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観光業界に今最も求められる、一人ひとりに寄り添う「気持ち」の可視化

2022.06.30

欧米豪をはじめとしたグローバル向けの情報発信では、「多言語で広く浅く」よりも、「英語に絞った頻度、深度を高めた発信」の方が効率的で効果的だ、と前回の記事でお話をしました。

では、観光に携わる事業者の方々はどのような情報発信やプロモーションをしていけばいいのでしょうか。現代のスタンダードな考え方であるダイバーシティ&インクルージョンに触れながら、これからの時代の観光プロモーションに求められること考えていきます。

 

外出制限で気付かされた「日本の観光に足りないコト」

新型コロナウイルス感染症拡大による観光業界への影響はもちろん、外出自粛というこれまで経験したことのない要請に誰もが戸惑いました。そんな状況下、周囲の目を気にして帰省や旅行を諦めるか、ビクビクしながら遠出をした人も多かったはずです。

しかし、コロナとは関係がない別の理由で、常に同じように不安を抱えながら旅行する人や、旅行自体を諦めてしまう人がいるのです—「障がいがあるので手伝いが必要なことがある」「同性カップルだと変な目で見られるかもしれない」「小さな子ども連れだと周囲に嫌な顔をされないか」「外国人だと対応してもらえないかもしれない」—。

日本の観光に足りないのは、そんな多種多様な不安を抱えている観光客に寄り添うことだと、制限下に旅したことで改めて感じました。そして、具体的にどう寄り添うべきかというヒントは、「ジャパントラベルアワード」の受賞者の活動や審査員のコメントに隠されていました。

 

地域の埋もれた魅力に光を当てる、ダイバーシティ&インクルージョンなアワード

ジャパントラベルアワードは、「観光からより良い社会をつくる」ことを目的に、私が代表を務めるしいたけクリエイティブが2021年に始めたプロジェクトです。観光に携わる全国の自治体・観光協会・DMO・企業・個人におけるダイバーシティ&インクルージョンやSDGsの推進に関する取り組みの中から、日本の新たな「感動地」を認定し、発信していくアワードで、現在第2回目に向けて、全国各地の取り組みを募集中です。

私たちがこのアワードを始めた理由は大きく2つあります。

まず1つ目は、観光プロモーションをする際に自治体や企業からは、いわゆる「外国人視点」を求められることが多かったのですが、想像上の外国人像に向けてターゲットを狭めていくアプローチは危険だと思っていました。その代わり、 いかなる状況にある人も受け入れられるように努め、彼らに寄り添った対応をしていくインクルーシブな取組みを通じて、誰もが旅を楽しめるようにしていくべきだと考えていました。

2つ目の理由としては、特にインバウンド向けの観光プロモーションのコンテンツが全国どれも似たり寄ったりで、代り映えがしないと感じていたからです。

既に素晴らしい取組みや観光コンテンツを持っているのに、小さな組織で行政とのパイプがなく、プロモーションの機会を得られていない方々が多くいらっしゃいます。そんな埋もれてしまっている魅力的な地域や人々に光を当てたいと思い、スタートさせました。

審査員には、観光、ダイバーシティ&インクルージョン、サステナビリティの領域において国内外で活躍するグローバル&ローカルな視点を持ったエキスパートを迎え、日本の観光のロールモデルとなり得る感動地を探すべく審査をしています。

 

完璧でなくとも、“可視化”が情報発信の第一歩

「可視化が重要だ」

ジャパントラベルアワードの審査の過程で、ほぼ全ての審査員が口にした言葉です。アクセシビリティ、LGBTQ+、サステナビリティ、ホスピタリティなど審査員の専門分野はそれぞれ異なっていましたが、最も重要視するポイントは同じだったのです。

これは、私自身現地審査に赴いた際にも感じたことでした。せっかく良い取り組みをしているのに、その情報がウェブサイトにもSNSにも載っていないことが多い。その理由を聞くと、「まだ完璧にできないので…」という答えが多数でした。これを読んでいる皆様の中でも、心当たりのある方がいらっしゃるのではないでしょうか。

