インバウンド特集レポート

【特集】インバウンド完全回復への期待高まるなか、東南アジアに注目すべき理由

2023.05.17

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政府は、新型コロナウイルス感染症を5類に引き下げ、入国時のワクチン接種証明や陰性証明の提示など、全ての水際規制が撤廃となり、インバウンド完全回復に向けて動き出した。

2023年3月31日に政府が発表した観光立国推進基本計画では、地方誘客や消費拡大につながるアクションを喚起させ、「アドベンチャートラベル」「サステナブルツーリズム」「歴史、文化遺産の活用」など、高付加価値な旅行を好むターゲット層の獲得に大きく舵を切った。こうしたテーマによって、知的好奇心の高い欧米豪圏からの旅行者層の獲得に大きく注目が集まっているが、新興市場にも目が離せない。特に、東南アジアは、海外旅行に出かける中間所得者層が急速に増加し、新たな旅行者を獲得できる可能性が高い。

 

急速に回復するインバウンド、東南アジアの多くは8-9割まで回復

2022年10月の上限5万人としていた入国者数の上限撤廃と、個人旅行客受け入れ再開以降、訪日外国人数は一気に増加した。2023年1月の訪日外客数は149万7472人、2月は147万5300人と順調な伸びを見せ、3月には181万7500 人と2019 年同月比 で65.8%にまで回復。2022年10月の個人旅行再開以降、最高の人数を記録した。桜のトップシーズンにより、一気に観光需要が高まったことやクルーズ船の運航再開なども影響している。こうした状況を踏まえ、JNTOも訪日旅行の人気は依然衰えていないとしており、今後さらなる増加に期待がかかる。

また、2023年1-3月の訪日外国人旅行者数は、米国、ベトナム、シンガポール、中東の4市場が2019年同期比プラスとなるなど、コロナ禍の移動制限を経たリベンジ消費も活況となっている。

なかでも、コロナ依然と同様大きな割合を占めるのが東アジア市場だ。韓国は、2023年1~3月累計160万700人(2019年同期比76.9%)で、総数ではトップを誇る。2位の台湾は、出境規制などの影響もあり78万6700人(同66.1%)となっている。3位の香港は、41万6,200人(同82.4%)となり、堅調に回復している。

東南アジアにおいても、回復が進んでいる。4位の米国に続き、5位のタイは、24万4700人(同70.3%)、続く6位のベトナムは、同131.3 %の16万1,000人となっているほか、シンガポールは同115.2%で10万6,500人、フィリピンは同92.3%の10万200人、マレーシアは同82.6%の9万8,000人、インドネシアは85.4%の8万2600人と、多くの市場でコロナ前と比べて8-9割の水準まで回復している。

 

現在も大きな割合を占める東アジア、回復目覚ましい東南アジア

ここで改めて思い出したいのが、約3200万人に上った2019年の訪日外国人のうち、中韓台香港の4市場が、全体の約7割の2200万人以上を占めていたことだ。中国からの訪日はビザ発給再開に時間がかかり、回復が遅れているものの、中国からの訪日が本格再開すれば、香港や台湾を含めた東アジアが引き続きインバウンドの中心になっていく。
さらには、親日派が多いとされる東南アジアの国々は、今もなお日本への関心が高いことに注目したい。なかでも、経済成長率の高いベトナムは、2月の訪日外国人旅行者数が単月で過去最多となる5万5800人を記録(2019年同月比41.7%増)、1月~3月の累計は16万1000人で22市場で伸び率トップの31.3%増だった。シンガポールも1月〜3月の累計10万6500人で伸び率2位の15.2%増となり、両国を含めた東南アジアは今後さらに旅行需要が見込める市場として、注目されることが予測できる。

▶2022年4月~2023年3月訪日外客推移(2019年同月⽐)


出典:JNTO

 

東南アジアからの訪日増が期待できる3つの理由

東南アジアから訪日客への期待が高まるのにはいくつか理由がある。まず第一に、東南アジアの経済成長とともに、中間所得層が増加し、海外旅行に出かけられる人が増えたことが挙げられる。ベトナムやフィリピンなどASEAN主要国の1人当たり国内総生産(GDP)は、中間所得層の消費拡大の目安とされる3000ドルをコロナ禍においても上回って推移しており、1年以上前から海外旅行も再開されている。

次に、これからの旅行をスタイル牽引するといわれる若い層の割合が多い点だ。日本の平均年齢が48.36歳なのに対し、ベトナムは32.49歳、マレーシアは30.26歳など。いわゆるMZ世代は自分の信念や価値観に見合ったものに消費する傾向にある。そのため、旅行でも有名観光地を巡るありきたりな旅行ではなく、自分とは異なる生活文化を楽しむスタイルを持っており、大都市や定番の観光地だけではなく、地方へ足を伸ばす可能性も大きい。また、日本への関心が高い層が多く、ここ数年、旅行で行くことができなかった日本は人気の目的地となっている。

地理的な距離も重要な要素だ。東南アジアから日本へのフライトは、フィリピン・マニラから約5時間、ベトナム・ハノイから約6時間、シンガポールから7時間などで、欧州への飛行時間の半分以下というのも旅行先を選ぶ上では有利な点といえるだろう。中には東南アジアの各空港を深夜に出発し、朝に東京に到着する便などもあり、滞在時間を有効に使える旅も可能だ。

