町と宿をつなぐ「まちやど」が人を呼ぶ、地域活性化の新しい仕組み
2019.02.27
前回は、豊島区の椎名町にある「シーナと一平」の地域ぐるみでの「場」づくりについてご紹介した。日本には少しずつこのような取り組みを行っている「まちやど」が増えてきている。それらをいくつかご紹介しよう。
リノベーションスクールの発祥の地北九州市のまち宿
「シーナと一平」のきっかとなったリノベーションスクールだが、もともとは北九州市で2011年に始まり、2014年には「TANGA table」という宿プロジェクトが始まっている。日本まちやど協会に登録されていて、現在も外国人客に人気の宿だ。
その宿がある一角は、旦過(たんが)市場と呼ばれ、神嶽(かんたけ)川に張り出すように存在している。その川の反対側のビルの4階ワンフロア230坪に「TANGA table」ができた。小倉がある北九州市は、旅の最終目的地というには観光資源があまりないが、宿から歩くと、お店も多く、夜中の2、3時でも楽しめるお店がある。北九州を味わう旅の始まりをコンセプトにして、この町の安くておいしい食のコンテンツ、商売しているおじさんとも出会える。そんなまちを体験できる宿として売り出したところ、LCCを利用して韓国から観光客がやって来るようになった。
観光客がV字回復している熱海にもまち宿がある!
熱海にあるまち宿は、「MARUYA」という、地元でまちづくりを推進している市来広一郎氏が3年前に開業したゲストハウス。まちとつながる宿を目指しており、ゲストハウスの向かいにある魚の干物屋さんで魚を買ってきて宿で焼いて食べる、という宿泊者もいるそうだ。宿はご飯と味噌汁を提供するのみ。このように宿泊者は必然的に町に出ていき、地域とつながっていくようになっている。
2011年に熱海にUターンした市来氏が最初に始めたのは、地元の人に向けた熱海のファンづくりだった。地元の人のためのツアーをつくったことで、町の再発見をする良い機会となったそうだ。そのとき、自分自身が泊まりたい宿がないことを課題に感じ、ゲストハウス開業に至った。
現在の宿泊客は、圧倒的に日本人が多く、8:2の比率だという。3月、5月、7~9月と行楽シーズンが人気とのこと。外国人観光客は、台湾や韓国の方が多く、その他にも東南アジア、ヨーロッパ、アメリカなど幅広い。熱海という立地もあり、東京から京都に行く途中で立ち寄るケースが多いが、東京から近い海辺のまちということで訪れるケースもあると話す。
地域を巻き込んだ活動としては、会議体、プロモーション、アプリサービスがあるという。飲食店や温泉施設、ショップなどをゲストに紹介しているが、日ごろからそれらの店舗とはFace to Faceのコミュニケーションを心がけているそうだ。
これまでは特にインバウンドに特化して力を入れていることはなく、日本人外国人問わず、街と触れ合えるように案内しているそうだ。
熱海の街全体としても、インバウンドに特に力は入れていないが、今後、宿としてはインバウンドにも力を入れていきたいと考えているそうだ。外国人向けのアクティビティやガイド付きのまち案内なども含め、熱海や日本の文化を知ってもらえる取り組みなど、現場で試行錯誤していきたいと、今後の抱負を語る。
品川宿は地域のおかげで開業できたと初心を忘れない
都内の地域宿として長く人気なのが、北品川にある「ゲストハウス品川宿」だ。
「ゲストハウス品川宿」の立ち上げから運営において、地域コミュニティーとの連携によって今があると、宿を運営する宿場JAPANの代表・渡邊崇志氏は言う。同氏は品川育ちではないが、旧東海道品川宿周辺まちづくり協議会の応援がのおかげで宿の開業が実現したことを、とても感謝しているそうだ。
まちづくり協議会の堀江新三会長は、品川の旧東海道沿いで江戸時代から続くお店を営む老舗の社長で「品川は江戸ではない、宿場町だ」というDNAを受け継ぎ、外から入ってくる新しい人・ものを受け入れる寛容さを持っている。よそ者の若い人材の面倒見も良く、様々なサポートしてきた。
ところで、「ゲストハウス品川宿」は、テレビ等、多くのメディアでも取り上げられ、東京のゲストハウスのトップランナーとしても走り続けている。外国人観光客が北品川界隈に増えたことで新しい風が吹き、個性的なカフェも増えてきた。品川宿には喫茶コーナーがないので、そのような魅力的なお店を紹介している。また外国人客だけではなく、地元のお客さんも多く、地域にこのような可愛らしいお店があるのが嬉しいという声もあるそうだ。
活性化しつつあるこの町が気に入って引っ越してきた若い人たちもいる。
地域に関わる人材育成に品川宿では力を入れる
そんな渡邊氏がここ最近力を入れているのが「人材育成」だという。宿屋開業のノウハウ、運営のノウハウ、さらに近隣との付き合い方のノウハウなど、これまでの経験を体系化させた人材プログラムで、3年間をひとつの単位としている。
半年間、北品川のゲストハウスで働きながら宿の運営について学び、一定期間は給料ももらえる。その後、宿を立ち上げる地域に移り、物件を探しながら地域の活動に参加する。物件が見つかり、宿の運営が始まってもしばらくは仮免許というスタンスで、渡邊氏が定期的に指導にあたる。実際に渡邊氏が関われるのは年間10軒程度で、その他は徐々に増えてきた品川宿の卒業生にフォローしてもらっている。
品川宿の人材プログラムに応募する人は、出身地や地方で宿をやりたい人、まちづくりをしたいという人がほとんどだ。品川宿ではコミュニケーションスキルを磨いてもらっている。地方の自治体からも相談が入り、地域と来訪者の交流を意図したゲストハウスを立案・運営するノウハウを身につけるための、若い人材育成を担う話もあるそうだ。
このように、まち宿が地域を活性化する仕組みとして、注目が高まっているのは確かだろう。今後どのように成長していくのか楽しみだ。
(了)