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ラグジュアリー旅行商談会ILTMカンヌで感じた日本のニーズ、富裕層ビジネスで大切な3つのポイント

2023.01.27

2022年、日本開国と同時に、ラグジュアリーマーケットの最前線である数々の商談会に参加した、訪日旅行手配専門のDMC「BEAUTY OF JAPAN」代表取締役野口貴裕氏。前編では9月末に開催された商談会「Connections Luxury(コネクションズ)」の参加レポートをお届けした。

後編では、歴史あるラグジュアリー商談会ILTMのフラッグシップである「ILTMカンヌ」(2022年12月5〜8日)参加の様子をお届けするとともに、欧米の高付加価値旅行者層のトレンドや日本への期待のほか、野口氏が考える彼らとビジネスをするにあたって大切なポイントをお届けする。


▲ILTMカンヌ商談会、写真は東京ブースの様子(提供:BOJ株式会社)

 

世界最大のラグジュアリー商談会ILTMカンヌに参加して

3年ぶりの対面開催で感じた日本への期待、キーマンも多数参加

ILTM (International Luxury Travel Market)は、世界6地域、都市(仏カンヌ、アフリカ、中南米、シンガポール、北米、ドバイ)で開催されるが、なかでもカンヌはフラッグシップ。数千人が3フロアーにまたがる会場に集まる世界最大規模のラグジュアリー商談会で、1センション20分の商談を繰り広げる。前回、レポートした「Connections Luxury」は、2022年は過去最大規模だったとはいえバイヤーとセラーが各100社ずつで、体験や交流を深めることを主とするものであり、性格が異なる。

とはいえ、Connectionsで感じた「日本が開くのを待っていた」という期待感は、今回のILTMカンヌでもとても強く感じた。2021年のILTMはオンラインとリアルのハイブリッド開催だったため、今回は、コロナ禍以降初の完全対面開催となり、GMやディレクターなどバイヤーのキーパーソンが多数参加する質が高い商談会となった。

過去3年近く閉ざされていた日本の扉がようやく開いたこともあり、「日本ではやはりみんなマスクをしているのか?」「どんな新しいホテルがオープンしたのか?」など日本の最新状況を知りたいというバイヤーがとても多かった。コロナ前までの取引先とのビジネスだけではなく、新しいビジネスパートナーを見つけて「新たなスタート」としてやっていきたいという人もいた。日本からは56事業者が出展していたが、そういった点から我々のようなDMCにとっても、ホテル、宿、自治体にとってもいい商談会になったと思う。


▲ILTM カンヌの会場(左)、参加者向けにイベントも行われた(右)(提供:BOJ株式会社)

 

商談会で感じたバイヤーからの最大のニーズ「返事のスピード」

ILTMカンヌには、欧米をメインに中東、アフリカ、アジアと全世界からバイヤーが来ていたが、彼らがいま日本のセラーに求めているのはまず、問い合わせに対する返信が早いことだ。9月以降、日本のDMCには問い合わせやラストミニッツのリクエストが急増。どこのDMCも見積もりだけでも3週間はかかるという状況で、バイヤーはとにかく返事をくれるところを探していた。今はバイヤーからの需要が圧倒的に供給を上回っている。

さらに、高付加価値旅行者層が好むラグジュアリーなブティックホテルなどの宿泊施設がどこも満室で空いてない。ホテルなどではコロナで人員削減していた状況のまま、9月下旬に突如として政府が海外に門戸を開けることを発表し、どこも採用が追い付かず人手不足になっている。さらに国内も全国割や修学旅行の復活で、東京、京都、高山などの人気エリアではなかなかホテルが見つからず、対応ができないというのが現状ではある。

ガイド不足も悩みの種だ。もともと数が少ない中に、需要が急増した。特に英語以外の言語のガイドがまったく足りていない。例えばドイツ語の希望が来ても英語で対応しているという状況だ。

 

高付加価値な旅を望む層の旅行動向やニーズ

非日常な体験を求め地方へ、「万人受け」けより「ユニークさ」

それでは彼らが訪日旅行に求めているものはなんだろうか。Connectionsでも同様だったが、今回のILTMでも家族旅行、3世代の旅行のニーズを感じた。もう一つは、自然や温泉、そしてハイキングなどといった癒しやウェルネス、非日常体験の潜在需要だ。そのために地方に行ってみたいというリクエストもある。そういった地域を開拓し、予算や滞在日数などに合せてこちらからゴールデンルートにプラスアルファの提案をしていくことが重要だと思う。

一方、地域が旅行者を獲得するために必要なのは、ラグジュアリー層向けの宿泊施設、現地ガイド、そしてその地域なりのユニークなコンテンツだ。旅行者が地方部を訪れる際は必ずしも都心にあるような5スターホテルを期待しているわけではない。一番の訴求力となるのは、その地域が持つコンテンツだ。欧米のラグジュアリー層に万人受けするコンテンツというのはない。美術や陶器、日本刀だったりと、人それぞれ興味が異なる。地域のコンテンツが、どのセグメントに合うかを見極めることが重要だ。


▲商談会では、日本の名産、特産品もふるまわれた(提供:BOJ株式会社)

逆に言うと、地域の持つコンテンツこそ、旅行者に旅のプランを提案する我々DMCの引き出しになっていると言える。傾向としては、単なる観光から一歩踏み込んで、地域住民との交流、地域のライフスタイルを知る体験や食のコンテンツへの要望は強い。商談会のなかでは具体的に出なかったが、ベジタリアン対応のリクエストは増えてはいる。また、バイヤーが求めている言語への対応について、多言語は難しくても少なくとも英語対応ができればありがたい。

