タビナカ市場最前線、国際会議「ARIVAL360」で見つけた日本のアクティビティ市場活性化のヒント
2024.10.25
「日本の観光をリードし、文化を次世代につなぐ」
今回、タビナカの国際会議「ARIVAL360」と、それに合わせて開催されたTripadvisorグループViatorのイベント「ignite with Viator」に参加してきました。
前身となる株式会社ノットワールドでツアー事業を始めて10年経ち、今回がはじめての参加でした。会議の参加費用や旅費交通費を考えるとそれなりの投資にはなるものの、ツアー事業Japan Wonder Travel、および着物レンタル事業Wargoの事業成長のために必要な情報やネットワークが得られるのでは、と期待して参加を決意しました。
結論から言うと、とても有益な機会になりました。日本でタビナカの取組が活性化するなか、日本からの事業者の参加はまだまだ限定的でしたので、今後参加を検討する方や参加できなかった事業者に情報を提供できればと思い、現地レポートをお届けします。
旅ナカの最前線、世界中のアクティビティ関係者が集う国際イベント
ARIVALとは、体験・日帰りツアー等の現地アクティビティに特化した国際会議で、毎回、場所を変えて開催されます。アクティビティ事業者に加え、Viator、GetYourGuide、Klook等のグローバルOTA事業者、旅ナカ向けシステムを提供するテック企業、マーケティング事業者等、世界中のアクティビティ事業者が一堂に会する最新動向の収集とネットワーキングの場となっています。
過去にも参加経験のある方に話を聞いたところ、ARIVAL360は参加者1000人規模のイベントで、もう1つ、ARIVAL Activateという200人等の小規模のイベントもあるとのことでした。
また、ARIVALの開催に合わせて今回初めて開催されたignite with Viatorは、Viatorの最近の動向や、スタッフによる1on1セッション、セミナー等、Viatorを通じて事業を成長させていくために必要な情報を得られるいい機会でした。
両イベント共に、各事業者の今後の打ち手に対する示唆を得られる機会を提供する場となっており、多くのコンテンツが会期中にわたって提供される中、各自が自由に自分の気になるセッションを選んで参加したり、参加者とのミーティングをセットして情報交換したりしていました。
新たな視点を得て事業成長につなげる、ARIVALに参加した3つの理由
冒頭で、今回の参加理由を「ツアー事業Japan Wonder Travel、および着物レンタル事業Wargoの事業成長のために必要な情報やネットワークが得られるのでは」と書きましたが、もう少し補足したいと思います。大きくは3つあります。
1つは、旅ナカOTAとのネットワークを強化したいということでした。OTAというと、担当者の顔が見えにくいかもしれないですが、OTAを通じて多くのゲストを受け入れていくことを考えると、内部の人からの情報はとても貴重になってきます。「どういうツアーが人気か」「どうすればより上位に表示されるのか」といったことは試行錯誤の中で見えてくることもありますが、情報交換ができると、より早く高い精度でPDCAを回すことができます。
大手のOTAは既に日本にオフィスもあり、担当者とも良好な関係を築いていますが、グローバル企業でもあり、接点が増えるほど機会も増えると感じており、そうした機会につながればと考えていました。
もう1つは、多様な最新の情報に触れることです。登壇する事業者の話もそうですが、海外のアクティビティ事業者がどのような集客をしているのか等の情報を得られると、日本でまだ有名ではないOTAの存在等を知ることができ、新たなチャネルの開拓につながるかもしれません。
チャネルの開拓も含め、最新の情報に触れていくことが事業の成長にもつながっていきます。日本の事業者間での情報共有も大事ですが、競合でもあるため、どうしても制約がかかる部分もあります。一方、海外の事業者であれば、直接競合関係でもないため、どう集客しているかもより気軽に情報交換が可能です。
そして、最後の理由は、GetYourGuide日本オフィス代表仁科さんの話を聞いたからです。 ARIVALは、タビナカマーケットにおける存在感があるイベントであり、「旅先としての日本は盛り上がっているのに、日本の事業者が国際的なイベントやネットワーキングの場にほぼ来ないのが課題」「参加してみるといい」と言われ、それが「日本の観光をリードする」を掲げている身として参加を決めた一因でした。
ツアーの見せ方やAI活用 M&Aなど多彩なコンテンツ満載のイベントの中身
次に提供されたプログラムや参加方法について、イベントごとに紹介します。
専用サイト・アプリ内でのセッション選択やミーティングの設定
参加方法ですが、ARIVALもignite with Viatorも専用サイトとSwapcardというアプリを活用して、プログラム管理が行われていました。全てのプログラムを一覧で見ることができ、興味があるものに参加を申し込むという形です。ただ、厳格に入り口でチェックしているわけではないので、「満席」となっていてもそのプログラムに参加できるような緩い運用でした。
