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2023年 世界の消費者トレンドは? 「今」を重視、ゲームやロボット世代を超えて広がる

2023.01.24

イギリスに本拠を置く国際市場調査会社ユーロモニターインターナショナルは毎年初めに、世界的な消費者の動向を予測、その分析結果を10項目に分けた考察レポートを発表しているが、このほど、2023年版のトレンド動向が発表された。このレポートは、刻々と変化する消費者のニーズを的確に掴み、ビジネスチャンスに発展させる貴重なリソースとして世界中の企業から注目されている。

2023年はパンデミックを経て変化した生活スタイルを柔軟に取り入れ、日常を楽しもうとする人が一層増えることが予想される。進化するテクノロジーは世代によって受け止め方が違うが、それぞれのニーズを考慮し最適化することが大切としている。また、生活費危機やサステナブルな考え方からくる支出削減の動きにも対応すべき年だという。それでは、今年の10の消費トレンドを解説しよう。
(図版出典:ユーロモニターインターナショナル)

 

人間味のあるオートメーション

時間とお金を節約するために、消費者は「迅速かつスムーズ」なサービスを求めている。しかし機械化による利便性を享受したい一方、人間味のある接触や交流も得たいというのが本音だ。ロボットなどを活用したオートメーションは工場での製品生産業務だけでなく、様々なサービスを提供し始めている。

29歳未満の消費者10人のうち、8人がロボットとのやり取りに抵抗がないとしており、また生活を取り囲むテクノロジーに順応しつつあるデジタルシニア層(2022年版のトレンド動向で紹介)も台頭している。消費者が自動化されたサービスやコンテンツに直接接触する機会においては、ロボットとの情緒的な繋がりを大切にし、人間味のあるテクノロジーを提供することが望まれる。

企業は高度なアルゴリズムやハイパーパーソナライゼーションを活用してカスタマージャーニーを向上させ、的確に嗜好を反映させる製品やサービスを提供できるようになる。しかし同時に、過剰な自動化を避け、人間的な要素との適度なバランスを取ることがブランドとして顧客を惹きつけるポイントと言える。

  

切り詰める消費者

インフレや物価高により購買力が低下しており、企業は、消費者の節約をサポートするようなソリューションを開発・提供することが大切だ。世界の75%の消費者が、総支出を増やす予定はないと回答。交通費削減や、最安値で商品を購入するため、Eコマースへ切り替える消費者も増え続けている。

生産や運用コストの高騰から、企業へのプレッシャーも甚大であり、製造方法やサプライチェーンの最適化など、利益率を低下させないために講じる策が求められる。また切り詰める消費者には、「Buy Now Pay Later」と呼ばれるような、後払い決済や先延ばし決済を提供し、特典などで顧客のロイヤリティを維持させることが大切だ。消費者の新しい購買習慣に対応すべく、柔軟で費用対効果の高い選択肢を提供することが求められている。

しばらくは不透明な先行きに備えた消費者の節約は続きそうだ。しかしこのような支出習慣がブランドに商機をもたらすことも事実。リターンや利益を得られる事業に集中するために、製品ポートフォリオ等の見直しを繰り返し、魅力的な支払い方法や品揃え、強力な提携による顧客ベースの拡大などで競争力を維持できるだろう。

 

スクリーンタイムの管理

今まで無意識に行ってきたインターネット活動が、意識的に行われるようになっている。選択肢が溢れる中で、効率の良い、自分に最適化されたデジタル世界を見出そうとしている。スクリーンタイム(画面を見る時間)を減らしたいと答えた消費者は世界の消費者全体の2割以上となっており、彼らは惰性でネットを閲覧するのは非生産的と感じている。

より有効にインターネットを活用するために、アプリやサブスクリプション契約の見直し、価値なしと判断したプラットフォーム離れも起きており、2022年には、消費者の5人に1人以上が、使用頻度が高くないソーシャルメディアのアカウントを削除している。企業はこの「スクリーンタイムの管理」の意識を受け止め、機能性と効率性の高いデジタル体験をサポートする必要がある。

