライバーのプレセール開始後4時間でのタオバオライブ経由の売上は、前年比684%という驚異的な伸びを記録している。休業していた美容系インフルエンサー「口紅王子」が復活したこともあり、インフルエンサーによるライブコマースも盛り上がりを見せ、プレセール開始から2日で売上前年比30%を超えた。

その一方で、業者の乱立による過当競争や、経済低迷による物流の滞りを受けて、ライブコマースから撤退する企業も相次いでいるという。中国企業の信用情報サイトには、今年既に7800社以上がライブコマース事業から撤退したというデータもある。

独身の日セールに限らず、今後の中国のライブコマースの在り方が問われている。

 

新たな消費文化を生み出す場に

「『独身の日』は、ただのキャンペーンセールから、新たな消費文化を生み出す場にもなるなど変化している」と、アリババグループの趙戈氏は言う。長引く新型コロナウィルス規制とそれに伴う景気後退や、消費者の需要の多様化など、多くの課題や変化に合わせて独身の日セールは今後どう発展していくのか。今後の動向にも注目したい。