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旅行者の消費1人99万円!?「アドベンチャートラベル」が地域観光の救世主となれるワケ

2021.09.07

9月20日、「アドベンチャートラベル・ワールドサミット2021北海道/日本(ATWS)」が開幕する。体験型観光の国際的な会議であるATWSが日本はおろかアジアで開催されるのも初めてということもあり、大きな注目が集まっている。豪州から来た旅行者が、「北海道15日間の旅」で1人で99万円を消費するなど、インバウンドのなかでも旺盛な消費意欲をもつアドベンチャートラベラーとは何か。コロナ禍であっても、なぜ地域観光の救世主になりうるのか──。

※本稿は、8月25日に刊行された『アドベンチャートラベル大全』(やまとごころブックス)の内容の一部を再編集したものです。

 

世界で約72兆円にものぼる市場規模をもつ成長分野

みなさんの地域には、観光を根底から変える「起爆剤」があるだろうか。

起爆剤とは、言い換えれば、切り札。本稿で紹介するのは、新型コロナウイルス感染症という前代未聞の事態に直面し、日本を含めた世界中で新しい時代への移行が加速度的に進むなか、地域の観光を根底から変える可能性を持つ起爆剤であり、切り札でもある「アドベンチャートラベル」である。

アドベンチャートラベルとは、ひと言で表すと「地域の自然や文化を体感する旅」。もう少し本質に迫れば、「身体的活動(アクティビティ)を通じて、自然や文化という美しいものに触れ合うことで、旅行者が内面から変わっていくもの」だと筆者は考えている。

では、なぜアドベンチャートラベルが起爆剤になるといえるのか。ここにその根拠をいくつか列挙する。

・北米のアドベンチャートラベラーのうち、8割が4年制大学卒業という学歴を持ち、4割が年収10万ドル(約1100万円)以上であること(世界最大のアドベンチャー・ツーリズム団体・ATTAによる)

・アドベンチャートラベルが6830億ドル(約72兆円)にのぼる大きな市場を持っていること。そして2012年以来、年率平均21%で成長していること

・一般的な旅行者1人あたりの消費額に比べ、アドベンチャートラベラーは1.7〜2.5倍の消費額を持つこと

・旅行者の消費額のうち、地域に落とされる金額がマスツーリズムの旅行者が14%に対して、アドベンチャートラベラーは65%にのぼること

 

高学歴・高収入が好むといわれる「アドベンチャートラベル」とは何か

そもそもアドベンチャートラベルとは何か。定義自体はシンプルだが、実際にこの分野を掘り下げていこうとすると奥深く、真に理解するのは簡単ではない。

アドベンチャートラベルを推し進める世界的な団体Adventure Travel Trade Association(ATTA)はアドベンチャートラベルを「1.身体的活動(physical activity)、2.自然(natural environment)、3.異文化体験(cultural immersion)の3つの要素のうち2つ以上を満たす旅行形態」と定義している。

「1.身体的活動」は、軽めのハイキング、キャニオニング(渓谷下り)、ラフティング(川下り)、乗馬、釣りなど、旅先で身体を動かすものが該当する。アドベンチャーというと、冒険的な印象を受けるため、ロッククライミング(岩登り)やケイビング(洞窟体験)のようなハードなものを思い浮かべるかもしれないが、ハイキングや雪遊びのようなソフトなものまでを含む広い概念である。

「2.自然」は、野生動物観察やクルージングなど、その旅行のなかで自然に触れ合うものならば該当する。

「3.文化」は、食文化、歴史、日本文化など、旅行者が日常とはかけ離れた文化を体験するものならば該当する。

アドベンチャートラベラーの意識の高さを物語る調査結果(North American Adventure Travelers)がある。同じくATTAによる教育・所得水準に関するものだ。北米のアドベンチャートラベラーのうち約8割が4年制大学卒業以上の学歴を持っており、約4割が年収10万ドル(約1100万円)以上となっている。

同調査によると、北米のアドベンチャートラベラーのマインドセットとして「親切で、(仕事・コミュニケーションに)有能で、調和を重んじ、創造的でありたいと望んでいる」「どういった経験ができるかを常に重視しており、旅行は自身の知見を高める機会と認識」「高級商品を所有することに関心がなく、他者や社会に貢献することを重要な価値観としている」「新しいアイデアに基づく仕事を楽しみ、かつ自身を知識層と考える」「健康に気を配り、そのためには運動を欠かさない」「その土地に根付いた伝統文化やコミュニティに関心が高く、旅行中には異文化交流を楽しむことを重視」といった点が挙げられている。

まとめると、アドベンチャートラベラーには、高学歴・高収入が多く、好奇心旺盛で自分を内面から変える旅を切望していることがわかる。

 

