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アドベンチャートラベルのスルーガイドが語る、世界のプロが満足した静岡・富士山ツアーの魅力

2023.10.20

2023年9月11日~14日、北海道で開催されたアドベンチャートラベル・ワールドサミット。アドベンチャートラベルをテーマに、世界各国から、旅行会社、メディア、バイヤーが集まり、活発な商談が繰り広げられたほか、本大会が始まる前には、ホスト国を知ってもらうため、「プレ・サミット・アドベンチャー(PSA)」と呼ばれる5~6泊程度の本格的なアドベンチャーツアーが北海道を中心に全国各地で実施された。

アドベンチャートラベルのプロに対して提供したツアーの中身はどのようなものだったのか。また、日本の歴史になじみがない外国人旅行者に、どのようにして日本を伝えたのか。荒天にも柔軟に対応し彼らの満足度を高めるために、受け入れ側はどのような準備と工夫を行ったのか。参加者は、日本のアドベンチャートラベルをどう評価したのだろうか。

今回、静岡で行われた5泊6日のアドベンチャーツアーでオペレーター兼スルーガイドを務めたKODO Travel(コドー合同会社)の共同代表シャノン・ウォーカー氏に、詳しく伺った。ツアーガイドとして、また、オペレーターとしてサミットに関与したウォーカー氏の話には、日本のアドベンチャートラベル推進と、旅行者の満足度向上につながる情報と多くのヒントが詰まっている。


▲富士山をバックに、参加者とともに。一番右がスルーガイドを務めたシャノン・ウォーカー氏

 

平均単価1人1日10万円のアドベンチャーツアーを提供するKODO Travel

プレ・サミット・アドベンチャーで提供された22のツアーのうち、「富士山」を中心に据えた、静岡のツアーを主催したKODO Travel(コドー合同会社)は、ニュージーランド出身のマイク・ハリス氏とシャノン・ウォーカー氏が2019年7月に設立したアドベンチャートラベルに特化したDMCだ。

アドベンチャートラベルのパイオニア的存在であるニュージーランド出身の2人。旅行・観光業に長年携わる中で、自然資源にあふれる日本に、欧米の富裕層を魅了する大きなポテンシャルを確信していた。日本の自然を生かしたアウトドアアクティビティ、そして、ハイエンド層向け旅行企画への深い知見とコネクションという2人の強みを合わせ、欧米豪のラグジュアリー層の受け皿として設立したのがKODO Travelである。

創業してほどなく、コロナ禍に見舞われたが、その期間を商品開発の準備期間にあて、2022年秋から本格的に再始動。現在は海外の旅行エージェンシーと組み、アメリカ、オーストラリアを中心とした海外の富裕層向けに2~3週間のオーダーメイドの旅程を組む。春と秋の季節をメインに、カップルやファミリーなどFITの旅行客を中心に月に2、3組ほどの手配と案内を手掛ける。受け入れ数は決して多くないが、1人あたりの1日平均単価は10万円程度。東京と京都、大阪など東西の拠点でそれぞれ数日間を過ごす旅行者に対して、その間に地方での特別な時間や体験を提供する。東京や関西からアクセスが良く、観光客にまだ知られていない群馬、長野、静岡、新潟などのエリアを中心に、四国、九州など幅広く案内している。

 

「富士山」を核に、地理や歴史、宗教など多様な視点でツアーを展開

KODO Travelが今回のプレ・サミット・アドベンチャーで主催した「Shizuoka-Mt. Fuji Hiking & Cycling Adventures, 6-Day Tour」は、メディアや旅行会社向けのファムツアーとして特別に準備したもの。集合場所の三島駅から、電車や車を併用しながらも、サイクリングを中心に伊豆半島を南下したのち、北上して静岡県側から富士山に登る6日間のツアーだ。

アドベンチャートラベル・ワールドサミットに向けて造成したこのツアーは、もともとは伊豆半島と富士登山という異なる2つの商品だった。それらを「富士山」をストーリー全体のテーマに据え、1つの物語として紡ぎ合わせた。

「まず、三島駅付近にある、富士山からの湧き水が出ているスポットを案内し、富士山の恵みを紹介します。それを皮切りに、伊豆半島の成り立ちと富士山の噴火、江戸時代に広まった富士講といったスピリチュアルなストーリーを、伊豆半島を巡るなかで展開します」
「そうした背景を理解したうえで最後のクライマックスとして富士山に登る、という形に仕立てた」と、ツアー全体が1つの物語であることを、ウォーカー氏は強調する。


▲伊豆半島北部伊豆の国市でサイクリング、体力レベルにバラつきがなく行程はスムーズに進んだ

ツアーの旅程表は以下の通りだ。

Shizuoka Adventure – The Majestic Home of Mount Fuji(5泊6日)

