インバウンドコラム

ラグジュアリートラベル商談会「Connections」から見る、アフターコロナの富裕層の旅行動向

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インバウンド熱の高まりとともに、旅行博への出展や参加、現地旅行会社へのセールスコールは一般的になってきたが、事前審査を通過した企業や個人だけが参加できる「ラグジュアリートラベルに特化した商談会」がどのように行われているのか、まだ知らない人も多いのではないだろうか。

私、野口貴裕は、訪日旅行手配専門のDMC「BEAUTY OF  JAPAN」の代表で、1回の旅行で1人当たり平均100万円以上を使う、高付加価値旅行者層を多く扱っている。今回、2022年9月25日~28日にイギリスロンドンで開催されたラグジュアリートラベル商談会「Connections Luxury London2022」に参加して経験した内容を基に、商談会の特徴、弊社が取り扱う旅行者層の旅行動向や、コロナ禍での変化についてレポートする。

(提供:BOJ株式会社)

 

ラグジュアリートラベル商談会「Connections Luxury」について

ラグジュアリートラベル商談会ならではの特徴とは?

Connections Luxuryは、インビテーションを受けないと参加できないラグジュアリートラベルに特化した商談会の一つだが、ラグジュアリー商談会としてよく知られているILTM(International Travel Luxury Market)などとは運営方法が大きく異なる。ILTMはブースで商談を行う形式だが、Connectionsの場合、1セッション20分間の中で、バイヤーとサプライヤーがお酒を試飲したり、自転車を漕ぐといった体験を共にする。まずは体験を共有して人と人との繋がりを創るのが主で、実際の商談は5分程度だ。


▲お酒の試飲の様子(左)外に出てのアクティビティも用意されている(右)(提供:BOJ株式会社)

事前アポでマッチした相手と、中にはそのままテーブルで話すケースもあるが、通常は約10種類ある体験の中から選んで一緒に参加して、またテーブルに戻るのを繰り返す。ただ商談をするだけではなく、同じ体験をすることで、思い出や感情を伴った対面が記憶に残るし、相手との相性もより明確になり、ビジネスにおいて重要なコネクションを得る場であるわけだ。

 

世界中で開催される商談会「Connections Luxury」の実態を解説

Connections Luxuryは、今回のロンドンのような本体開催が2022年は年2回(あと1回はポルトガル領マデイラで6月開催済み)、2023年は3回が予定されている。これ以外に、本体開催ではないBESPOKEと呼ばれるデスティネーションがホストする商談会があって、こちらの参加基準は本体主催のものよりゆるめだ。今年の11月に東京でも開催予定で、サプライヤーとバイヤーがそれぞれ32社ずつ参加する。バイヤーとサプライヤーが何十カ国から集まる本体開催と違って、BESPOKEの場合、サプライヤーはそのデスティネーションからのみ。東京で言えば、日本の事業者しかおらず、バイヤーも日本に興味ある事業者しかいないのが特徴だ。

▲Connections Luxury Londonの様子(提供:BOJ株式会社)

 

どうすれば、「Connections  Luxury」に参加できるのか?

本体開催の商談会「Connections Luxury」は、ラグジュアリートラベルに関するプロフェッショナルのコミュニティのような要素が強い。参加資格を得るには、Connectionsのオフィシャルメンバーになってコミュニティに入る必要がある。我々のようなサプライヤーは事前審査があって基準をクリアすることが求められ、バイヤーも購買力がないと参加はできない。私の場合は、2020年に東京観光財団がConnectionsのBESPOKEイベント「Connections Luxury Tokyo」を開催した折に、募集していたサプライヤー枠に応募して参加したのが最初のきっかけで、その後、申請して正式にオフシャルメンバーになった。

▲商談会テーブル(提供:BOJ株式会社)

 本体開催のConnections Luxuryへの参加回数によって、オフィシャルメンバー会費は3種類に分かれていて、2023年は3回のうち1回参加の新会員で5000ポンド(約83万円)程度。イベント参加にかかる料金は全て会費に含まれるほか、4半期に1度のバーチャルミーティングと、年数回開催されるバーチャルでの有識者によるラーニングイベント「コネクトトークス」にも参加することができる。審査基準は明らかにされておらず、年会費を払えれば誰でもかれでも参加できるわけではない。日本のDMCは2社のみ、ホテルもまだ2、3社というところだ。

