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2023年のインバウンドを予測する ---韓国・香港・タイ市場の動向

2022.12.19

各市場の専門家による2023年の訪日市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けての提言を届けるシリーズの第二弾。今回は、韓国、香港、タイ市場の動向を紹介する。

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韓国市場

国内旅行より安い日本が人気、地方への旅行は航空路線がカギに

 
旅行マーケティング専門家・インフルエンサー
ジャン・ヒーチョン

 
日本が10月11日からビザ無し自由旅行を許可したことから、韓国では2年ぶりに再開した日本への旅行客が爆発的に増えている。 業界で「ノージャパン」熱風が吹き荒れていた2019年11月と比較すると、ほとんど回復したと見ている。

韓国のオンラインショッピングモール「Gmarket」が10月28日から11月27日までの海外航空券販売でパンデミック以前と比べて最も多く増えた旅行先順位を調べた結果、2019年同期比大阪(+366%)、札幌(+305%)、福岡(+242%)、東京(+210%)、沖縄(+109%)の予約が急増し、1〜5位までをすべて日本が占めた。 ちなみに続いてボホール島(フィリピン)、名古屋、チェンマイ、バンコク、モルディブがそれぞれ6〜10位に入り、欧米より相対的に金銭負担が少なく、距離的に近いアジア地域が海外旅行地として高い関心を集めた。

このように日本旅行の需要が爆発的に増えたのは、新型コロナウイルス感染症の期間に日本への個人旅行が抑えられていたことと、円安によるものだ。現在、日本行きの航空便の価格が過去に比べて30%以上高く、日本国内で始まった旅行支援事業の影響で宿泊施設の価格が大幅に値上がりしている状況だが、それでも日本旅行の費用が済州島、釜山など韓国の国内旅行より安いという認識から、日本旅行を選択する韓国人が大幅に増えている。

2泊3日、3泊4日の短い日程で大阪、福岡、東京などでショッピングを楽しんだり、グルメやカフェを訪れて旅行を楽しんでいる20〜30代が多く、冬になると温泉を楽しむ家族カップル旅行も増えている。

現在は大都市中心の航空路線しか運航していないため、大都市中心の旅行が人気だが、今後日本の地方都市に直行路線ができれば、地方都市を目的とした旅行も期待できそうだ。また、12月以降本格的な冬休みに入れば、20代の大学生層の動きも期待できる。

 

著者プロフィール
旅館を中心に訪日を取り扱う韓国の旅行代理店「九州路」で旅行商品の企画や日本自治体のマーケティング担当として11年間勤務。経済産業省COOL JAPAN PROJECTの企画、4年間にわたり京都市のソウル拠点業務として現地レポートなどの作成、復興庁の一環の東北路プロジェクトで韓国マーケティングと商品開発などを経験。現在は、株式会社デイリー・インフォメーション九州をはじめ、自治体や民間企業における韓国からの訪日マーケティングや、インフルエンサー向けのファムツアーの企画実施などを手掛ける。また、NAVER約4.3万人、インスタグラム約3.7万人のフォロワーを持つ旅行専門インフルエンサーとして、日本を中心とした世界の旅行関連のコンテンツを発信している。

 

香港市場

日本旅で7泊 滞在の長期化進む、一度に都会と地方をめぐるツアーに期待

 
Compass Communications Managing Director
木邨 千鶴

 
10月11日の個人旅行解禁以降、日本の宿泊施設や事業者から「香港人の予約が着実にはいっている」という話をよく耳にするようになった。実際香港からの10月の訪日客数は、3万6200人。韓国、米国に続き、台湾やタイをしのいで、香港が国・地域別の3位につけている。その一方で、香港からの行先別をみると、タイ、韓国、日本となり、タイへの総数と比較すると、3倍以上の差をつけられている。つまりライバルは日本国内の各地ではなく、アジアを中心とした世界各国であることをまず頭に入れる必要がある。

訪日再開後に日本を訪れた香港人の間では、久々の日本に浸り喜んでいる人も多い一方で、清掃や対応などが行き届かない施設に落胆したという声もちらほら聞こえる。円安は追い風であるものの、質の高い旅行者が日本にリピートすることを後回しにしてしまう危機もささやかれている。

コロナ前は9割以上がFIT客、リピーター率85%以上だった香港では、訪日解禁後もこの傾向が続くという見方も強い一方、コロナになったケースなどを想定して安心のために旅行会社に発注をするという人もいる。

