インバウンド特集レポート

2019.02.25

世界に広がる新しい宿のスタイル、町ぐるみで宿泊客をもてなす「まちやど」が日本にも浸透

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これまでの宿は、寝室だけでなく、食事・喫茶・お風呂・観光案内といった様々な機能を持ち合わせているのが一般的だった。しかし、外国人旅行客が増えたこともあり、その傾向は変わりつつある。海外では、食事なしの素泊まりというケースも多く、外国人旅行客も、近隣の飲食店で食事をしてみたいというニーズが高い。インバウンドの老舗旅館、東京・谷中にある「澤の屋旅館」では、もともとあった食堂をいち早くやめ、作成した近隣マップを基に、外部のレストランに案内するようになった。これまでのように、宿がすべてを囲い込む時代は終わり、地域全体で旅行者を受け入れようという流れに変わりつつある。(執筆:此松タケヒコ)

 

旭川の高級ホテルが町との架け橋のホテルに大変身!

今年1月、旭川駅に近いOMO7(オモセブン)というホテルに泊まった。以前は、旭川市の迎賓館とも言われ、格式の高い「旭川グランドホテル」という高級宿だった。

昨年、経営が変わり、星野リゾートが運営をするようになった。カジュアルな都市型観光がテーマで、東京都内の大塚にあるOMO5(オモファイブ)と同じコンセプト。エリアの魅力を伝え、実際に地域を回遊してもらうことを狙っている。オモレンジャーと呼ばれる地域コンシェルジュがホテル周辺を案内し、ガイドブックには載っていないディープなお店も紹介する。一方、以前高級宿だったときにあった飲食店やショップは絞られ、最上階にあったバーラウンジは廃止されていた。まさに、時代が宿泊客を囲い込むという考え方から転換したことを実感した。

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「まちやど」という概念が世界中で広がっている

日本だけではなく、海外でもこのように地域全体で楽しんでもらおうという動きがある。そういった事情について、一般社団法人日本まちやど協会の代表理事である宮崎晃吉氏に話をうかがった。

宮崎氏によると、そもそも「まちやど」とは、街を一つの宿と見立て、宿泊施設と地域の日常をネットワークで繋ぎ、街ぐるみで宿泊客をもてなすことだという。まさに新しい街のコンシェルジュ機能ともいえる。特に海外から来たお客さまは、地域の日常的なことを体験できる。例えば、夕食を宿ではなく街中でしてもらうことで、地域にお金が落ちて、地域内経済が循環するメリットもあるという。

地域の日常が大切という考え方から、更にその価値を向上させるべく、共感する人たちを招いて交流し、その上で地域の経済活動が活発になることを目指す。

同協会の活動内容は、このコンセプトを普及させる事業と地域再生事業の2つがある。参考事例としては、イタリアのアルベルゴ・ディッフーゾがある。イタリア語で「分散した宿」という意味を持ち、誰も住んでいない空き家を活用して地域活性化を目指すべく、観光客を呼び込もうと、90年代から始まった運動のことを指す。これまでの建物一つに完結していたレセプション、ロビー、客室、朝食ルーム、レストランなどのサービス空間を街全体に分散させた宿泊施設形態の一つだ。

このようにヨーロッパでは、観光スタイルが新しい潮流に変化しつつある。

昨年、デンマークのコペンハーゲンでは、観光振興のコンセプトとして「エンド・オブ・ツーリズム」を掲げ、これまでの観光だけの時代は終わると宣言をした。具体的には、外から旅行者を呼んで外貨を稼ぐことにのみ主眼を置くことはやめ、旅行者がローカルの人々と深いコミュニケーションをとり、本質的に理解し合える取り組みを目指すというものだ。今、スペインでもその傾向があると宮崎氏は言う。

日本でもオーバーツーリズムが社会問題になりつつあり、日本まちやど協会でも、新しい観光のあり方を模索しているところだという。

 