 

9月に開催、過去最大規模の商談会「Connections Luxury London」

9月25日~28日にロンドンで開催された今回のConnections Luxury Londonでは、26日(会場:Nobu Hotel)、27日(会場:Royal Lancaster)が商談会で各日10セッションを行った。25日と26日の夜にはカクテルレセプション、27日の夜は着席式のディナーが開かれて、懇親を深めた。


▲カクテルレセプション会場(提供:BOJ株式会社)

 今回は、日本からのDMCは弊社のみ、あとはホテルが3社と東京観光財団が参加していた。普段は60程度の限られたメンバーで開催しているが、今回は全体で100サプライヤーと100バイヤーからなる過去最大規模だった。

本体開催での商談相手は、初めての相手国を開拓するのか、安定的なところを選ぶかなど考えながら、お互いにマッチングを図る。マッチングリストには、実績、平均単価、客層、売れ筋のデスティネーションなどが掲載されている。参加しているサプライヤーは旅行会社、ホテル、東京観光財団のような観光局など。バイヤーは、旅行会社が多数で、ほかにツアーオペレーターやツアーコンシェルジュなどの参加者もいる。


▲カクテルパーティーの様子、参加者同士が交流して会話を楽しんだ(提供:BOJ株式会社)

今回開催されたConnections Luxury Londonは、バイヤーのうち90社つまり90%がUK、その他の国が10%で、サプライヤーは日本やアメリカを含めて様々な国から来ていた。2023年の本体開催は、バルセロナ、ロンドン、オマーンになるが、バルセロナではバイヤーは50%がUS、40%がUK、10%がその他。オマーンではバイヤーの50%が中東諸国になる。このあたりもにらみながら、どれに参加するかを決めることができるのが特徴の一つである。


▲海外旅行の本格的な再開を受けて、活発な交流と商談が行われた(提供:BOJ株式会社)

 

高付加価値旅行者層向けビジネスについて 

1回の旅行で100万円以上使うトラベラーの旅のスタイルとは?

弊社顧客は、7割が個人客で3割が10人以上の団体、欧米が95%で残り5%がアジアという内訳だ。初めての来日という顧客が多く、予算は1人80万円から600万円と幅があるが、平均すると150万円ぐらい。5スターのホテル、ガイドとドライバーつきの専用車に、特別な体験プランを組み込むことが多いので、一人の予算は100万円を超えることが多い。

ミシュラン星つきレストランの予約リクエストも多い。宿泊については、旅館に1泊か2泊は必ず泊まりたいというリクエストは多いが、布団でもいいかどうかは好みが分かれる。客室にプライベートな風呂があることはマストなので、ベッドと個別の浴室のある旅館というリクエストに応じられるようにしている。ショッピングのリクエストは、土産ものはないが、たまに刀やアンティークを探したいとか、ご夫人からの包丁を買いたいという希望は多い。

旅行エージェントは日本のことをよく知っているが、旅行者はそうでない方が多い。そのため、日本をあまりご存知ない顧客とのメールでのやりとりのスタートは、予算、家族構成、希望の季節などをヒアリングして、提案を入れながら行程を考える。東京から京都へ行くのに、金沢ルートか箱根ルートをとるが、金沢なら白川郷を含む提案を入れる。さらに日数に余裕があれば、広島で宮島、アートに興味ある人には直島、また高野山宿坊に一泊なども提案する。ただ、高級なものだけではなく、例えば日本の田舎を経験したいという方には相応の場所を組み込むこともある。


▲外国人にも人気の白川郷

 

高付加価値旅行を好む層のゴールデンルート以外の目的地へのニーズは?