解禁後、タレントやKOLと一緒に日本を訪れるツアーがいくつか催行された。自身も日本を訪れたいというタレント側の気持ちにビジネスをつなげたような香港らしい形だ。タレント自身が旅行会社を作ったケースや、ある程度の内容を過去のファムトリップなどから組み立て、香港の旅行会社やランドオペレーターに委託するケースもいくつかみられる。今後も「カメラマンと行く」「シェフと行く」「利き酒師と行く」など、コロナ禍で新たに香港で出来上がった、コミュニティごとの目的がそれぞれ異なる旅行というものが増えていく可能性がある。

ほかにも例えば「微旅團(親しい友人や家族など少人数での旅行)」という言葉を使う旅行会社もあるなど、友達や家族、親戚単位で自分たちの要望にあわせて、専用車やガイドを用意するというパターンも増えているようで、今後もこの傾向は続くと思われる。

宿泊数も長くなり、よりゆったりとしたスケジュールを組むようにもなった。以前は4泊5日が主流だった香港市場で、今人気があるのは7泊程度の商品だ。但し、団体ツアーでも、買い物目的の都市圏に宿泊する際は自由行動、そこから国内便を使って地方に趣き、二次交通が限られるところでは団体行動といった途中数日を完全自由行動にするプランも増えてくると予想される。実際香港の団体旅行を扱う会社からも日本国内のみの数日の短期プランを作りたいという話も聞こえてくる。

JNTO香港では2018年以降、年齢や同行者が変わってもまた来たいと思ってもらえるよう、日本を「生涯デスティネーション」と位置づけ、テーマ性をもった旅、地方をより多く訪問してもらえるような施策を打ち出してきた。この傾向は2023年も変わらない。香港は他の国の人がまだ行ったことのない地を探し、またツアーでも地方に複数泊滞在することが期待される市場の一つであることは間違いない。

 

著者プロフィール
東京都出身。広告代理店「クオラス」入社。2007年より香港に移り住み、香港フリー雑誌勤務を経て独立。コンパスコミュニケーションズインターナショナルを設立し、自治体や企業のレップ、また現地日系企業などの広告・広報業務に従事。自社メディア「香港経済新聞」を運営し日々街の変化を捉えながら、香港のメディアリレーションを軸に、幅広いマーケティング支援を行う。

 

タイ市場

FITは「自由度」重視、団体旅行は「プライベート感」が主流に

 

BANGKOK PORTA CO.,LTD. 代表 井芹 二郎

 


タイのインバウンド受け入れは、2022年内に1000万人の大台に乗せる予定で、コロナ前4000万人の25%の回復ということになる、一方、10月11日のビザ無し個人旅行の受け入れ開始から、「訪日旅行」がタイでも本格的に再開している。10月統計で約3万4000人のタイ人入国が報告されている。2019年同月14.5万人の23%の回復となり、再開初月としてはいいスタートを切った。

11月19日にはJNTOレセプションがバンコクで開催され、岸田総理、ユタサックTAT総裁、清野日本政府観光局理事長他、日タイの政府高官が「日本観光再開促進」のメッセージをタイ側関係者に送った。

大きな環境変化がなければ、2023年にどの程度の回復基調にのるのだろうか。日本観光旅行は、複数回訪日を重ねている「親日層のタイ人」で、高い付加価値の目的をもった旅行者が増えてくると考える。個人旅行は自由度を、団体旅行は高価格・プライベート感を得られるものが主流になるだろう。マラソンやアウトドアなどの目的・嗜好に応じた旅行形態の観光コンテンツ開発が進み、2023年はFIT(個人)旅行が全国的に急増する。日本でのショッピングはキラーコンテンツだが、ローカルな地域の商店よりも機能型のモールが集客装置として重要だ。MICE形態の復活とインセンティブ系の業界訪日が再開・復活し、日本全国で開発が進む複合型施設への期待が高まる。VIP(富裕層)政府系・企業経営者などの親日層による訪日は継続する。

地域は、観光目的の分散化と個人旅行化によって観光地としての選択を旅行者にゆだねることになる。つまりは日本全国が観光資源としての可能性を秘めている。日本人のライフスタイル・歴史・文化。そのままの様式が、タイ人旅行者にとっては「非日常」で「特別な経験」となりえる。その可能性をマニュアル的にとらえるのではなく、海外の観光客と向き合う「覚悟」をすれば、おのずとやるべきことは見えてくる。

 

著者プロフィール
熊本県生れ。2008年タイ・バンコクにPR/企画会社バンコクポルタ設立。タイ訪日旅行会社200社以上・メディア・インフルエンサー500社以上を活用して日本インバウンドPRをする。インバウンドトラベルサポート、生活商材マーケティング、業務視察・サーベイ、イベント支援。地方自治体、観光協会などの業務実績多数。バンコク日本博 トラベルインバウンド専門員。食のコラムニストなど。