またプログラムの参加者一覧もそのアプリから見ることができるので、特定の会社の人に会いたければ検索して事前にミーティングの依頼を送ることができました。自分のスケジュールだけを一覧化することも、PCからGoogleカレンダーに同期させることもできるのでとても便利でした。
ただ、いつの間にか開始時間が変わっていたり、プログラムがキャンセルになっていることもあり、開始時間も普通に10分、15分遅れたり、終了時間も大きく押したり、とスケジュールに対する感覚でも、日本と欧米の感覚の違いを感じた一面はありました。
ignite with Viator:9月29日-9月30日
9月29日は、夜にWelcome Receptionという前夜祭が行われ、各種のプログラムが実施されたのは9月30日でした。
Welcome Receptionは、はじめての海外でのイベント参加だったので緊張もありましたが、日本からの参加事業者の方も数名いましたし、日本のViator社の担当者からグローバルなメンバーも紹介され、有意義な時間を過ごすことができました。
9月30日は朝のKeynote Sessionから1時間弱単位でさまざまなプログラムが目白押し。同時並行で3つくらいのプログラムが進んでいたので、選ぶのも大変でした。ちなみに僕が参加したプログラムは下記のとおりです。
・Keynote Session/基調講演
・How Our Distribution Network Powers Your Growth Understanding Our Distribution ・Network/Viatorの流通ネットワークが成長を支える仕組み
・Elevating Your Listing: Storytelling, Journeys and Relatability/リスティングを向上させる方法:ストーリーテリング、体験、共感性
・1:1 Session/1on1セッション
・How Viator Leverages Influencers/Viatorがインフルエンサーを活用する方法
・New Products: Strategies For Successful Launches/新商品:成功するための発売戦略
・Pricing Strategies For Success In Any Market/あらゆる市場で成功するための価格戦略
・Closing Remarks/閉会の挨拶
▲Arival360と同時開催されたタビナカOTA Viatorによるignite with Viator
学生時代を含め、最も多くの情報をインプットした一日になった気がします。しかも、慣れない英語ということもあり、日本語に比べると吸収量は半分ながらも疲労度は倍でした。
前夜祭を経て、知った顔の人も増え、何度も会うことで、より距離が狭まる、というのは複数日にわたるイベントの良いところです。
ARIVAL @ San Diego:9月30日-10月3日
ARIVALは、ignite with Viatorとオーバーラップする形で始まります。30日から初回参加者向けセッション等がありましたが、ignite with Viatorと重複していたため参加できず、夜のWelcome Partyからのスタートとなりました。(毎日がParty……!)
初対面の人が大勢いる場所は得意ではないのですが、コミュニケーションお化けみたいな海外の方も多く、はじめてでも楽しむことができました。海外に住んでいる日本の方や、外国の方で日本語が話せる方がいたりするのも印象的でした。
▲Welcome Partyの様子
ARIVALも、10月1日からセッションが目白押し。数百人が入るメイン会場と数十人単位で行われる分科会セッションで数多くのプログラムが提供されます。また、スポンサーがブースを構えているので、気になるところに聞きに行くことも、Swapcardを通じてアポをとって訪問することもできました。
個人的には、「気になるセッション・会いたい人が登壇するセッションに参加する」「事業の成長につながりそうな人に会いに行く」「アポの連絡を貰った人と話す」といった過ごし方をしていました。
プログラムの内容はignite with Viatorと重複するものがあったのですが、「どう商品を目立たせるか」といった王道のテーマに加えて、「AIをどう活用するか」や、「アクティビティ領域におけるM&A」というテーマがあったのも、時代の流れや業界の成熟度を感じさせるものでした。
▲会期中は数多くのセッションが開催された
また、Netflixの方によるセッションもあり、アクティビティという枠ではなく、広く時間の使い方・UXという中で、どうゲストにアプローチしていく必要があるかも考えさせられるきっかけになりました。
膨大な量となったプログラムの詳細についてはARIVAL360の公式HPを参照いただければと思います。
プログラムを通して痛感した、ゲスト目線と基本を押さえることの重要性
