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欧米豪市場向けのその多言語対応、本当に必要ですか?

2022.03.29

欧米豪市場をターゲットにプロモーションする地域や観光事業者の方にとって、「どこまで多言語対応して情報発信するべきか」は大きな悩みの1つではないでしょうか。
私が代表を務めるしいたけクリエイティブでは、主に英語圏市場向けの記事・映像・デザインなどの制作やマーケティング支援をしていますが、そのなかで「英語圏以外の地域にも情報発信をしたいので、多言語化を検討している」といったご相談をいただくこともあります。 そんなとき、私はいつも「その多言語化、本当に必要?」と質問するようにしています。

前回は、なぜ13%にしか満たない欧米豪市場にプロモーションをかけることが効果的かお話しました。今回は、そのなかでも多くの場合は「英語」に絞って問題ないと私が考える理由をお話します。

 

英語はコスパ最強の言語

日本で暮らす私たちも、ここ数年間は世界のニュースにこれまで以上の関心を持って触れたような気がします。

例えば、WHOのテドロス事務局長の記者会見の様子です。新型コロウイルスが世界中で感染爆発したことによって、「海外ニュース」を対岸の火事として見られなくなりました。そして、スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏のスピーチや、黒人に対する暴力と組織的人種差別に反対する Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動も全世界を席巻し、日本でも連日報道されました。

グレタさんはスウェーデン国内でももちろん活動していますが、それでもスピーチの多くは英語で行っています。そこには、彼女がスウェーデン国内だけではなく、世界に向けて発信しようという意図が見えます。また、世界的に知られるスウェーデンのものといえばノーベル賞ですが、公式ウェブサイトを見ても英語表記のみで、スウェーデン語での記載は一切ありません。

自分たちのメッセージを多くの方に、グローバル規模で届けるのは非常に根気のいる作業です。観光においても、どれだけ美しい地域でも、良い商品でも、一夜にして人気を得ることはできません。そんな作業を多言語でやるというのは本当に大変です。特定の国や地域にではなく、世界に向けて発信されている情報の多くが英語で発信されている理由は、一つの言語で多くの人々にリーチできる最もコスパの良い言語だからです。

 

英語コンテンツは、英語圏以外の人も多く見ている

では、実際にどこまでコスパが良い言語なのか、一つの例をあげてみます。私は長年英字メディアで働いていましたが、そこで働く仲間たちも英語圏の出身ばかりではありませんでした。

英語が第一言語の主要国といえば、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、南アフリカの7ヵ国が挙げられますが、私がこれまで共に働いてきた仲間の国籍は20ヵ国以上。国籍の数だけでいえば、英語が第一言語の国の方がマイノリティ(少数派)です。そして、それは私たちが発信する英語の情報を受け取るユーザーも同様でした。

私が以前関わっていた「Japan Today」(世界に向け日本のニュースを英語で発信するWebメディア)のユニークユーザーは月間100万ユーザーで、海外からのアクセスが80%、国内からのアクセスが20%。単純計算でいけば20万人のユーザーが国内からアクセスをしているということになります。しかし、先述した英語ネイティブの主要7ヵ国出身の日本在住者の総人口は10万人未満。仮に日本に住む7ヵ国出身者の全員がその媒体を閲覧していたとしても、残り半分以上のユーザーは非英語圏という計算になります。もちろん全員が閲覧していることはありえないので、非英語圏の方々が圧倒的にマジョリティということがわかります。

ざっくりとした計算ではありますが、英字メディアに携わる非英語圏のメンバー数や非英語圏のユーザー数を見ても、英語のコンテンツは英語圏の人だけが消費しているのではないという事実が数字からも見て取れます。

 

英語コンテンツの拡充が、より多くの人に日本の魅力を届ける近道

新型コロナウイルスの感染状況も落ち着きを見せはじめ、国境閉鎖措置の解除に向けた期待が膨らんできました。このタイミングで新たなコンテンツを作ったり、プロモーションの準備をはじめている方々も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

多言語化することにより多くの人が平等に母国語で情報を得られるようにしたいと言う思いは、日本のおもてなし精神あってのことかもしれませんし、素晴らしい試みだと思います。しかし、多言語化することで、情報の内容が薄くなってしまったり、発信頻度が少なくなってしまうのであれば本末転倒。結果として、受け手にとって有益な情報を届けることができなくなってしまい、せっかくの思いやりも、結果的に不親切になってしまいます。

それであれば、英語に絞り、しっかりとした情報がより多くの人へ届くような仕組みを作る方が、受け手にとっても助かりますし、海外向けにしっかりと情報発信ができているという信頼感も生まれると言うのが私の結論です。

そして、最後にお伝えしたいのは、英語だけでも十分「多言語化」は可能だということです。なぜかというと、近年、機械翻訳の精度が非常に高いからです。昔はあまり使えたものではありませんでしたが、最近の機械翻訳は本当にレベルが高く、特に英語から他の言語の精度は目に見張るものがあります(私も翻訳をしますが、機械翻訳の方が上手いと思うことがよくあります…私のおすすめはDeepLで、無料版で十分使えます!)。

日本語で作られた記事を多言語化するのは、そもそものターゲット層が異なるため、全くおすすめできません。しかし、一度英語でグローバル向けのコンテンツを作ってしまえば、あとは言語が翻訳できれば情報としては十分というケースが多いです。なので、複数言語でのコンテンツ作成に時間や予算を割くよりかは、まずは英語でのコンテンツを充実させることこそが、日本の魅力をより多くの人へわかりやすく届ける近道なのではないでしょうか。

 

株式会社しいたけクリエイティブ 代表取締役 本郷誠哉

インドネシア、アメリカ、南米など海外滞在歴は約10年。株式会社ジープラスメディアやENGAWA株式会社で国内最大級の英字メディアの運営に携わった後、世界基準のコンテンツ制作に特化した「株式会社しいたけクリエイティブ」を創業。プロデューサーとして、特に欧米豪市場における訪日プロモーションの企画・コンテンツ制作・発信まで一気通貫で行う。通訳、翻訳、校閲の経験も豊富。