 

プロモーションは、旅行者とエージェントの双方へ訴求を

 ヨーロッパの旅行者(特にハネムーナー)に多いのだが、旅の最後の何日かはビーチでゆっくりしたいという志向があり、日本に行ってから東南アジアの島に立ち寄るという人も多い。日本でもそのような場所はないのかという質問はよく受けた。日本にも沖縄や様々な離島があるので、島の紹介をしつつ、また、たとえば神戸から1時間ほどの場所にある丹波篠山といったような、ちょっと足を伸ばせばいけるような地域もいくつか紹介した。総じて、欧米旅行者は自分が興味を持っていることにお金をかける傾向にあり、ニーズをしっかり聞き出した上で、マッチする地域を提案ルートに入れることが多い。

首都圏以外で開催されるイベントでいえば、瀬戸内国際芸術祭や、2025年大阪で開催される日本国際博覧会(万博)のことなどは紹介した。一方で、世界遺産というブランドは欧米系の旅行者には通用しにくい。世界遺産に認定されていることではなく、あくまでその場所のストーリーやコンテンツが重要だ。ゴールデンルート以外では、金沢、高山、広島が知られているぐらいで、バイヤーはもちろん、DMCなど我々のような日本のセラーも、地域からの提案を待っている。そして、その内容が旅行者もいきたいと思えるようなものであることが大事だ。いま地域は、旅行エージェントから、旅行者に提案してもらえるようなプッシュ型のプロモーションに加え、旅行者に直接訴求をして彼らの興味をひき、旅行エージェントにリクエストしてもらうようなプル型のプロモーションの両方を行い、旅行エージェント(to B)と旅行者(to C)、それぞれへアプローチしていくことが重要だと思う。


▲ILTMでバイヤーと商談をする野口氏(提供:BOJ株式会社)

SNSが発達し、旅行者はインスタグラムやYouTube、ブログなどの情報源から容易に事前リサーチができてしまう。そのようななか、我々DMCは旅行者の期待以上の旅をプロデュースすることが求められ、そのためには、各地域の特徴や魅力を活かしたコンテンツを必要としている。そのコンテンツとは、先ほども述べたが、万人受けするものではなく、特定のセグメントに刺さる少々尖ったコンテンツであることが望ましい。

 

高付加価値旅行者層とのビジネスをする上で大切なこと

3つのポイント、旅行者の行動や嗜好を知り、柔軟な対応で、信頼関係を築く

DMCとして高付加価値旅行者層に対して旅の提案をするなかで、こうした方たちを相手にビジネスをするにあたって大切なのは、まず1つ目に「旅行者の行動や嗜好を知ること」だと思う。一例でいうと、新幹線を降りたところではきちんとネームボードを持ってガイドが待っているなど、シームレスにことが運ばないといけない。休暇でリラックスしたいと思って来ているのだから、旅の中でストレスがたまらないようにストレスフリーであることはとても大事なのだ。

また、ラグジュアリーという考え方について言えば、「すべてがレッドカーペット」である必要はない。自己実現のためのアクティビティや非日常の体験をすることも大切で、何がなんでも高級でないといけないということはない。

2つ目に「柔軟性」も大事だ。明日のツアーを変えたいとか、当初の希望にはなかった別の場所に行きたいといった変則的な要望に対応ができること。例えば、事業者でいうなら、コースメニューを頼んでいたとしても、要望に応じて変更してあげるといったことだ。特に彼らには、教科書通りの対応というわけにはいかない。東南アジア旅行では、少しお金を足せば柔軟にやってくれるのに、日本はなぜだめなんだということはよく言われる。代案も含めて、希望に柔軟に対応できるようにしたい。

また、ガイドは一番と言っても過言ではないほど、高い満足度の実現に大切な要素である。英語力を含むコミュニケーションスキルは重要だが、エンターテインメントスキルや柔軟性も大事。趣味や興味について楽しく話してくれる、行程をすぐに変えてくれる、地元のラーメン屋に連れて行ってくれるなどといった、旅行自体を楽しいものにできる機転や柔軟性も必要だ。


▲豪華さだけでなく、柔軟な対応、本物に触れる機会や非日常の体験も価値になる

3つ目に、丁寧できちんとした対応をしたり、旅行者が期待する以上のプランを入れるなどすることで「信頼感」を与えることも大切だ。彼らは多くの場合、信頼を置くおかかえのエージェントに旅行の依頼をする。そのエージェントと我々DMCの間でも信頼のおける仕事をすることが当然ながらとても大事になると思う。

 

BOJ株式会社 (Beauty Of Japan) 代表取締役
野口貴裕

中学卒業後、カナダへ単身留学。現地にて大学卒業後、帰国。ソニー株式会社へ入社。翌年よりアメリカへ赴任し、ブランドマネージャーとして従事。 約12年の北米滞在歴、45カ国以上の旅行経験から日本の魅力を再認識すると同時に、「本当の日本の美しさ」が海外に知られていないことを実感し、2014年10月にインバウンド業務に特化したBOJ株式会社を設立。ツアー事業、文化体験事業、コンサルティング事業を展開し、年間25,000人以上の欧米豪を中心とした個人/団体旅行者の予約手配をすると同時に観光庁やDMO、地方自治体向けに着地型商品造成支援や海外プロモーションサポート、講演などを行う。