Netflixのセッションの中で「Netflixを見ている人?」と投げかけられたら、ほぼ全ての人が手をあげていました。ゲストと同じ目線で会話する上で、そうしたゲストの「普通」を知っておくことって大事だな、と改めて感じたり、日本では若手向けのイメージの強いTikTokがいろんなセッションで取り上げられていて、位置づけが日本と違いそうなのを感じたりと、そうした今の世界の状況に触れられることは1つのいい機会でした。
また、欧米系の参加者が多かった中で、日本とは違うノリを体感することも、特に欧米豪向けに体験プログラムを提供する事業者には大事だと思います。言語化しづらいですが、日本とは違う空気感を、事業者だけではなく、ガイドも知ると、進行のレベルが一歩あがる気がします。
そして、一番学んだことは、良くも悪くも、飛び道具はない、ということでした。さまざまなプログラムに参加しましたが、どのプログラムでも事業を成長させるためには、「感情に働きかける方法」や「『タイトル』『写真』『ハイライト』『何が含まれるか』をしっかり表現すること」という話が出てきました。
既に多くを試みている人からすれば、「知っているよ」という話ですが、やはりもうそこに取り組んでいくしかないよね、というのを受け止める機会にもなりました。ゲスト目線で改めて体験を磨いていこうと思います。
日本のタビナカ市場を盛り上げるために必要なこと
繰り返しになりますが、事前に「旅先としての日本は盛り上がっているのに、日本の事業者がこうした国際会議やイベントの場にほぼ来ない」とは聞いていました。
セッションの中でも、複数プログラムで日本に触れられることがあり、目的地としての日本の注目度の高さは間違いないものかと思います。Viatorで、この1年に一番多くの体験プログラムが造成されたのは東京とのことでした。
日本から遠い地での開催で、かつ、他のアジアの国からの参加者はほとんど見かけなかったので、日本から数社でも参加していたのは良かったのかなとも思いながら、海外の事業者が日本で事業を拡大していきたいと考えているという話も聞き、色々考えさせられるものがありました。
「集客」が大きな力を持つ中で、日本の事業者も外に出ていってさまざまな知見を吸収して成長していかないと、ゲストに近い海外の事業者による日本体験プログラムが主流になっていく可能性も大いにあります。
日本のタビナカのさらなる活性化に向けて、感じたことを2つ記して、今回のレポートをしめたいと思います。
1.ARIVALのような国際会議に足を運ぶ
こうしたグローバルなネットワーキングは、日本の事業者の目線を引き上げていく上でもとても大切になってきます。旅費も含めると費用は確かに安くはないですし、何度も参加していると新しく得られる情報が減ってくる面はあるとも思うのですが、不定期でもこうした場に顔を出す事業者が増えていくことは日本のタビナカの活性化にもつながっていくと思います!
個人的には、事業立ち上げて2、3年目の事業者にとって一番学びが大きいのでは、と感じました。
僕自身も今回は1人の参加者で、日本のプレゼンス向上に貢献できているわけではなかったのですが、日本からも登壇者が出てくるとより存在感も増していくと思います。まずは語学の壁を感じたので、今日から精進していきます。
▲会場内で、活発な意見交換や商談がおこなわれていた
2.国内で情報共有・ネットワークの場を創る
僕たちも日本全国でツアーの造成やOTAの利活用、ガイドの育成等、タビナカ事業者の支援を行っています。そうした現状を踏まえると、もちろんARIVALのような機会も大事なのですが、全てが英語で行われるので、今の日本の事業者にとってはハードルが高いと感じたのも事実です。また、グローバルなサービスを、日本語のサポートなしに活用できるかというと難しい面もあります。そのため、こうしたイベントの良さを日本に最適化して実施できないかと思いました。
日本で事業展開しているOTAや旅行テック企業、マーケティング企業をはじめ、日本全国のタビナカ事業者を対象にしたイベントを開催できれば、日本のタビナカビジネスの底上げにつながるのではないでしょうか。競合を増やすようなので控えたい気持ちもあるのですが、日本のタビナカ市場は、情報共有とネットワークの強化で一気に成長を加速化させることができるフェーズにあると思います。
ARIVALはスポンサーに加え、各参加者も1000ドルを超える参加費を負担して成り立っているので、日本でやる時にどうやってその費用を捻出するかというのは大きな課題ではありますが、形にしていける方法を模索したいところです。
一案として、観光庁が数年続けているコンテンツ造成支援する事業の一部予算を活用することで、結果的により全体最適・活性化を図れるのではとも考えています。是非一緒に日本の観光を盛り上げていきましょう。
▲ignite with Viatorの参加メンバーと
プロフィール:
株式会社羅針盤代表取締役 佐々木文人
1983年生まれ。東京大学経済学部卒業。損害保険ジャパン、ボストン・コンサルティング・グループを経て、1年間の世界一周新婚旅行に出る。帰国後、東京・京都を中心とした訪日外国人向けのフードツアーやプライベートツアーを運営する株式会社ノットワールドを創業。合併に伴い、2023年に株式会社羅針盤代表取締役に就任。