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2022年の観光・インバウンド市場はどうなる? 編集部注目の7トピックスを解説

2022.01.12

感染症の新株拡大による、外国人入国停止措置が続くなど、先行きが見通しずらい観光・インバウンド市場。一方で世界ではワクチン接種など条件こそあるものの、外国人旅行者の入国を受け入れる地域も増えている。2022年、観光・インバウンド市場の業界予測を、編集部が選定した7つのトピックスと共に解説する。

 

・メタバース観光

地域主体の「メタバース観光」が世界中で加速、市場創出と技術の進化がカギに

2021年にはFacebook社が「Meta Platforms」への社名変更や、仮想空間の会議サービス「Horizon Workrooms」の発表など、メタバースのプラットフォームとして存在感を高め注目を集めた。

地域においても、韓国ソウル市による「メタバース・ソウル計画」や、中国湖南省の観光地、張家界市武陵源区での「張家界メタバース研究センター」が開設するなど、メタバースを取り入れる動きが出ている。日本でも大阪や東京などの大都市で始まっており、沖縄では既に2021年よりメタバースで沖縄を再現するプロジェクトが動いている。

2022年以降は「いかにして、メタバースを普及させるか」がカギになる。今後のメタバースの今後の動きに注目したい。

世界中で加速する「メタバース」地域観光でも活用進む 今後の普及のカギは?

 

・ヘルス/ウェルネスツーリズム

2022年はヘルス/ウェルネスの動き、日本全体で加速

新型コロナウイルス感染症の拡大で、心身の不調が危惧されるなか、さまざまな分野でヘルス/ウェルネスを取り入れる動きが出てきている。

JTB総合研究所主席研究員でヘルスツーリズム研究所所長を務める髙橋氏によると、大阪・関西万博や統合型リゾートをはじめとするリゾート開発、ワーケーションなどツーリズム分野ではもちろん、スマートシティやゼロカーボンなど地域づくりのコンセプトに掲げる事例も増えているという。「2022年はヘルス/ウェルネスビジネス元年になるのではないか」と話す。

一方で髙橋氏は「社会のインフラの一部としても、ヘルス/ウェルネスヘルスを取り入れることは重要」とも指摘する。コロナ禍での経済的困窮や孤立感の高まりなどにより、自殺者が増加する現代社会のインフラとしても「ヘルス/ウェルネス」の重要性が増していく。長い目で見ると、ツーリズム産業としても、ビジネスの視点だけでなく、社会インフラの側面からも取り入れることが必要となるだろう。

2022年はビジネス元年!? ヘルス/ウェルネスを観光インバウンドにどう取り込むか

 

・アドベンチャートラベル

世界で戦える「アドベンチャートラベル」に向けて、国内市場創出に向けた動き加速

世界中のアドベンチャートラベル関係者が一堂に会する国際会議「アドベンチャートラベルワールドサミット」の、2023年北海道開催が決定した。

2021年、バーチャル開催に切り替わった同サミットの運営を無事終えた北海道実行委員会によると、「顧客ニーズにこたえられるコンテンツづくり」「ガイド育成」「道内での認知度向上」の3つを課題と捉え、今後取り組む考えだ。提供する商品やサービスの磨き上げだけでなく「道内での認知度向上」するためには、日本市場を創出することも喫緊の課題だ。

昨年末にはJALが国内向けにアドベンチャートラベルの商品を販売開始するなど、その動きが始まっている。2023年のサミットを見据え、国内アドベンチャートラベル市場創出にむけた取り組みが加速するだろう。

日本流おもてなし ときにありがた迷惑!? アドベンチャートラベルで地域が稼ぐ方法

 

・第2のふるさとづくり

観光庁、新市場開拓に本腰。何度も訪れる地域づくりに予算投入

多拠点居住を支援する「ADDress」や、お手伝いを通じて地域のファンづくりや再訪を促進する「おてつたび」など、旅行や移住とは違う新しい地域とのかかわりをサポートするサービスが登場し、注目を集めている。そうした動きに後押しされる形で、観光庁では昨年「第2のふるさとづくりプロジェクト」を立ち上げ、今年度は地域での実証実験に向けて、事業の予算化に踏み切った。

