古民家の宿に高まる外国人の関心、 人気の古民家宿のストーリーとは?(中編)
2017.03.21
国内では空き家が増えており、それが大きな問題とっている。そこで古民家を活用して宿にするプロジェクトが全国的に盛り上がりつつある。外国人による宿泊体験も人気コンテンツの一つだ。前編では、近隣の人にも開かれた「場」を作ることをコンセプトとして、東京は入谷にオープンした古民家宿「toco.」を紹介。中編では富山県の八尾で、若い女性が運営する宿とカフェが一体となった古民家施設についてレポートする。
地域の魅力を活かした富山県八尾の古民家宿、若い女性が起業
2016年4月に富山市八尾町に「越中八尾ベースおやつ」がオープンした。この施設は、1872(明治5)年に建築された古民家で、元蚕種・生糸商人の家だった旧数納(すのう)邸を改装したものだ。当時使用されていた重厚な蔵の扉もそのまま利用している。
「おやつの時間のように人が集まるような施設にしたい」との思いを込めて「越中八尾ベースおやつ」と名付けたという。宿とカフェが一体となった古民家施設だ。
この施設は、国内外の個人旅行者と町人文化を受け継ぐ地域の住民をつなぐ「コミュニティースペース」と「町人文化体験施設」の2つの機能を兼ね備えた場所として作られた。
オーナーの原井紗友里さんは、2015年に、富山県が公募した「観光で起業する人材を育成する未来創造塾」を卒業。原井さんは、富山市の出身ではあるが、地元は八尾ではない。しかし、未来創造塾を受講しているときに富山県内の観光地を視察してまわり、八尾の街の美しさに感動したそうだ。そして、八尾での暮らしを体験できる場づくりを目指そうと考えたのだ。
宿だけでなく、八尾の文化体験ツアーを通して魅力を伝える
原井さんは、施設の運営だけでなく、三味線や越中和紙作りの体験、日本酒や養蚕の歴史学習、八尾の食文化や生活文化を体験できる外国人向けツアーなどを企画している。古民家で実施しているため、文化体験の演出効果が大きい。
ちなみに、オープンしてからの外国人の宿泊利用状況は、全体の2割程度だという。香港・台湾からのお客様が多く訪れている。リピーターである中華圏の方が、リアルジャパン・ディープジャパンを感じている、と手ごたえを持っているそうだ。実際に、八尾を訪ねた外国人客が、また別の季節に訪れたいと話し、その後実際に予約が入ったケースもある。
四季と寄り添って生きる八尾の町並み・文化・人そのものがとても良く、またそれぞれが調和しており最高だと原井さんは言う。古民家施設「越中八尾ベースおやつ」は、古い街並みとの親和性が高い。
金沢八景の文化財建築物が、宿として再生
横浜市にある国の登録有形文化財になっている元料亭が、2016年末に宿として開業した。「喜多屋」と呼ばれるその施設に、外国人旅行者が宿泊目的でやって来る。booking.comなどのOTA(Online Travel Agency)を通して予約が入る。
建物は、明治期に東京・品川にて建築されたと思われる木造二階建ての日本家屋を移築したものだ。作家の与謝野晶子や俳人の高浜虚子がここで歌会をしたことで知られ、建築されてから少なくとも100年を超える、まさに歴史的な建築物だ。
喜多屋は、京浜急行電鉄の金沢文庫駅からバスに乗り、6つ目の停留所を降りてすぐの場所にある。このあたりは、金沢八景という地名にもあるように、入り組んだ海辺の景色が美しく、海水浴や潮干狩りなどもできるリゾート地として知られていたという。かつては、宿や料亭として使われていた。時の流れとともに近隣の施設が宅地化されたことによって、喜多屋だけが、時代に取り残されたように今もたたずんでいる。
古料亭から古旅館へと生まれ変わる
オーナーは、創業100年を期に、国登録有形文化財建造物である日本家屋を残す取り組みとして、同市港北区出身で外国人留学生向けシェアハウスを運営する会社「エー・アイ・ジェイ」の喜多正顕(きたまさあき)社長に、建物を貸すことにした。そこにビジネスパートナーの山本博さんが、旅館再生を手がけたコンサルタントとして参加し、文化財としての古料亭の価値に目をつけた。特に外国人にはウケが良いという経験から、山本氏自身が推進役の支配人として関わった。