北海道のリクエストも少しずつ増えてきており、道東の釧路から阿寒湖や摩周湖を経由して知床へ抜けるコースが好まれ、たまに根室を回りたいという要望が出た場合は、コースの中に入れるようにしている。スキーはこれとは別枠で、ニセコで一棟貸切といった要望がある。

四国は、高松経由で直島に行く人が増えたので、それに伴い松山から広島というルートもできた。九州は、特にヨーロッパの人からの要望が多く、長崎、熊本の黒川温泉や阿蘇、鹿児島も含まれることが多い。

ハイキングをするために鹿児島から飛行機で屋久島を目指すという方もいる。沖縄は、本島、石垣島などあるが、全体としては少ない。日本にビーチリゾートがあるのが知られていないのと、バリやプーケットといったアジアのビーチと比較した時に、海に入れない時期があるのがネックになってしまう。

 

コロナ後、高付加価値旅行者層の旅に生じた変化は?

コロナ前後で変化があったと思うのは、顧客層だ。コロナ前は60〜70歳代などご年配のご夫婦が多かったのが、アフターコロナでは家族でのリクエストが増えてきた。

また、コロナ前は12日間で3~4都市を回るというのが平均的な旅程で、東京と京都に各4泊ずつ、残りはゴールデンルートの間にある箱根や金沢に数日滞在するというのが王道だった。ただ、最近は、直島に行きたいと行ったリクエストも増えており、ゴールデンルートから四国に足を延ばすため、東京・京都の滞在を各3泊などというように主要都市の滞在が短くなる傾向にある。


▲欧米豪など中心に知的好奇心の高い外国人旅行者に人気の直島

弊社は体験メニューをたくさんもっているのが強みではあるが、コロナ以前は東京なら茶道や寿司作り体験など定番の体験を入れると満足してもらえる感じだった。しかし、最近はリクエストがより具体的になってきている。たとえば、九谷焼の窯元に行きたい、刀鍛冶の工房に訪問したい、盆栽の先生に会いたいなど、特定の関心に基づくピンポイントのリクエストが増えた。さらに日本人との触れ合いを求める傾向もある。といっても堅苦しいものではなく、旅先で会った日本人旅行者や地元の人たちと言葉を交わすといった気軽なコミュニケーションだ。

 

世界の高付加価値旅行者層の日本への旅行熱どう応えるか

今回のConnections Luxuryでは、入国規制の緩和を、首を長くして待っていたという日本への旅行熱を強く感じた。日本で一番強いコンテンツは「桜」で、これは不動だが、ほかにはどの季節に行けばいいのかというのも、旅行会社の関心ごとのようでよく聞かれた。

こうしたバイヤーの思いを受けて送客を増やしてもらうのにまず一番大事なのは、片言でもいいので「英語でのコミュニケーション」が取れるようにすること。次は「情報の集約化」。日本はインターネット上に情報がありすぎることもあれば、非常にわかりづらいことがあるなど、どれを見ていいかわからないことが多い。高付加価値旅行者層は、友人知人家族の口コミが旅行のきっかけになる場合が多いようだが、その次が旅行エージェントからのおすすめで、ブログもランクは高かった。一方でSNSは低いことも頭に入れておく必要がある。

日本の開国に合わせて、海外から観光客がどんどん入ってくるようになった。彼らは自国ではもうマスクを着用してはいない。日本でも屋外でのマスク着用は原則不要になっている。それを考えて、マスクをしていない人に対してもウェルカムの気持ちをもって迎えてもらえればと願っている。


▲(提供:BOJ株式会社)

 

BOJ株式会社 (Beauty Of Japan) 代表取締役
野口貴裕

中学卒業後、カナダへ単身留学。現地にて大学卒業後、帰国。ソニー株式会社へ入社。翌年よりアメリカへ赴任し、ブランドマネージャーとして従事。 約12年の北米滞在歴、45カ国以上の旅行経験から日本の魅力を再認識すると同時に、「本当の日本の美しさ」が海外に知られていないことを実感し、2014年10月にインバウンド業務に特化したBOJ株式会社を設立。ツアー事業、文化体験事業、コンサルティング事業を展開し、年間25,000人以上の欧米豪を中心とした個人/団体旅行者の予約手配をすると同時に観光庁やDMO、地方自治体向けに着地型商品造成支援や海外プロモーションサポート、講演などを行う。

 

 

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