インバウンドコラム

欧米豪客を魅了する「アドベンチャーツーリズム」に欠かせない5つの要素

2021.09.21

印刷用ページを表示する



観光再生の切り札ともなる「アドベンチャートラベル」を推進・実施していくためにはどうしたらいいのか。『アドベンチャートラベル大全』では、「観光資源の磨きあげ」「受入環境の整備」「コーディネーターの役割」「ガイドの役割」「プロモーション」の観点から解説している。その中から本稿では「観光資源の磨きあげ」に焦点をあて、欧米豪客を魅了するアドベンチャートラベルの作り方を紹介する。

※本稿は、8月25日に刊行された『アドベンチャートラベル大全』(やまとごころブックス)の内容の一部を再編集したものです。

 

主なマーケットである欧米豪の旅行者を意識する

アドベンチャートラベルの磨きあげを考える際に重要なのは、主なマーケットである欧米豪の旅行者を意識すること。

「ありのままの自然や文化がいい」といわれることもあるが、アドベンチャートラベルの商品として売っていくためには、世界的な水準との間にあるギャップを埋めなくてはならない。では、具体的にどのようなギャップがあるだろうか。

その1つが、図にもあるとおり「滞在日数」である。端的にいえば、「長期滞在を楽しめるような商品でなくてはならない」ということだ。

みなさんは海外旅行をする場合、どのくらいの期間を確保するだろうか。東アジアならば2~3泊程度だろうか。韓国であれば、日帰りする人もいるだろう。他方で、欧米に行くとしたら? 1週間以上はほしいところだろう。

外国人が日本に訪れる場合も同様の傾向がみられる。

日本を訪れる欧米豪の旅行者は滞在日数が長い。アドベンチャートラベルに限定されることではないが、アジアの旅行者の約6割が6日以下しか日本に滞在しないのに対し、欧米豪の旅行者は約8割が7日以上の長期滞在となる。そのうち約4割は2週間以上も日本に滞在する。

これだけ長く滞在するのだから、相応の魅力ある商品が必要となる。日帰りや1泊2日が多い国内旅行者向けの観光と同じに考えてはいけないということだ。

 

 

もちろん北海道や日本の各地には、数多くの観光地や体験メニューがすでに存在している。そうしたツアーを構成する1時間から半日程度の観光や体験の要素をここでは「コンテンツ」と呼ぶ。

複数のコンテンツを「つぎはぎ」で組み合わせ、長期間のパッケージ(商品)として提供するのは手っ取り早い。しかし、残念ながらそれだけではアドベンチャートラベラーの高い満足度は得られない。

 

旅行者のオリジナルな感性を育む「一貫したテーマ」の重要性

それではどうしたらいいのか。まずは一貫したテーマ(ストーリー)をもたせることを意識するといいだろう。

旅行者が何を望んでいるのをしっかり踏まえたうえで、観光地として見せたいテーマを明確にすることが重要である。

たとえば北海道に豊かな水資源をもたらす「雪解け水」をテーマに据えた場合、一つひとつの体験(コンテンツ)が、その「雪解け水の恩恵」につながるようなものでなければならない。

雪解け水は、通常の水とは違い、栄養が豊富である。

山に降り積もった雪は春先になると溶けはじめ、地中に浸透する。この際、地中に含まれるミネラルを吸収しながら地下水となり、川に流れ出ることになる。したがって、雪解け水はミネラルを多く含む。

アドベンチャートラベルの商品とするためには、この栄養が豊富な雪解け水の恩恵を受けて、地域住民が充実した暮らしを送っていることを旅のなかで理解できる構成にしていきたい。

具体的には、雪解け水のおかげで川で多くの魚が獲れるなら、そこで魚釣りをしてもいい。雪解け水を活用して稲作をしているのなら、農業体験をしてもいい。田んぼの間ののどかな風景をサイクリングしてもいい。雪解け水でつくられる豆腐があるなら、街中を散歩して豆腐屋を訪れてもいい。手を変え品を変え、さまざまな体験を提供しながら、その一つひとつが実は「雪解け水の恩恵」につながっているという行程をデザインしていきたい。

実際の体験を通じて五感をフルに活用したり、地元の人と会話をしたりしていく過程で、旅のなかでのテーマが自分のなかで育んできた価値観と融合する感覚が得られる。これは経験したことのある人にしかわからない感覚かもしれない。

「雪解け水」という言葉が、立体的に見えてくるということだ。借り物ではない、自分だけのオリジナルな感性が生まれていく。

先にあげた「雪解け水」はあくまで一例にすぎないので、このようなテーマを地域によって発掘していくといいだろう。

 