合理化されたワンストップ・アプリも増加。買い物や資産管理、コミュニケーションといった日常的タスクを一括して行えるスーパーアプリが注目されている。使用体験が直感的なこともユーザーのストレスを減らし、自社サービスがあるプラットフォームの活用を促すことができるだろう。オンライン体験が簡単で包括的なほど、潜在的な売上に繋がると考えられる。

 

エコで経済的

全体的な支出を抑えようとする姿勢から、消費者の間ではリセールやリペア、廃棄物削減など地球環境を守る生活習慣も馴染んできている。省エネ型の商品、循環型ビジネスモデルとしての修理サービスやレンタルといったサービスを、多くの企業や団体が提供するようになった。

エネルギー効率の高い耐久消費財の開発や再生可能エネルギーの実現など、エコに向かう経済的動きは企業の創造性を駆り立てている。45%の業界関係者が、サステナブルな取り組みへの投資は今後5年間の自社の戦略的優先事項であると回答。2022年、サステナブル商品にもっとお金をかけてもよいと答えた世界の消費者は、全体の5分の1に満たなかった。サステナブル商品は今後、盛り上っていくカテゴリーではあるがコスト高なのが問題だ。

メーカーは売上維持と伸長を図るためにも、サステナブル商品の価格を従来の自社製品と同じ水準に近づけることが課題となっている。コスト削減とグリーンコマースが一体化したビジネスモデルが求められている。

 

ゲームの時代

今、最も人気のある娯楽はゲームといえるだろう。37%の消費者が、週1回以上オンラインビデオゲームに参加していると回答。世代間格差も、ゲーマーに対する固定観念もなくなりつつある。企業にとって、ゲーム文化に上手く入り込むことは確かな顧客拡大を意味する。

例えばeスポーツの熱心なファンは、応援するチームが愛用するブランドを購入している。また、ゲーム体験に費やす時間と共に、バーチャル製品やアドオンに対する投資も増加。2021年〜2024年の世界のゲーム内課金売上の見込み成長率は23%となっている。デジタル資産の所有は、物理的資産の所有と同等の価値を持つようになっているのだ。反対に、物理的な世界での製品デザインやイノベーションなどにもゲーム文化の影響が現れている。

マス市場となったゲームエンターテインメントが商機を意味する時代がやってきた。企業やブランドは、日常的な娯楽として成長したゲーム文化の消費者層に合わせた、自社製品やサービスを打ち出す戦略計画を練るべきである。

 

「今」を大切に

ここ数年間の経済の混乱で、消費者は今日という日を楽しもうとし、短期的にモノを買い換えるようになっている。50%の消費者が、人生を楽しんでおり、将来の予定について心配していないと回答。また買い物嗜好では、44%が時間節約のために積極的にお金をかける、と答えている。

価格は大切だが、心がときめくことが購入のきっかけになる。時間や健康、幸福感といった情緒的な価値が、衝動買いや高価な買い物を促しているのだ。予測不可能な明日を憂慮するよりも、賢くお金を奮発するなど適度な贅沢で日常の満足感を得ている。例えばポップアップショップ、期間限定セール、タイムセール、限定品などは、こうした消費者の衝動買いを誘う効果的な方法だ。また、消費者の経済的負担の軽減につながる「Buy Now, Pay Later」モデルなど柔軟な支払いオプションを提供することが重要だ。

ロイヤリティプログラムに参加することも賢い買い物方法として定着している。マーケティング戦略としては買い物やブラウジングの傾向を把握した上で、適切なタイミングで適切なメッセージを届ければ、購買欲の刺激となるだろう。

 

