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国の主導は必要不可欠!? キッズウィークは大人と子どもの「休み方改革」に繋がるか|平準化・分散化特集

2021.06.11

日本では長年、旅行需要の偏りが大きな問題になっている。需要が集中すると、交通渋滞や旅行料金の高騰が起き、地域や旅行者に負担がかかる。逆に需要が極端に少ない時期も発生するので、観光業は従業員の通年雇用が難しくなる。

旅行需要が平準化すれば、現地での混雑がない分、旅行満足度が上がり、観光地の評価が上がる。年末年始やゴールデンウィークなど、繁忙期の旅行料金も下がり、新たな旅行者を呼ぶことにもつながる。そうすれば、旅行客が通年来るので、観光業は通年雇用で従業員の人数と水準を保つことができる。設備投資にも積極的になれるかもしれない。

観光資源の訴求力が季節で上下するなか、価格調整や新たなウリの創出など、これまで観光事業者を中心に様々なプレイヤーが各々、旅行需要を平準化する努力をしてきたが、まだ十分とは言えない。

 

家族揃ってオフシーズンに長期休暇を取る難しさ

そんな折、新型コロナウイルスの感染拡大で、私たち人間にとって三密回避が重要なテーマになった。観光庁は2020年12月、Go To トラベルのウェブサイトで「分散型旅行」の呼びかけを開始。時と場所を分散することで、密を避けて感染防止になること、今まで知らなかった時期や時間帯に訪れることで観光地の新たな魅力発見につながるとアピールする。

混雑を避ければ、旅行者としてもより快適に、よりよいサービスを、より手頃な価格で受けることができる。

しかしトップシーズン以外に家族旅行をするのは現状ではかなり難しい。まず大人が希望の時期に揃って長期休暇を取得できるかどうか。できたとしても、子どもの学校の休みに合わせるとなるとトップシーズンになってしまう。

 

国が提唱する大人の長期休暇分散に向けた制度

長期休暇の分散化は、観光業による工夫や個人の努力だけでは限界がある。だから、国によるテコ入れが必要となる。国はすでに「働き方改革」とともに「休み方改革」として長期休暇の分散化を提唱している。

大人のための長期休暇の分散化施策として導入しているのが、「年次有給休暇の計画的付与制度の個人別付与方式」である。

計画的付与制度とは、労使協定を結べば、年次有給休暇のうち、5日を超える分については、事業主が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度のことをいう。
たとえば付与される有給休暇が12日あるとしたら、そのうち5日間を労働者が自由に取得でき、残り7日間は事業主が計画的に付与するのが、「計画的付与制度」である。

それだけ聞くと通常の有給休暇のシステムに比べ、労働者側が自由に有給休暇を取得する機会が少なくなったように感じられるかもしれないが、そうではない。

「個人別付与方式」では、この残り7日間の有給休暇は、労働者個人の希望をもとに、期初などに班・グループ全員分の休暇日程とともに計画表に落とし込む。

労働者としては、休暇取得がより“事業主の指示”の要素が強くなり、同僚も同じように休むのでためらいを感じづらくなり、長期休暇が取りやすくなる。班・グループ内の同時期の休暇取得の集中を防ぐので、これが休暇の分散化につながる。事業主にとっても、年次有給休暇の取得率が高まることも含めてメリットは多い。

 

子どもの休みの分散化「キッズウィーク」の取り組み

子どもの学校の休みの分散化はどうか。実は、「キッズウィーク」という制度がある。

キッズウィークとは、大人と子どもが一緒に過ごす休日を増やすことを目指し、夏休みなどの休暇の一部を他の時期に動かし、それに合わせて大人が長期休暇を取ることを推奨する制度で2018年にスタートした。旅行需要の平準化を狙いに入れた、「休み方改革」のひとつの施策である。

トップシーズン以外の家族旅行を促す場合の“最大のネック”になる子どもの学校休みを動かすので、大人がしっかり休暇を取得するよう、さらに事業主も配慮するようにというメッセージが込められている。

 

1週間単位でキッズウィークを導入する岐阜県羽島郡岐南町・笠松町

制度名に“ウィーク”が付いているが、ホームページの導入例からは、1~2日程度を設定している自治体が多いようだ。そのなかで、週単位で実施している、岐阜県羽島郡二町教育委員会(同県羽島郡の岐南町と笠松町の二町が共同で設置)に話を聞いた。

羽島郡岐南町・笠松町の二町は、岐阜市のすぐ南に位置。各町200人から600人超の規模の小学校を3校、中学校を1校、計8校を抱える。

この8校全てにおいて、毎年10月にキッズウィークとして9~10連休(年によってはスポーツの日の祝日が加わり10連休)が設けられている。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で、キッズウィークを授業日に充てることになったが、4年目の今年は10月2日から10日までを予定している。なぜこれほど長期の設定が可能となったのか。