アドベンチャートラベラーが重要視する5つの価値

一貫したテーマを設定するだけでは十分ではない。そのテーマに沿う個別のコンテンツが魅力的でなければ意味がない。では、アドベンチャートラベラーはどのような体験コンテンツに価値を見出すのか。

アドベンチャートラベルを推し進める世界的な団体Adventure Travel Trade Association(ATTA)は次の5つの要素を掲げている。

Novel and Unique(いままでにないユニークな体験)
Transformation(自己変革)
Wellness(健康であること)
Challenge(挑戦)
Low Impact(ローインパクト)

Novel and Unique(いままでにないユニークな体験)

Novel and Uniqueは、トラベラーが「これまでに味わったことがない」と感じたり、「ここでしか味わえない」と感じたりするような体験を指す。自然やアクティビティは世界各国に共通するものも多く、それ単体でユニークな体験を目指すことは一般に難しいとされる。

一方で、文化体験はその土地ならではのものであることが多いため、ローカルな文化に焦点をあて、それと自然やアクティビティを組み合わせていくことにより、ほかでは味わえないユニークな体験を提供することができる可能性が高まると考えられる。

Transformation(自己変革)

Transformationは、体験を通じて自己の価値観が変化したり、世のなかの見方が変わったりすることを指す。

自然がいかに雄大で時間をかけて形成されてきたものであるかを知ったり、その土地の人が困難を乗り越えてきた歴史を知ったり、自国とは異なる宗教観やものの見方を知ったりすることなどを通じて、この「自己変革」は起こる。

そのためには、ガイドがその地に関するさまざまな要素を丁寧に紐解いて伝えることが重要である。自然・文化・アクティビティの知識だけではなく、異なるバックグラウンドをもつ人々と、感性や気持ちの深いところで共感しあえるようなコミュニケーション能力が求められる。

また、自己変革は自分のなかの何かが動き出すものであり、自発性も不可欠である。したがってガイドが1から10まですべて伝え、誘導していくのは効果的な方法ではない。受動的すぎるからだ。

ガイドは、あくまで「ガイド(=補助)」である。ガイドは旅行者に敷いたレールのうえを走らせるのではない。旅行者自身でレールを敷くために、材料を提供したり、アドバイスをしたりするのがガイド本来の役割である。

体験の一部を切り取り、ガイドの考えを押し付けるケースは少なくない。そうではなく、旅行者の過去と未来に寄り添い、旅行者が自分自身を変えよう、超えようとするのを手助けしていくといいだろう。

Wellness(健康であること)

Wellnessは、コンテンツやツアーを通じて、「身体的にも心理的にも健康になった」という感覚を得ることを指す。

身体的観点でいえば、たとえば朝に自然のなかでヨガ体験をすることがあげられる。温泉や岩盤浴なども健康的になった感覚が得られるだろう。

心理的観点では、情報にあふれた都会的な生活から脱するためにスマートフォンやパソコンから距離を置き、自然のなかで瞑想をするような時間を得るなどがある。

Challenge(挑戦)

Challengeは、コンテンツやツアーを通じて、旅行者が身体的あるいは心理的な「挑戦」をしたと感じることを指す。「挑戦」は「自己変革」にも通じる場合もある。

これまでに経験したことがない長い距離のトレイルやツーリングをしたり、サイクリングコース内にある急斜面に挑戦してみたりといったことがあげられる。

試したことのない食べ物を食べてみたり、初めて見るその土地の楽器に挑戦したり、その土地の言語で挨拶をしてみたりすることなどもあるだろう。

挑戦して乗り越えることに醍醐味があるため、相手のタイプやモチベーションを観察して、難易度の調整を行うことが欠かせないだろう。

Low Impact(ローインパクト)

Low Impactについては、体験を通じて自然や文化に対して、いかにインパクト(影響)を小さくするのかという視点である。

たとえば、山岳トレッキングであれば、その山に年間何人が入山するのか、それにより野生動物や植生に変化や影響が出ていないのかなどに注意を払う必要がある。したがって、ガイドは旅行者に対し、インパクトを減らすために、どのような注意を払うべきかを伝えることが望ましい。

自然だけでなく、文化面にも配慮する必要がある。少数民族がいる場合には、彼らの文化を保護するために観光として関わりながらもどのような配慮ができるのかを考えながらツアーをデザインする必要がある。

以上、旅のテーマを設定したり、個別のコンテンツをアドベンチャートラベラー仕様に変えたりすることの重要性を説いてきた。

すでに述べたが、日本や北海道には、世界に誇れるほど素晴らしい素材が豊富にある。問われているのは、「どのように加工していくか」である。

あらゆる角度からアイデア出しを行い、試行錯誤を繰り返しながら、5つ星を目指していきたい。

 

最新記事