東京都が推進する持続可能な観光 GSTC公認トレーナーに聞く「サステナブル・ツーリズムの最前線と国際認証の仕組み」
2024.10.04
訪問者、観光業界、環境、そして訪問者を受け入れる地域社会のニーズに対応しながら、現在および将来にわたる経済、社会、環境への影響を十分に考慮した観光の形であるサステナブル・ツーリズム。観光産業の急速な回復に伴い、観光が及ぼす住民生活や環境への悪影響が国内外で問題視されるなか、世界的にサステナブル・ツーリズムへの関心は高く、観光地や宿泊施設等における持続可能性への取り組みや、国際的な認証制度が注目を集めている。2023年は1954万人もの外国人旅行者が訪れた東京都でも今後さらなる旅行者の増加が見込まれることから、対策が求められる。
観光による悪影響を防ぎ、現在だけではなく将来への影響をも考慮するために、観光業界は具体的に何から取り組めばよいのか。2024年度、東京都と東京観光財団(以下、TCVB)は、都内の観光事業者を対象とした「持続可能な観光」基礎講座を全4回シリーズで開催。都市部を含む地域や飲食店、宿泊施設等での取組事例を交えながら、国際的な認証の枠組みなどについて基本的な事項も学べる構成になっている。
第1回は、名城大学外国語学部名誉教授・シニアフェローで、GSTC「サステナブル・ツーリズム・トレーニング・プログラム」公認トレーナーでもある二神真美(ふたがみ・まみ)氏が登壇した。国際認証制度の概要、導入における注意点や活用事例など、講義のポイントを一部抜粋して紹介する。
▼第2回レポート
品川宿で交流型宿泊サービスを提供する宿場JAPAN 渡邊崇志代表に聞く「都市圏での地域を巻き込む宿泊施設と観光まちづくり」
サステナブル・ツーリズムの国際標準 -「GSTCクライテリア」-
地球温暖化に伴う気候変動など世界的な課題に対処するため、観光業界でも二酸化炭素(CO2)の削減や環境を保全しながらの地域資源の活用、雇用創出や経済成長など、持続可能な観光の推進が具体的な目標として求められている。
こうしたなか、2007年には、国連世界観光機関を中心に32のパートナー団体が集まり、Global Sustainable Tourism Council(GSTC)が設立。「観光が社会的、文化的、経済的な利益をもたらす一方で、環境や社会に悪影響を与えないことを目指す」というビジョンのもと、国際的な基準や指標を策定し、その運用を推進している。このGSTCクライテリアは、次の4つの分野で構成されている。まず、効果的な持続可能なマネジメントの導入を求めること。そして、社会・経済的な利益の最大化と環境への悪影響の最小化、文化遺産に対する利益の最大化と悪影響の最小化、最後に、環境への利益の最大化と悪影響の最小化である。
現在、GSTCクライテリアには3つの種類がある。1つ目は、宿泊施設やツアーオペレーター向けの「GSTC-I(GSTC Industry Criteria for Hotels & Tour Operators)」。2つ目は、自治体やDMO(観光地経営組織)などのデスティネーション向けの「GSTC-D(GSTC Destination Criteria)」。3つ目は、MICE(会議、報奨旅行、コンベンション、展示会)主催者やコンベンション施設向けの「GSTC-MICE」である。さらに、今後新たに設けられる基準として、レジャーや観光施設向けの基準、そして飲食店向けの基準が予定されており、これらを合わせると将来的には全部で5種類になる。
実際にGSTCの認証を取得するには、GSTCが「認定」した第三者機関からの認証を受ける場合のみ、GSTC認証が可能となる。GSTCは基準を設定する役割を担っているが、その基準に基づいて審査を行うのは「CB(Certification Body)」と呼ばれる認証機関である。認証機関は業種によって異なり、2024年9月時点では下記の専門機関が存在する。
GSTCクライテリアは、ISO(国際標準化機構)が定める規格のように、観光業界における指針や共通の基準として機能していくことが期待されている。この基準に則った認証システムは、自己評価や業界団体による審査とは異なり、第三者機関による客観的かつ信頼性のある評価を提供するものである。これにより、観光業界全体での共通の枠組みとして確立されつつある。その中でも高い信頼性が要求されるGSTC認証を取得するには、GSTCが認定した認証機関が提供するプログラムに参加する必要がある。
自己診断や業界内での環境対応の評価は、どうしても客観性や透明性に欠け、主観的な判断に偏る傾向がある。そのため、信頼を得にくく、結果的に競争力の低下を招く恐れがある。しかし、国際的な認証を取得することで、環境保護や地域社会への貢献など、総合的でバランスの取れた体制を構築し、持続可能な観光事業を推進することが可能となるのだ。