 

伸び率1位のベトナム市場、地方誘致へも期待がかかる

前述したように今年第1四半期でもっとも訪日外国人数の伸び率の高かったベトナム市場は、留学や技能実習生の来日が多い市場として知られている。実際、2019年の訪日ベトナム人のうち観光客は35.1%、その他(留学や就労を含む)が56.9%だったが、それを差し引いても、この数カ月は著しい伸びといえる。JNTOもベトナムについて今後は観光客が増加する可能性が大きい市場としている。

人口約1億人を抱えるベトナムはコロナ前のGDP成長率が年平均6.5〜7%台を維持し、経済が好調に推移。所得の増加もあり、海外旅行が増えていた。観光で訪日するベトナム人も2017年から3年間は前年比約30%増で推移しており、2回、3回といったリピーター層も徐々に増えていた。そのタイミングでコロナ禍になったが、訪日観光が全面解禁となった今、ベトナムからの観光客はさらなる伸びが期待される。

JNTOハノイ事務所所長の吉田氏は、「首都圏や大阪・京都といった大都市だけでなく、地方への関心も高まりつつある」と話す。ベトナム人が感じる日本の魅力は、綺麗な景色(富士山、桜、紅葉、花)、文化(古い町並み、神社、お寺、お城など)、買い物、食事、新幹線や整備された道路などの先進技術というように、多岐にわたる。こうしたニーズを踏まえると、今後、地方誘致にも期待がかかる。

ベトナムでは個人旅行の訪日ビザ取得のハードルが高いため団体旅行となっているが、特に30~40代の中間所得者層は、団体行動よりも、自分たちが行きたい場所を自由に旅したいという意向が強く、ビザ発給要件の緩和などが進めば、今後さらに増加が見込めるだろう。

 

訪日経験者75%のシンガポール市場、旅行解禁ですぐに訪日を計画

一方、第1四半期の訪日外国人伸び率2位のシンガポールだが、シンガポール貿易産業省(MTI)が、2023年通年のGDP成長率においても0.5~2.5%とコロナ禍を経ても順調な経済回復との見通しを示しており、コロナ禍を経て海外旅行需要も大きくなっている。

国民の約75%が訪日経験者であり、訪日意欲が高い彼らは、旅行が解禁されるとすぐに、訪日旅行を計画した人も多い。

シンガポール人は日本に対して確固たるブランドイメージを築いている。ほとんどがFITの旅行者となるシンガポール人は、「キラーコンテンツである日本食、四季を感じられる自然、ショッピングを含めた都市歩き、テーマパーク等への需要が依然高い」とJNTOシンガポール事務所所長の永井氏は話す。また「世界の中でもトップクラスの安全・清潔さを誇る日本は、子供からお年寄りまで安心して訪れることが出来る国であり、各地方の伝統文化と四季は、シンガポールでは味わえない多様な文化の魅力にあふれている」という。

 

東南アジア市場拡大、航空路線の増加や地方路線の誘致がカギに

インバウンド需要を狙う中で、航空路線の誘致は非常に重要だ。航空会社にとっても落ち込んだ海外旅行需要を取り戻すため、コロナ禍で止まった路線の復活や新たな路線開設に期待をかける。

ANAホールディングスでは、2023年後半、現在、羽田~シンガポール線を運航しているエアジャパンの拠点を成田空港にリニューアルし、日本と東南アジアを結ぶ格安航空路線を立ち上げる。2021年9月に就航を開始したJAL100%子会社のZIPAIRも現在、成田〜シンガポール線は毎日運航、事業運営も順調に推移。2023年7月にはマニラ線の新規就航を目指している。シンガポール航空によると、日本を含む東アジア〜シンガポール路線は、2022年10月の水際対策緩和以降、搭乗率も7~8割台をキープしている。一昨年前の同時期の搭乗率が2~3割程度であったことからも、堅調な回復を示しているという。

羽田、札幌路線に続き2023年1月に大阪~クアラルンプール路線を再開したエアアジアXは、2022年第3四半期で利益を前年比で563%増加させ、黒字回復と勢いに乗っている。ベトナム航空は3月に羽田〜ハノイ便、成田~ホーチミン便を増便、成田〜ダナン便を再開、訪日客増加に繋がった。また、2022年7月に福岡〜ハノイ便、名古屋〜ハノイ便を新規就航したベトジェットエアは不定期で地方空港へのチャーター便を運航、今年7月には羽田〜ホーチミン便を新規就航予定だ。

特に、政府が掲げる3本柱の1つである「地方へのインバウンド誘致」にあたっては、地方空港による国際線誘致がカギを握る。現在は、コロナ禍で休止となった地方空港からの国際線を再開させようと、台湾や中国、韓国の路線再開が主流となっている。今後、東南アジアと地方空港を結ぶ路線再開や、LCCを含む新たな航空会社や航空路線の誘致も、東南アジア市場の拡大には重要な要素となるため、今後の動向にも目が離せない。

 

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