Day 1:三島駅に集合 → 修善寺(電車とEバイクでの移動)修善寺泊
Day 2:修善寺 → 天城山、河津七滝、石廊崎(車とEバイクでの移動)松崎町泊
Day 3:山伏トレイル(Eバイク)または、カヤックフィッシング → わさび園 → 富士宮(車での移動)富士宮にてテント泊
Day 4:浅間神社 → 富士登山 8合目にて山小屋泊
Day 5:8合目より富士山登頂 → 下山 → 自由時間 富士宮泊
Day 6:富士宮より新幹線で東京へ。空路で札幌へ

日本のシンボルでもある、富士山に登るとあって注目も集まり、定員8名に達した後も問い合わせが相次ぎ、サミット後にもう1回実施してほしいとリクエストが入るほど人気だった。

 

22ツアー中最安値、5泊6日で11万5千円という価格で提供できた理由

これほど注目を集めたこのツアーが誕生したきっかけは、2019年、静岡県観光協会の招聘に応じてウォーカー氏が参加したファムツアーに遡る。KODO Travelでは、サステナビリティをコアバリューに掲げているが、ウォーカー氏によると「個人的にも大好きな伊豆半島をこのファムツアーで巡った際、サステナビリティの視点からも素晴らしいガイドやオペレーターとの出会いがあった」という。この経験が発端となってKODO Travelで商品を造成し販売していたのが前半の伊豆半島のツアー、そして後半に、エコキャンプと富士登山という別のプランを組み合わせた。アドベンチャートラベルの旅行会社やメディア向けのファムツアーとして、コンテンツを盛り込んだが、旅行客に対しては、別個の商品として販売する想定だという。


▲伊豆半島の中ほどにある河津七滝の1つ蛇滝

参加費用は11万5,000円と、全22コースの中最安で提供された。静岡の魅力を海外の旅行会社やメディアに訴求する良い機会として、静岡県観光協会からの補助をはじめ、ガイド、宿泊施設、ツアーオペレーターからも特別対応してもらったことが、価格を抑えられた大きな要因だという。なお、ファムツアーとして位置付けたため、自身のガイドフィーも載せていない。「実際にこの内容を販売するとなると30万円前後」とウォーカー氏は話す。

これまで海外でのアドベンチャートラベル・ワールドサミットで行われたツアーでは、行政のみならず、民間事業者が支援を申し出てくれるケースも多く、地元のホテルが割引料金や、場合によっては無料で宿泊を提供してくれることもあるという。地域全体で旅行者を呼び込もうという積極的な姿勢が感じられる。

 

外国人になじみのない日本の歴史を、分かりやすく解説するポイントとは?

今回ツアーに参加した8名は、アメリカ、カナダ、フランス、チリ、アルゼンチンなど世界各国から集まったが、訪日経験者は2名で、残りのメンバーは初訪日。日本についてほぼ知識ゼロの参加者に、クライマックスとなる後半の富士登山に向けて、ツアー全体を1つの物語として盛り上げていく。ガイドの腕の見せ所だ。

ただし、物語るうえで悩ましいのが、日本の歴史に詳しくない外国人を相手にいかに興味をもってもらうか、だ。たとえば初日、徳川家康について言及する場面でのこと。欧米の参加者たちは、将軍(Shogun)という言葉なら耳にしたことはあっても、日本の歴史上の人物となるとなじみがない。徳川家康と聞いてもピンと来なければ名前を覚えることも難しい。そんな彼らに対し、この日特別にウォーカー氏に同行した、静岡在住の観光戦略アドバイザーであるトニー・エバレット氏はこう語りかけた。「江戸は今現在の東京ですから、彼にはMr. Tokyoという名前をつけましょう。Mr. Tokyoのおかげでこうなりました」といった具合に家康の功績を説明した。歴史背景の知識のない外国人の頭にもすんなり入る、秀逸なガイディングだ。


▲1日目の旅館では夕食に懐石料理と芸者の余興を楽しんだ

 

悪天候に備えた準備と、的確な判断、柔軟な対応が参加者の満足度高める

伊豆半島内でサイクリングやカヤックフィッシングなどのアクティビティを終え、後半がハイライトとなる富士登山。参加者に行ったアンケートでも、一番よかったアクティビティとして半数以上が富士登山を挙げた。しかし、実のところ、後半は台風の影響に見舞われ、予定通りの行程を実施できなかった。それでも参加者の満足度は非常に高かった。その理由はなぜか。

アドベンチャートラベルを成功に導く重要なカギは、天候に左右されるアクティビティに対して、プランB、C、Dといった代替プランをいかに持ち合わせているか、そして、その状況に応じて、安全、かつ、柔軟に対応するスキルと判断力を持ち合わせているか、である。ウォーカー氏が今回のツアーで最も心配したのは、雨が降った場合のEバイクでの走行だ。

「アドベンチャートラベラーは雨が降れば雨具を着て対応しますし、そもそもアドベンチャーなので、特に海外の人は雨をさほど気にしません。しかし、楽しみは半減ですし、何よりも安全面で心配です。雨が降り、サイクリングを断念しなければならない場合、すぐに車に乗れるような態勢を整えていましたし、その場合の代替プランとしては、屋内での博物館見学を考えていました」