また、GSTCでは、持続可能な観光の普及を目指し、トレーニングや教育の機会を提供している。2023年に世界各地で実施された公開研修の参加者の内訳は、欧州が25%、北米が10%、南米とオセアニアが各3%、アフリカが1%だった。最も多くの参加者を集めたのはアジアで、全体の58%を占め、その中でも日本からの参加者が特に多く、持続可能な観光への関心の高さがうかがえた。
国内外のサステナブルな取り組みの事例
今後、サステナブル・ツーリズムへの関心はさらに高まり、GSTC認証の普及もこれまで以上に進むと予想される。たとえば、トルコでは国内すべてのホテルでGSTC認証を取得することを目指して、政府主導の取り組みが始まっている。また、シンガポールでは国家レベルで世界初となるGSTC認証を取得しており、国全体での取り組みが進んでいる。さらに、ユニークな事例としてスロベニアでは、GSTCクライテリアと独自のスキームを組み合わせた持続可能な観光の取り組みが行われている。
日本においても、2020年6月にGSTCに準拠した『日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)』が公開され、同年にニセコ、三浦半島、白川村、京都市、沖縄県の5つのモデル地域で指標の効果測定が開始されたことを皮切りに、全国各地でさまざまな取り組みが展開されている。
また、GSTC認証ではないが、その他の持続可能な観光に関する基準を策定している認証機関に下記のような専門機関が存在する。業種に応じた基準を活用し、持続可能な観光への取組を推進していくことが可能だ。
ここでは、東京都で行われている取り組みについて紹介する。
●台東区:旅⾏会社と連携した地元「江⼾の匠・職⼈」の⽀援プロジェクト
・内容:観光のプロが区役所に出向し、台東区の新たな魅力を発掘・ツアー化
・効果:ツアー化により域内交流も盛んとなり地域資源としての価値と魅力、持続性も向上
東京都台東区では、地域密着型のツアーオペレーターから旅行造成のプロが区役所に出向。都内の中小規模の宿泊施設やツアーオペレーターが、「GSTC-I」を活用し、地域の自然、歴史、文化に根ざした持続可能な商品やサービスを開発・提供できるよう、支援している。
さらに、地域向けの基準である「GSTC-D」に基づき、地元事業者の支援と公正な取引を推進し、観光消費が地域経済に還元されることも目指している。
●TCVB:都内観光事業者等を対象としたGSTC研修の実施
TCVBは2023年10月に賛助会員を中心に立ち上げた「TCVB Sustainable Tourism Partnership」に参加の企業・団体を対象にGSTC研修を実施した。フィールドワークでは、台東区内の施設を訪れ、各施設の取り組みを聞きながら、GSTC基準のどの分野に合致するのかを照らし合わせて見た。
例えば浅草神社では、神社の成り立ちと地域との繋がり、国の重要文化財である本殿等を保護・維持しながら文化を伝承する取り組みについて、KURAMAE モデルではカフェから出るコーヒーかす等を原材料としてアップサイクルする等、福祉作業所等を含む蔵前地区や近隣の企業や学校、商店街と連携した地域循環型の取組を学んだ。研修後には「(勤務する)ホテルのある地域での取組にも活かしていきたい」といったフィードバックもあり、ただGSTCクライテリアを学ぶだけでなく、実際の地域に落とし込んで考え、アクションに繋げることの重要性を理解することに繋がっている。
<主催の東京観光財団より> 初回のセミナーでは、国際認証の仕組みや認証取得までのステップ、また国内外のサステナブル・ツーリズム取組事例や最前線の業界動向等を網羅した。参加者からは、「基本的なことから最新状況まで、分かりやすく解説いただいた」「国際認証取得を検討し始めたところなので、仕組み等大変参考になった」「観光業界にとどまらない、広い視点で持続可能な観光をとらえることができた」といったコメントがあり、持続可能な観光についての体系的な理解促進に繋がり、意識の高まりを感じる結果となった。 持続可能な観光振興を推進するためには、行政、観光推進団体、観光関連事業者など地域の関係者が、お互いにコンセンサスを得ながら連携して取り組むことが欠かせない。本事業をきっかけに、少しでも多くの皆様にサステナブル・ツーリズムに取り組んでいただき、今後も東京が世界から選ばれ続ける観光地となるよう、尽力して参りたい。 |
<関連リンク>
■東京都・TCVBによる「持続可能な観光」の推進に関する事業について
・「持続可能な観光」セミナー全4回の詳細はこちら
・第1回セミナーアーカイブ動画はこちら
■TCVBサステナブル・ツーリズム・パートナーシップについての取組概要
■GSTCについての組織概要
Sponsored By 東京観光財団