しかしながら、バリアフリー対応も、LGBTQ+コミュニティへの支持も、サステナブルな活動も、完璧さよりも、努力の過程を認識してもらうことに意味があります。審査員の一人で日本初のゲイコンテスト「ミスター・ゲイ・ジャパン」の運営代表を務めるジョージー・イチカワ氏も受賞式でこう話しました。

「私たちのコミュニティのために皆さんが行っていることはすべてが素晴らしいのですが、もっとその活動が『見える』ようにして欲しいのです。ウェブサイト、SNSやその他何においても、私たちが本当に安心できるためには『可視化』が鍵です」

 

取り組みの“可視化”にあたって、気を付けるべき点は?

では、どのように「可視化」に取り組んでいけば良いのかというと簡単です。どんなに些細なことに見えても、まずはウェブサイトやSNSに具体的に掲載するだけでいいのです。

ただ、その際に気を付けるべきことがあります。例えば、車いすユーザーにも安心して欲しいと思っているのに「お問合せください」の一言だけだと、受け手は、本当に対応してもらえるのかどうかも分からず、突き放すような印象を与えかねません。そこで、トイレ、入口の段差、通路幅などがわかるような写真を掲載した上で、「不便なことがあればスタッフがお手伝いしますので、ご安心してお越しください。何か気になる点があればお問合せください」と付け加えるだけで、車いすの方に寄り添っていること、歓迎していることが伝わり、インクルーシブな印象を与えられます。

LGBTQ+コミュニティにも安心して訪れて欲しいのであれば、LGBTQ+コミュニティの味方であることを示すレインボーフラッグをサイト内に掲載するのも一つの方法です。また、男女のカップルの写真だけでなく、例えば同性2人組の写真、家族連れなど様々なシチュエーションの写真を載せ、いかなる人でも歓迎することを示せば、さらに説得力が増します。

アクセシビリティ、LGBTQ+、サステナビリティ、食事制限など、どれも一概に「これをすればOK」と言うのは難しい。結局、どれも一人一人ニーズや置かれている状況が違うのです。だから、細かい部分に囚われるのではなく、「私たちはインクルーシブな観光を目指しています」という意思表示をすることが何よりも重要なのだと思います。

 

多様性への対応と可視化は、社会貢献ではなく、当たり前にすべきこと

このように多様性の可視化をしていくのは、社会貢献でもなければマイノリティ支援でもありません。ビジネスとして捉えたときに、それが当たり前で、必要だからやるということを、行政や企業で観光に携わる私たちが理解する必要があります。

また、インクルーシブで多様性があることは、国内・訪日どちらの観光客、そして地域の人々にとってもメリットがあるのです。

こうした活動を通じて、観光地よりも「感動地」が日本に増えていくことも、今の日本の観光プロモーションに必要なことだと私は思います。

ジャパントラベルアワードでは、自分たちの取組みを客観的に確認でき、可視化するにあたってのヒントがいっぱいの「感動地チェックシート」を配布しています。応募書類も兼ねているこのシートは参加登録をするとメールで届くので、ぜひ一度お試しください。


▲応募すれば、可視化のヒント満載のチェックシートを配布しています

 

ジャパントラベルアワードについて
● 対象:国内・インバウンドにかかわらず、多くの人にとってより良い観光体験を目指した活動をしている、もしくは活動していく意思がある観光に関わる日本全国の自治体、法人、個人
● 応募締切:2022年7月15日
● 費用:¥0
● 参加登録は公式サイトから:https://japantravelawards.com

 

株式会社しいたけクリエイティブ 代表取締役 本郷誠哉

インドネシア、アメリカ、南米など海外滞在歴は約10年。株式会社ジープラスメディアやENGAWA株式会社で国内最大級の英字メディアの運営に携わった後、世界基準のコンテンツ制作に特化した「株式会社しいたけクリエイティブ」を創業。プロデューサーとして、特に欧米豪市場における訪日プロモーションの企画・コンテンツ制作・発信まで一気通貫で行う。通訳、翻訳、校閲の経験も豊富。