実際は、運よく、バイクでの移動のタイミングに大雨に降られることはなかったが、後半の富士登山は一部、予定の変更を余儀なくされた。3日目の晩は、バーベキューは予定通り決行したものの、安全を優先して、テントから施設内での宿泊に切り替えた。4日目はまさに台風と重なり、富士山8合目の山小屋での宿泊は取りやめ、3日目と同じ宿に延泊した。


▲富士山から下山したあと、バーベキューのあとに語り合う参加者たち

台風一過の5日目の朝、晴天に恵まれた。本来は真夜中に山小屋を出発し、ご来光を目指して頂上に向かうはずだったが、朝に5合目から登り始め、昼前に登頂した。4日目に予定していた地元ガイドは、5日目は先約があったため一緒に登ることは叶わなかった。しかし、台風の影響下にあっても、要所で安全かつ臨機応変な対応を即座にとれたことと、予定されていたコンテンツはほぼすべて行えたという点も、最終的に高い満足度につながった。


▲富士山の頂上で。5日目の朝、富士宮口5合目から登頂した

 

地域の事業者のビジネス継続への貢献が、持続可能な観光への評価に

KODO Travelがコアバリューに掲げる「サステナブルな取り組み」に関しては、参加者はどう評価しただろうか。富士山でのオーバーツーリズムの深刻化については、参加者も認識し、気に掛けていた。ただ、今回のツアーでは、最も人が集中する吉田ルートでなく富士宮ルートから登頂を計画するなど、観光客が比較的少ないルートを選んだことに、参加者から評価の声があがった。

ツアーでは有機わさびを栽培している地域のわさび園にも訪れた。参加者からのアンケートでは、まだ旅行者に発見されていない場所にも満足感が示された。「サステナビリティとはプラスチックの削減といった環境問題に限りません。地域の人たちがいかに継続してビジネスできるか、それこそがサステナブルツーリズムにとって大切なこと」と話すウォーカー氏の思いと同じく、地域の小規模企業の利用や、地元のコミュニティとのつながりにサステナブルな取り組みを感じたと評価した参加者もいた。


▲富士宮市でエコツーリズムを営む代表の新谷雅徳氏(写真中央)とスタッフとともに

 

サミットでのネットワークを今後につなげ、世界の旅行者を日本の地方へ

体験ツアーのガイドを終えたウォーカー氏は、その後サミット本大会にも参加した。これまでにも、世界各地で商談会に参加した経験をもつウォーカー氏は、それらとアドベンチャートラベル・ワールドサミットでの様子を比較して、大会はとてもフレンドリーだったという。

「よくある商談会は、10分間で次から次へとなるべく大勢と話をするお見合い形式が多いです。それに比べると、アドベンチャートラベル・ワールドサミットでは、自分が話したい人がいれば積極的にアプローチしたり、会場の外に場所を移して、札幌のナイトライフを楽しんだりしながら交流しました。リラックスして、すぐに友達になってしまう雰囲気があり、サプライヤー同士も仲良くなったり、この人と話したらいいよと、と知り合いを紹介してもらうこともありました」

参加者同士がそうして気兼ねなくネットワークを築けるせいもあってか、サミットが閉幕したあとも、WhatsApp(SNS)を通じて参加者たちの間でメッセージが飛び交ったという。メディアやATTA(Adventure Travel Trade Association)のメンバーを中心に、多くの参加者は北海道でのオフィシャルポストツアーに参加したり、せっかく日本に来たからと、個人で九州や沖縄まで回ったり、美術館を巡ったりと、サミット後もしばらく日本に滞在していたそうだ。

2022年秋に日本の入国規制が撤廃されて1年がたったいま、KODO Travelへの依頼の数はすべてに対応できないほど殺到していると言う。アドベンチャートラベルの課題としては、スルーガイドができる人材不足が指摘されている。さらに、知名度がないあらたな地域での商品開発、販売も求められている。KODO Travelが得意とし、今後さらに力を入れていきたいのがそうした地方への送客だ。ウォーカー氏はその実現のために、「これまでの、そして、あらたにサミットで築いたネットワークの中から、自分たちと同じような価値観をもったエージェントと長期的にいい関係を保ちながら、単価の高いお客様を中心に、少人数での送客からでも始めたい」と、今後への意気込みを語っている。


▲富士山の雪解け水が湧きだす富士宮市 白糸の滝で

北海道でのアドベンチャートラベル・ワールドサミットが終了し、日本のアドベンチャートラベルへの認知と期待は高まっている。世界のアドベンチャートラベラーたちが日本に送る熱い視線に応えるべく、今回話を伺ったKODO Travelをはじめ、日本のアドベンチャートラベルを支える多くのプレイヤーたちの活躍に期待したい。

(写真提供:KODO Travel コドー合同会社)

文:堀岡三佐子