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【特集】訪日客数増加率1位のベトナム、地方誘致と高付加価値化に向け観光事業者が何をすべきか?

2023.05.18

訪日旅行が再開されて以来、ベトナムからの訪日客数は2023年1月〜4月の合計で21万6千人、2019年同期比21.5%と、全市場で伸び率1位となっている。東南アジアでは、タイと同様に親日国として知られ、自国にはない四季や地方の自然、日本的な伝統文化や買い物などを楽しみに日本にやってくるのが、ベトナムからの旅行者の特徴だ。

ここでは、なぜベトナムからの訪日がここまで大きく伸びているか、その要因を分析。ベトナム市場からリピーターを獲得するための方法、また日本への期待やニーズを踏まえて地域の観光事業者がどのようなことに取り組むことができるのか、さらにベトナムからの訪日拡大に向けた課題について、ホーチミンを拠点に観光マーケティングやプロモーションに従事する中で感じていることを紹介する。

>>インバウンド完全回復への期待高まるなか、東南アジアに注目すべき理由

 

2019年比3割増、ベトナムからの訪日が増えている理由はどこにあるのか?

訪日客数が勢いよく回復するベトナムでは、2022年のGDP伸び率も前年比8%を越えた。経済成長の著しいベトナム市場には、世界中の旅行業界からも注目が集まっている。

ただ、日越の航空路線の離着陸数がコロナ前の水準に戻っていないことを考えると、現在の訪日客数の伸びに関しては、大半はコロナ禍で来日できていなかった技能実習生と留学生の数であり、2019年の実質の観光客数約20万人だった時とほぼ変わっていない。そうした中でも、旅行解禁後の日本が紅葉、年末年始、雪、桜といったトップシーズンだったことが、ベトナムからの観光客誘致に繋がったことは間違いない。

 

4泊5日で15万円の訪日ツアーがベトナム人に売れない事情

現在、ベトナムで販売されている日本ツアーは4泊5日で15万円程度がスタンダードになっている。しかし、ベトジェットエアやバンブー・エアウェイズなどのLCCが、現地旅行会社に安い航空運賃で卸したこともあり、平均価格を下回る格安商品が売り出され、人気が集中した。そのため、日本の旅行会社が出したツアーは、価格競争に負け、全く売れないという事態に陥った。

こういった状況の中、現時点での大きな問題は、いわゆる東京から富士山を経由して大阪・京都をめぐるゴールデンルート以外の商品を打ち出せていないことにある。日本のデータでは、ベトナム人の70%以上が初めての訪日と言われている。確かに、2回目までは、ゴールデンルートを回るが、3回目のタイミングでは、もうパッケージ型の団体ツアーには参加しない。団体行動が中心となり自由に移動できない日本に行くのを辞め、韓国など個人旅行ができる場所に行ってしまうベトナム人が増えている。現在、ホーチミンにもハノイにも日本への旅行が3回目という人は、増えてきている。このターゲットに向けた、ゴールデンルート以外の旅行商品の開発が急務と言えるだろう。


▲定番のゴールデンルートだけでなく、地方誘致に繋がるコンテンツ開発が欠かせない

 

ベトナムの若年層に人気の韓国に、顧客を奪われてしまう現状

ホーチミンでは、日本のアニメ、漫画、コスプレ、コミックマーケットは大変に人気があり、若者を中心にものすごい熱を感じるが、日本の旅行ツアーには繋がっていないのが現状だ。そこには、日本のライセンスの問題でツアー商品として販売するのが難しいといった複雑な事情がある。

逆にそういったマーケットをうまく掴んでいるのが韓国だ。韓国は国策で、K-POPなどのKコンテンツを推していて、ネットフリックスで見ることのできる韓国ドラマの聖地巡礼ツアーは、若者に人気だ。BLACK PINKなどのアーティストも人気があり、韓流スターのコンサートは即完売している。そういう状況もあり、10代~20代の新しい世代は、日本への関心がそこまで高まっていない。

 