戻ってきた日常

パンデミック後の外出が再開し、自宅外での意欲的な消費が予想されている。激動の数年間を経て、人々は自宅に閉じこもることに辟易している。

39%の消費者が、今後5年間は対面での活動が増えるだろうと回答。リアルな体験や社交活動が戻ることを切望しながらも、パンデミックの経験で定着した、シンプルな生活習慣も保ちたいと考えている。勤務スタイルには出社とリモートワークの混合型もあり、オフィス街の活気が戻りつつある。コンサートやハッピーアワーなど、夜の街も賑わいが戻ってきた。レストランなどの予約数も、回復傾向にある。パンデミック後の消費者習慣の影響で日常的なシーンが変化している時代において、自社製品が活かされる機会を示せば、新しい顧客の獲得が可能になる。

サービス産業は、外出の楽しみやワクワク感の提供で消費者を支援することが大切だ。体験型の小売業や外食フードサービスなど、冒険心を刺激するアプローチも心を掴むだろう。

 

立ち上がる女性

女性の地位向上への声は消費者の間でより強く、大きくなっている。企業や組織は、ジェンダー格差のない世界をSDGsの到達目標の一つとして、また多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)を表す「DEI」という考えとして、基本的価値観の中心に据えるべきだ。女性は偏見や固定観念に対し常に戦っている。59%の女性消費者が、自分の選択や行動によって世界を変えることができると信じていると回答。労働環境の改善だけでなく、企業は自社の「DEI」を明確に定義し、社員の期待に応えなければならない。

商品開発では、アパレル企業が様々な体型や年齢層に対応した商品などのラインナップを拡大しており、性差別のない商品がスタンダードになりつつある。フェムテック(女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる商品)への投資も、ここ数年で爆発的に増加している。

企業には、女性にポジディブな影響をもたらす商品やサービスの提供が求められている。機会平等の重要性と、女性の異なるライフステージを認識し、「立ち上がる女性」の支持者として自社を位置づけるべきだ。

 

無理をしない生き方

仕事にもプライベートにも、気力体力が要求される混沌とした不規則な時代を生き抜く中で、人々の疲弊は極めて高くなっている。かつて重要とされた日々の職務よりも、自分の心の健康やニーズを優先したいと思っている。

消費者の「無理をしない生き方」という需要から、2022年の嗜好用大麻業界の成人用大麻小売売上高は250億米ドルに成長。CBD製品も120億米ドルになるなど、企業は様々なソリューションを提供している。労働面においては、週4日労働に移行している国もある。世界の消費者の55%が、今後5年間でより幸せになると思うと回答した。

企業は、彼らが求める安らぎや癒しを商品に反映し、サポートする存在として認識される必要がある。また自社内においても質の高い職場環境を提供し、コントロール可能な仕事量や透明性のあるコミュニケーションなどで、社員の意欲を維持することが大切だ。いずれにしても、特定のニーズに合わせたアプローチが有効である。

 

型にはまらない若者たち

Z世代という進歩的なタイプの若者が急増している。彼らは最も人格が形成される時期にパンデミックを迎え、年長世代よりも回復力や物事に抱く期待が高い。デジタルネイティブでもあり、既存のビジネスモデルに変革を与えつつあり、全人口の4分の1を占める彼らは大きな経済力となっている。

Z世代の48%がブランドと関わり、商品イノベーションに影響を与えたいと回答。従来の広告からは影響を受けることはなく、信ぴょう性と社会的インパクトを重視している。ソーシャルメディアは自分表現の舞台であるだけでなく、世界の新しい物事の検索エンジンであり、収入源にもなっている。ブランドがアピールできる時間は数秒だが、レビューから瞬時に爆発的な売り上げに繋がることも。コンテンツを作ったミレニアル世代の後を受け、デジタル上の企業と消費者のコミュニケーション水準を高めているのが、Z世代だ。

Z世代の支持を得ているのは、透明性があり公正で、共感できるコミュニケーションである。「型にはまらない若者たち」は、ロイヤリティ度は高くなく、事務的なエンゲージメントには反応が低い。社会的な立ち位置など企業のストーリー性は極めて重要であり、典型的な広告よりも、実際購入した人々からの推薦といった、企業やブランドにとって裏付けが「売り」になる。