「岐南町・笠松町の二町は2014年に2学期制を導入しました。3学期制から2学期制にすることで、終業式と始業式の回数が計2回減ることも含め、先生が子どもたちに寄り添う時間、授業に集中できる期間を増やしたいという思いからです。このとき4~9月の前期、10~3月の後期の間に土日含めて5日間の秋季休業日を設けています。そこに2日間の平日休みを追加して9連休にしました。平日の5日間の休みはいずれも夏休みからもってきたもので、授業時間はしっかり確保しています。キッズウィークの導入は、この2学期制の土台があったので、比較的スムーズだったと考えられます」

▲2019年のちらし(出典:厚生労働省ホームページ

 

アンケート結果から分かるキッズウィークへの肯定的な評価

教育委員会はキッズウィークの効果を測るため、導入2年目の2019年度に、各小学校の6年生1クラスと各中学校2年生の1クラスにアンケートを取った。その結果、72%が「家族とふれ合う時間が増えた」と回答。長期旅行を楽しんだ家族もいて、外出や買い物なども含めて一緒に過ごす時間が増えたことで、85%が「充実」と回答している。

また対象クラスの保護者にもアンケートを取ったところ、65%が「家族とふれ合う時間が増えた」としていて、77%が「有意義だった」と前向きにとらえている。

また、二町は子どもたちに地域とのふれあいも大事にしてほしいと考えており、この時期に各町の町民運動会を毎年行っている。大規模なもので、小学生は競技に参加し、中学生は多くの生徒がボランティアで運営・進行に携わる。公民館ではキッズクッキングや木工など各町20もの講座を用意。それらの予定も4月に告知することで、事前に計画を立てやすいよう配慮している。実際、子どもたちの72%がイベントに参加したことがアンケートから分かった。夏休みの暑さで何となしに過ごしてしまう1週間が過ごしやすい秋に設けられ、イベント満載の充実した1週間に変わったとする見方もできるだろう。

 

キッズウィーク期間中、どれくらいの大人が有給休暇を取れたのか

ところでアンケートでは、保護者に対し、「計画的に有給休暇が取れたか」質問している。「平日5日間のうち、何日か休みが取れた」と回答した人が56%だった。

言い換えると、44%がキッズウィークの平日に休みが取れなかったという現実もある。「平日の休みを少なくして欲しい」という声が何件かあったのも事実だ。仕事の都合上休みを取れない保護者がいるのは現状仕方がないことなので、児童クラブを毎日開けることで対応している。

「保護者が少しでも平日に休暇を取りやすいよう、二町教育委員会としては、4月の第2週目といった早い段階で、各保護者宛てに夏、秋(キッズウィーク)、冬、春の長期休暇4回の日程をお知らせを出しています。『連休の過ごし方について各家庭で話し合いをし、早めに計画を立てていただければありがたいです』といったメッセージを添えて、少しでも保護者が休暇を取れればと考えています」

▲2019年のちらし(出典:厚生労働省ホームページ

 

バカンス先進地域、ヨーロッパで国主導で進む学校休暇の分散化

日本ではまだキッズウィークを導入した自治体は多くないが、全国区での導入は可能なのか。

バカンス先進地域であるヨーロッパでは、国の主導で既に休暇の分散化が全土的に実施されている国がある。

フランスの場合、9月に新学年スタートのせいか、夏休みは一斉休暇だ。しかし2~3月の春休みと冬休みについては、国内を3つのゾーンに分け、それぞれ2週間休みを1週間ずつずらしてスタート。休みの順番を毎年変える。既に2021-2022の休みが発表されている。

オランダの場合、国内を北から南に3つのゾーンに分け、7週間の夏休みも1週間ずらしてスタートさせている。1週間ずつある春休みと秋休みは、2021年は北と中央が同時スタートで南が1週間後にスタート、2022年は北が先にスタートし、その後中央と南が1週間遅れてスタートといった具合だ。この休暇スケジュールが現在2026年分まで公開されている。

 

日本での長期休暇の分散化普及に向けて

日本においても、一部ではなくすべての自治体でキッズウィークを導入する、もしくは海外のようにゾーン別に学校の休みを設定してはどうか。そのうえで、キッズウィークもしくは学校の休みがゾーン別になっていることを、学校外に広く告知していくのだ。

現在は一部の自治体でしかキッズウィークが導入されていないので、保護者がそれに合わせて有給休暇を取ろうとしても事業主が許可をしぶる可能性が考えられる。全国規模で導入されれば、認知度が上がり、事業主が積極的に配慮してくれるようになるのではないか。いまはコロナ禍で働き方改革が大きく進んでいるとき。休み方改革を一気に進める千載一遇のチャンスではないだろうか。

(取材/執筆:鳴海汐)