同プロジェクトの有識者会議の座長を務める東京女子大学の矢ケ崎教授によると「親族知人訪問(VFR)に近い旅のスタイル。日本では国内旅行市場全体の中で2割程度だが、イギリスでは訪英外国人旅行の4割弱ある。観光レジャーやビジネスよりも安定した需要があり、コロナ禍でも戻りが早い。今後広げていきたい市場」という。

外国人旅行者の受け入れを開始した各国・地域でも、「遠く離れた地に住む子供や孫に会うために渡航する」といったニーズから戻ってきた。これまでレジャーに頼ってきた日本の観光マーケットの新たな市場開拓という点からも、今後の伸びに期待したい。

 

・ダイナミックプライシング

鉄道へのダイナミックプライシング、日本でも検討進む。SDGsの観点からも期待大

レベニューマネジメントの手法として、航空会社やホテルなどでは以前から取り入れられてきたダイナミックプライシングは、ここ1〜2年でテーマパークやスポーツ観戦などにも広がり、レジャー観光や娯楽産業では一般的となりつつある。

コロナ禍では分散化の手法として、バス会社での導入や鉄道会社での検討など、ついにインフラ分野での導入に向けて議論がスタートした。

社会インフラとして機能する鉄道での導入に対して反対の声は根強いが、ロンドンやオーストラリア、シンガポールでは既に導入済み、ヨーロッパでは食品ロス削減を目的としたスーパーでのダイナミックプライシングも始まっている。

日本での社会インフラ導入の後押しとなる動きが増えており、今後の動向は注視したい。

 

・ベジタリアン/ヴィーガン対応

サステナブルな観点での食の多様性浸透、日本食をストーリーと共に輸出

もともと宗教や伝統的な食生活の観点からインドやイスラエル、台湾などではベジタリアンの割合が多いが、昨今は欧米でも、イタリアやドイツ、イギリスなどでは、人口の1割近くがベジタリアンともいわれている。動物愛護や環境への配慮、健康面などを理由は様々だが、ここ数年、特にサステナブルの観点からのベジタリアン/ヴィーガンも注目を集めている。

日本では高齢化や人口減少が喫緊の課題の1つだが、グローバルな視点で世界を見ると、増加する人口に対応する食料をいかにして確保するかが課題だ。CO2の排出量が多い家畜以外の方法でたんぱく質を摂取する方法として、肉を使わない大豆ミートや代替肉が注目されている。

その点、肉や魚を使わない精進料理、発酵文化、次世代や環境に配慮した農法や漁法など、サステナブルという視点で日本食の訴求ポイントは多数ある。インバウンド回復に時間がかかるなか、ここ1〜2年、日本の地域でもメーカーと連携した日本食の輸出が進んでいる。そこでは、歴史的背景やストーリーをセットに、食のマーケティングやブランディングの手法の1つとして「ベジタリアンやヴィーガン」を訴求できるだろう。

 

・リベンジ消費

世界中で勢いが増す海外旅行へのニーズ、日本はこの波に乗れるのか?

2年間のwithコロナ生活を経験し、新しい生活様式への適応に加え新株発生による不安から、日本国内でのリベンジ消費への期待は薄い。一方で、2021年11月に米国が海外からの訪問者への国境開放を発表した直後に、エアビーでの海外からの予約件数が40%も増加するなど、旅行需要は戻り始めている。オミクロン株拡大により、タイや○○などでは入国規制緩和の延期が続いているが、各国地域の政策がゼロコロナからwithコロナに変化しており、2022年には観光地を中心に外国人の入国規制が緩和されることが予測される。そうなると、海外旅行熱の高いトラベラーによる旅行が再開され、旅行の重みや価値を痛感している彼らによるリベンジ消費も盛り上がるだろう。

日本では、在住者や留学生すら入国できず、観光客の入国がいつ解禁されるか先行きが不透明だが、こうした世界の状況に目を向け、タイミングを逃さず外国人の受け入れを再開すれば、世界のリベンジ消費を取り込めるのではないか。