オーストラリアから来た2人が「北海道15日間の旅」で使ったのは1人あたり99万円

ATTAによると、アドベンチャートラベルの世界の市場規模(主に北・南米と欧州)は6830億ドル(約72兆円)と非常に大きい。

これは世界のガリバー企業といわれているGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)の2018年における売上高の合計に匹敵する。加えて2012年以来、規模が年率21%で成長している市場であり、今後も成長していくことが見込まれている。

アドベンチャートラベラーの1人あたりの消費額の高さにも着目したい。先にも書いたとおり、高学歴・高収入の人が多く、自分を内側から変えていこうという意識の高いアドベンチャートラベラーは、自分が求める満足度の高い旅には金に糸目をつけない傾向をもつ。

実際、北米・南米・欧州における一般的な旅行者の1人あたり消費額と同エリアにおけるアドベンチャートラベラーの1人あたり消費額を比較すると、後者のほうが約1.7〜2.5倍も大きい。

この倍率を日本にもあてはめると、2019年に日本を訪れた欧米豪の旅行者の平均単価が約22万円であるため、日本を訪れるアドベンチャートラベラーの平均単価は約37~55万円とも考えることもできる。

本当にそんなに支出がされているのか。コロナ禍の前ではあるが、すでに実例もある。オーストラリアから来た旅行者2人が、北海道を15日間遊びつくすのに、北海道の旅行会社に1人あたり99万円を支払っている(飛行機代を除く)。

このような高学歴・高収入のアドベンチャートラベラーがこれまで観光地として知られてこなかったエリアにまで来るようになることは、地域経済に大きな貢献をもたらすといえる。

特にアドベンチャートラベルにふさわしい、自然が豊富で日本的な文化を維持している地方は、主に経済的な側面から存続の危機が叫ばれている。そのなかで、地域へのリスペクトをもちつつ、経済的に余裕をもった彼らアドベンチャートラベラーがきてくれれば、持続可能性、いわゆるサステナビリティにもつながってくる。

 

地域が1万ドルを稼ぐにはクルーズ客100人、アドベンチャートラベラーなら4人

先ほど、地域社会の持続可能性にもつながると書いたが、その根拠としてあげられるのが「還元率」である。実は、アドベンチャートラベルの特徴の1つに、旅行中に使ったお金の多くが地域に還元されることがある。

ATTAによると、地域が1万ドル(約110万円)を獲得するには、クルーズ旅行者なら100人を呼ばなければならないのに対し、アドベンチャートラベラーなら4人を呼べば十分とのことである。

単純計算をすれば、クルーズ旅行者1人あたりの消費額は1万ドル÷100人=100ドルで、アドベンチャートラベラー1人あたりの消費額は1万ドル÷4人=2500ドルとなる。ただしこれは正しい計算式とはいえない。

なぜなら地域経済への貢献ということを正しく捉えるためには、消費額だけでなく、地域への還元率をみていく必要があるからだ。

消費した金額がそのまま地域にいくのではなく、実際には間に介在する業者によってマージンが発生することになる。つまり、地域が獲得できる金額は、このようなマージンを差し引いた金額となる。

クルーズ旅行や規格化された旅行など、大衆向けの旅行のことを一般的にはマスツーリズムと呼ぶ。ATTAによると、このマスツーリズム旅行者が目的地で消費するのが14%であるのに対し、アドベンチャートラベラーは65%が目的地で消費するという。

 

価格が低いものは「良質なものではない」と思われてしまう

マスツーリズムとアドベンチャートラベラーの消費額を比較して、後者の金額が高すぎではないかという指摘もあるかもしれない。良い悪いはさておき、観光業を含めた日本のサービス業は「安いのは良いこと」というような風潮があるためだ。しかし、この指摘については2つの点で反論させていただきたい。

1つ目は、今までローカルサプライヤーは安売りをしすぎていたのではないかと考えている。後述する「持続可能な観光」にもつながることだが、〝おもてなし〟を神格化しすぎてしまったため、触れてはならない絶対領域になり、価値が高いものでも安く売っていたということだ。

結果的に「観光客は来るけれども、地域自体はさほど潤わず、観光地として立ち行かなくなる」という地域も多い。

安売りは地域の価値までをも下げてしまう恐れをもっているのである。

2つ目の反論としては、アドベンチャートラベルは、ただ単に安かったサービスや商品の値段を上げようといっているわけではないことだ。要は、きちんと付加価値をつけたうえで、そのサービスや商品に見合った値段をつけるべきだということ。

たとえば、トラベラーのニーズに合った最適なプランを提供できているかという点や、ガイドによる多言語対応といった点のクオリティが伴っていないのに、値段だけを上げるのは不平不満を生むだけである。それは、インターネットによる口コミがグローバルに広がる昨今では、観光地として致命傷を負うことにつながる。

いずれにしても、アドベンチャートラベラーたちは、従前の旅行者に比べて高い消費額を使ってくれるだけでなく、その多くが地域に還元されるということだ。つまり、地域側としてみれば、彼らの需要は大いに歓迎されるものであるといえる。