日本の可能性、会社経営やモノづくりを学ぶ目的特化型ツアー

かつては、訪日旅行のヘビーゾーンだった20代~30代のベトナム人が、時を経て現在は30代~40代となっている。その世代の中には、ローカルIT企業やメーカーの社長という人もいて、彼らは日本で会社経営や事業、ものづくりを学びたいと思っている。

こういった人たちのニーズは、目下韓国や中国にとって代わられることはないので、一つ日本が狙うことのできるターゲットではある。実際、高所得のビジネスマン層に向けたイノベーショントリップを模索する旅行会社も増えている。

実際、ホーチミンでは、4年前に月1,000米ドル程度の給与で日本語が話せるプレイヤーを採用できていたのが、現在は1,500~2,000米ドルが採用条件となっている。ITのプレイヤーやエンジニアともなれば、4,000~5,000米ドルクラスが主流だ。もちろん、毎年、最低賃金もあがっているため、急激に所得の高い中間層が増えているのだ。


▲急成長するベトナム、ホーチミンなど都市部では高層ビルが立ち並ぶ

なお、弊社で観光業に従事するベトナム人のグエン・ドク・フイによれば「日本の商品の品質の高さに信頼を置いているベトナム人は多く、食品やサプリ、化粧品といったものへの購買力は高い」と語る。またこれらの日本の商品は、並行輸入され、ベトナムでは日本の2倍の価格で売れているのだ。この状況を考えると、訪日旅行の際に、ショッピングを組み込んでいくとことも市場を広げる可能性の一つとなりうる。

また、現在、技能実習生を含め、在留ベトナム人から、様々な情報を得るベトナム人が増えている。FacebookやYou Tubeからも情報を得る層が多いので、日本側も、新しい日本の魅力をどんどん発信してくことが、潜在的な訪日客層の開拓にも繋がるはずだ。

 

富裕層は、永住権の取得も可能な米国・豪州・カナダなどを行き先に

高付加価値な旅行に関しては、ベトナムのコングロマリット(巨大複合企業)であるサングループは、プライベートジェットの会社と業務提携をし、ベトナムの富裕層をプライベートジェットで各国地域へ送り出す独占ツアーを行っている。米政府は米国の土地、建物、企業などに一定金額以上投資した外国人にビザ免除をはじめとした特権を付与するという制度を設けている。観光で富裕層を誘致し、一定額の投資に対して永住権を与える動きは、カナダやオーストラリアなどで行われており、世界中の富裕層を取り合っている状況だ。日本ではそういった大胆な提案ができないため、本当の富裕者層を誘致することができていない。また、もう一つの大きな要因としては、ベトナムからの訪日は個人旅行ビザ取得のハードルが非常に高いことだ。滞在期間中の全旅程表の提出が求められる上に、条件も非常に厳しいため、個人旅行はごく一部にとどまっている。

これは一つの例だが、鎌倉にあるVIPしか泊まれない宿に親子家族で、エージェントに申し込みがあった。息子夫婦は30代後半でIT会社を経営しているキャッシュリッチな層で、彼らは、海外に留学し、意識も高く、マナーも心得て、海外旅行にも慣れているため、格安ツアーに行きたがらない。一方、親世代は海外旅行も初めてで、昔ながらの旗を持って、団体でぞろぞろ歩くツアーに参加する層だ。結果ニーズがあわずキャンセルになった。つまり、このようなキャッシュリッチ層を掴もうとすると現段階のビザでは限界があるということになってしまう。

 

ベトナム人にとっての日本、自然や古い建物が残る地方こそが魅力

経済成長著しく、富裕層や高所得者層も増えるベトナムに世界中が注目し、競争も激化しつつあるなかで、日本の可能性はどこにあるのか。

ベトナム人のフイによれば「自然が豊かで、寺院や古い建物が多く残っている地方は人気がある。実際、日本在住のベトナム人たちも、必ずしも大都市が良いとは思っておらず、いろんな地方に行き、その良さを知っている」と語る。しかし、現状、今年の夏には戻るであろうと言われている地方のチャーター便が、全く復活していない。コロナ前、地方自治体は、東アジアへの誘致から、欧米、東南アジアにターゲットを切り替え、予算を投入して航空路線の誘致や訪日客受け入れの準備をしてきた。一方、3年間のインバウンドゼロという経験を経て、訪日客誘致にイチから取り組まなければいけないとなった時に、多くの地域が再び東アジアに目を向けるようになった。「中国、台湾の客を取り戻さないといけない」「やっぱり香港だ」となり、地方空港は東アジアの航空路線で埋まってしまい、人材不足なども相まって、ベトナムの航空会社を誘致できない状況となっている。