日本まちやど協会が2017年に立ち上がる

宮崎氏が同協会を立ち上げるきっかけとなったのは、自身が2015年に千駄木に開業した、古民家を改修した宿「hanare」だった。建築家でもある宮崎氏は宿の設計過程で全国をリサーチした。コンセプトを固めるために、先進的な取り組みをしている香川県仏生山(ぶっしょうざん)温泉のまちぐるみ旅館に行き、話を聞かせてもらった。

こういったリサーチの過程で、同じような考えで取り組んでいる宿が全国にあることがわかってきた。その仲間同士がつながり、2017年6月に「日本まちやど協会」が立ち上がった。

同協会は、町と宿を一体にするという考え方のもとで、新たなツーリズムができるのではないかと考えるようになった。定義はあるものの、ガチガチに固めることはせず、まずは多種多様な仲間を増やしたいと考えている。彼らの多くは、もともと「まちやど」 をやりたくて始めたわけではなく、必要性を感じて始めているそうだ。そんな仲間を掘り起こす目的でも、協会を立ち上げたことで、声をかけやすくなった。

現在、日本まちやど協会に登録されている物件は北海道から鹿児島まで19軒となっている。

基本的には「地域に暮らしている人と一緒に産業をつくる」という考えでやっており、地元の事業者がやるのが理想的だ。稼いだお金が地元に落ち、そこでの再投資が起こることが重要だ。

「もし外から関わりたいのであれば、地元と一緒に会社をつくるなどして、地域と関わることが大事でしょう」と宮崎氏は言う。

 

木彫り修行ができる富山南砺市のまち宿が外国人客に人気

ところで、日本まちやど協会に加盟している外国人に人気でユニークな宿を宮崎氏にうかがうと、真っ先に上がったのが、富山県の南砺市にある「BED&CRAFT(ベッド・アンド・クラフト)」だった。富山県の山村集落にあり、最寄り駅まで徒歩で1時間半もかかる場所だ。そこに外国人が多く訪れるようになったという。もっとも最近は、その情報を知った日本人も増えているそうだ。

なぜこんなにも外国人が多いのか。それは、木彫職人に弟子入りできる宿だからだ。そこでワークショップに参加もできるので、本物志向の外国人にとっては魅力的だ。客層はクリエイティブ層の方々が多く、職人の技を近くで見られることに大喜びとのこと。

もともと南砺市には200人の木彫り職人がいて、江戸時代から続く伝統を守っている。住宅などの欄間制作が主なニーズだが、和風建築の需要が低迷していて、このような取り組みに地元でも前向きに取組んでいる。

また、宿泊者が町に出ていく仕組みを作っているのも特徴だ。宿のある南砺市いなみ地区をアプリで案内できるようになっており、専用のコミュニケーションツールもある。これを使えば、英語のできない地元の方々も受け答えができる。まさに地域全体で外国人客を迎えるための仕組みづくりを進めている。

 

谷中の「hanare」はグッドデザイン賞を受賞

さて、宮崎氏自身の手掛けるまち宿「hanare」について伺ったところ、予約はbooking.com(ブッキング・ドット・コム)からの申し込みが多いが、1割は宿泊客からの紹介で直接メールが来るそうだ。人気の理由は、そこでしかできない体験があるからだろうと宮崎氏。なるべく外で食事や体験をしてもらい、地元の日常のリアルなものを味わってもらうことで利用者の満足度を上げている。それがお客さんによる紹介につながったとみている。

なお、昨年は、グッドデザイン賞を受賞している。

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ところで、宮崎氏が「hanare」より前に手掛けた「HAGISO」は飲食店として宿泊者にも好評だという。「HAGISO」は、もともと同氏が学生時代と社会人の6年ほど住んでいたアパート萩荘だった場所。当時、風呂無しだったが、近隣に銭湯があり、カフェもあり、外に出て行けば楽しいエリアだと実体験で感じていた。この界隈を回遊する仕組みにすれば、ゲストも喜び、地域のお店も喜ぶと考え、まちやどにすることに至ったそうだ。

(次回へ続く)

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