中国人の海外旅行需要、旅行会社の77%が「増加」と回答 若年層・MICE・AIに商機
2026.09.10
世界の旅行市場が地政学的緊張や燃料費上昇などの影響を受けるなか、中国の海外旅行市場では底堅い需要が続いている。中国市場に特化したマーケティング企業ドラゴン・トレイル・インターナショナルが、中国本土で海外旅行商品を販売する旅行業界関係者310人を対象に、2026年6月15~26日に行ったオンライン調査の結果をまとめた。2026年上半期の市場動向に加え、下半期の旅行動向、MICE、AI活用について調べたもので、中国人の海外旅行需要の拡大とともに、若年層や小規模・プライベートツアー、MICEにおける体験型コンテンツなどに成長機会があることが明らかになった。
中国人の海外旅行需要は拡大基調を維持
2026年上半期の中国人の海外旅行需要について、回答した旅行会社のうち77%が、前年同期と比べて需要が増加したと答えた。内訳は「大幅に増加」が21%、「やや増加」が56%で、「前年同期と同程度」は13%だった。一方、「やや減少」は8%、「大幅に減少」は2%にとどまる。
2026年は中東情勢による空域閉鎖や渡航勧告、燃料価格上昇に加え、2025年末の外交問題を背景とした中国-日本間の航空便減少など、海外旅行を取り巻く環境には逆風があった。それでも旅行会社の回答からは、中国人の海外旅行需要が拡大基調を維持していることがうかがえる。
地域別ではアジアが引き続き中心で、回答者の90%がアジア旅行商品を販売し、80%が売れ筋地域に挙げた。なかでも東アジアは商品販売率68%、売れ筋回答率48%で首位。東南アジアがそれぞれ62%、40%で続いた。
一方、欧州商品を販売する旅行会社も70%に上り、34%が売れ筋地域として回答している。特に西欧は、欧州のなかで商品販売率、販売実績ともに最も高かった。
注目の旅行先はタイ、日本は16%で2位を維持
2026年の「最も注目すべき海外旅行先」を尋ねたところ、タイが19%で1位、日本が16%で2位、韓国が13%で3位となった。続いてシンガポールと米国が各7%、アイスランドとモルディブが各5%となっている。
旅行先が注目される理由では、「自然景観」が22%で最多。「市場需要の拡大」19%、「距離の近さ・交通の利便性」17%、「コストパフォーマンス・価格優位性」と「文化・人的体験」が各14%、「ビザの利便性」が12%だった。
日本は中国との外交関係や航空便の供給減といった影響があるものの、依然として旅行会社から高い需要があると評価されている。日本について具体的に挙げられた強みを見ると、自然景観、近距離・交通利便性、価格優位性、文化体験など多岐にわたる。また「為替レートの優位性」に関連する旅行先としては、日本が最も多く挙げられた。
18~35歳が成長市場、小規模・プライベートツアーも拡大
今後の市場を考えるうえで注目されるのが若年層だ。2026年上半期の主要顧客層について、51%が18~35歳の若年旅行者を挙げ、47%が「最も成長している層」と回答した。
都市別では、中国の都市等級で上位に位置する一線都市(北京、上海など)・二線都市の旅行者を主要顧客とする回答が53%、最も成長している層とする回答が40%だった。一方、三線都市以下を最も成長している市場とした回答は6%にとどまった。
このほか、富裕層は主要顧客層として28%、成長層として26%。シニア旅行者はいずれも23%となり、若年層の47%を大きく下回った。
旅行商品の変化も鮮明だ。「カスタマイズ・ラグジュアリー旅行」は59%の旅行会社が販売しており、33%が最も成長している商品に挙げた。「小規模・プライベートツアー」は販売率55%で、37%が最も成長している商品として回答し、全カテゴリーで最多となった。従来型パッケージツアーも51%が扱うものの、最も成長している商品として挙げた割合は23%にとどまった。
中国MICEは「安全性」重視、体験・ウェルネス需要が拡大へ
今回の調査では、中国企業の海外MICE市場についても詳しく分析している。過去2年間に企業の海外団体旅行を扱った旅行会社302社に旅行先選定で重要な要素を聞くと、「旅行先の安全性・安定性」が47%でトップとなった。「総費用・コストパフォーマンス」43%、「ビザの利便性」39%、「旅行先としての魅力」34%が続いた。会場の収容力・施設品質と、旅行先ならではの体験は各33%だった。
今後3年間の需要については、「カスタマイズされた没入型体験」が増えるとの回答が86%、「ウェルネス・ウェルビーイング体験」が85%に達した。デジタル化・テクノロジー活用も82%、出張とレジャーを組み合わせる「ブリージャー」も81%が増加を予想する。
海外の旅行先に求める支援では、「ビザ取得の円滑化」と「現地サプライヤー・パートナーとのマッチング」がともに61%で最多となった。プロモーションだけではなく、商談から商品造成、送客につなげる実務面での支援が重視されていることがわかる。
中国旅行会社のAI利用率99%、1年で17ポイント上昇
中国の旅行業界ではAI導入も急速に進んでいる。AIを何らかの形で導入している旅行会社は99%に達し、2025年夏の82%から17ポイント上昇した。25%は複数の業務領域で広く導入し、46%は一部の業務領域で利用している。さらに89%が、今後12カ月でAI利用が増えると予想した。
現在の用途は「ホテル・航空便など旅行情報の収集・管理」と「翻訳・多言語対応」がともに50%で最多。AIを活用したカスタマーサービスとコンテンツ制作が各48%、データ分析・レポートが46%、旅程作成と画像・動画生成が各45%で続く。
今後AIに最も期待する分野は「よりパーソナライズされた顧客体験」で53%だった。一方、導入上の課題では「データセキュリティ・プライバシーへの懸念」が63%で最多となり、「生成コンテンツの精度・専門性の不足」も59%に上った。パーソナライズへの期待が高まる一方、顧客データの活用には課題が残る。
【編集部コメント】
若年層・MICE・AIがカギ 変化する中国市場と日本の成長機会
今回の調査からは、中国人の海外旅行市場が外部環境の影響を受けながらも成長を続け、需要の中身が変化していることが見えてくる。日本市場にとっては、近距離という地理的優位性に加え、自然、文化、為替面など複数の強みが評価されている。一方で、若年層や小規模旅行への対応、MICEで求められる独自体験やウェルネス、旅行会社の商品造成を後押しする現地事業者との連携など、具体的な受入環境を整えていくことが今後の需要獲得のポイントとなりそうだ。
(出典:Dragon Trail Research, Chinese Outbound Travel Trade Survey)