現在、ベトナムの経済発展は上昇を続け、インフレ率も3.5%前後で物価も安定的に推移するなか、人件費は6パーセント上昇と、非常に良いバランスを保っている。そのことを考えれば、ベトナム人にとって日本の旅行はリーズナブルであり、裾野も広がっている。このタイミングでベトナム市場に積極的に攻めれば、地方も先駆者となるチャンスを掴めるのだ。また、これまで、訪日ビザの発給はハノイの日本大使館とホーチミンの日本領事館のみだったが、ベトナム中部のダナンでも許可されるようになったことは日本にとって良い情報だ。在ダナン日本国総領事館の管轄地域は、ダナン市を中心に8省となっており、カバーするエリアも多く、ベトナム中部の人たちがツアーで日本に来る可能性は、今後多いに期待できる。


▲ベトナムのリゾート地として国内外に人気のダナン

 

ベトナムと地方の航空路線誘致、地方からの「アウトバウンド」がカギに

そういった状況下で言えるのは、日本企業も地方自治体も、そろそろインバウンドとアウトバウンドを分けず、セットで考えることだ。地方自治体は、外国人旅行者に地域に来てもらうことばかりを考えているが、県民市民に対して海外旅行に出てもらうことが航空路線誘致への重要な要素となっていることに気づいていない。ベトナムから韓国へ行く人がなぜ多いかといえば、復路便に、韓国からベトナムへ旅行する乗客がいるからだ。日本の地方に飛行機を飛ばしても誰も乗せずに帰って来る状態では、結局、航空運賃を下げられないのが実情だ。一部、「ベトナムへ行こう!」というフェスを開催している自治体もあるように、同時にアウトバウンドを促進する取り組みも開始していくことが、地方自治体の早急課題と言える。今年は、日越50周年なので、ぜひ、日本の行政・民間プレーヤーもその点に注目してほしい。

 

東南アジアの中でも、「ベトナム市場」に注力することの意義

訪日客数の側面で大きな規模となる、香港、台湾、韓国、タイなどが頭打ちになっている中、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど経済成長も著しい東南アジアが次に拡大が見込める市場になっていく。インドネシアやマレーシアも成長は著しいが、一方でハラール対応に課題があり、フィリピンは他国ほど日本に関心が向いていない。そういった要素を考えると、やはりベトナムが最もポテンシャルのある市場と言えるのではないか。日本旅行に出かける経済力を持つ中間所得者層が年8%増えているのも大きい。個人旅行ビザが解禁になれば一気に訪日客数が100万人を超えるのも間違いない。ベトナムマーケットは、中長期的に考えても、アジア圏の中でNo.1となっていくだろう。

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有限責任会社グローバル・デイリー ベトナム 代表
中原 宏尚

2000年3月、DACグループ(現DAC-ホールディングス)入社。日本国内の旅館コンサルを経験し、2008年グローバル・デイリーの前身となる、インバウンド事業部をイントラプレナーとして設立。2013年にグループ内より分社化させ、社名を株式会社グローバル・デイリーとして法人化、代表取締役社長に就任。 同年、訪日外国人向け日本情報発信プラットフォーム「Japankuru」事業開始。2018年、訪日外国人をHappyにするための起案専門クラウドファンディング「J.funding」事業開始。そして2019年、クロスバウンドの事業実現のため、ベトナムホー・チ・ミン市に、グローバルデイリーベトナムを法人化。代表取締役社長に就任。現在に至る。