インバウンド特集レポート

2023年のインバウンドを予測する —アメリカ・オーストラリア市場の動向

2022.12.21

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2年半以上にわたる厳しい入国規制を経て、ビザなし渡航、個人旅行が解禁、2022年はようやく本格的なインバウンド再開の年となったが、2023年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。

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アメリカ市場

富裕層・高付加価値旅行から回復、特別な体験の磨き上げや改善を

 

Project M, Inc. 代表取締役 森井 恵子

 

2022年10月11日より、日本がインバウンド受け入れを本格的に再開し、入国規制については大幅緩和となった。米国に関していえば、一般消費者を取り巻く経済環境は複雑で、富裕層はより豊かに、中間層およびそれ以下の層については厳しい状況が続いている。コロナ禍中に広く普及したリモートワークやBlended Trips(ビジネスとレジャーを兼ねた旅行)により、富裕層は年齢層を問わず経済的にも時間的にも一層余裕が出てきており、欧州等を中心にロングホール旅行の機運は非常に高まっている。この事から、2023年の早い時期に訪日旅行を実際に予約するのは、年齢にかかわらず、富裕層・高付加価値旅行層と考えられる。

訪日旅行に関する興味関心は中間層から富裕層まで幅広いターゲットで高くなっているが、
「日本行きの航空運賃や国内宿泊費用の高止まり」
「訪日旅行プランの提案や手配を手掛ける日本国内でのDMCの人材不足」
が直近の障壁になっているようだ。引き続き円安基調ではあるものの、価格の高騰は中間層の訪日予約の障壁の一つとなっており、特別な体験を含む旅行を希望する富裕層・高付加価値旅行層や個人旅行客およびそのエージェントについては、人材不足についての課題が多くなっている。

これらの環境・状況を鑑みると、米国からの訪日旅行客数が2019年レベルまで戻るには2024年ごろまでかかる可能性が高いと考えられるが、2023年は、自社の顧客サービスや旅行商品、プロモーション方針の検証に良い機会となる。米国旅行メディアや一般消費者の間で訪日旅行に関する興味は高くなっており、高付加価値旅行層や特別な体験を求める米国人富裕層はこの状況下でも訪日旅行を検討してる。

また、経済的に余裕のある若者層の間でもコロナ禍を経て旅行エージェントを活用する傾向が高まっている。米国の旅行会社やエージェントとのタイムリーなコミュニケーションや、自社サービス・価格一覧等の情報を提供する英語でのウェブサイト完備は予約・売上増への近道といえる。

旅行商品やサービスについては、よりユニークで特別な体験を求める層が多くなっており、訪問地特有の体験、値段に見合った価値、学びの機会等を重要と考えているようだ。

そして、自社サービスや商品・観光資源が米国人ターゲットの目線からみて魅力的なのか、他社や他の訪問地と十分に差別化出来ているかについて客観的に検証・評価・改善する事が最も重要なポイントの一つと言えるのではないだろうか。

 

著者プロフィール
米国ロサンゼルスを拠点とする広告会社Project M, Inc.代表取締役。日系ゴルフ会社米国法人駐在員を経て米国ロサンゼルスで広告会社を設立。最新の北米市場情報や、広告・エンターテイメント媒体各社との密接な関係を活かし、米国富裕層市場を中心に、包括的で発展性のあるメディア・マーケティング戦略とクリエイティブソリューションを提案。日本政府観光局、東京観光財団等の米国における各種訪日観光需要喚起広告事業に関し通年15年以上の実績を持つ。その他中央省庁の有識者評価事業、富裕層向け各種メディアイベント、日本食文化魅力発信事業等も手掛ける。

 

オーストラリア市場

九州や沖縄への注目高まる、親しみをもって旅行客の迎え入れを

 
doq Pty Ltd アカウントプランニングディレクター
永見 幸太

 
2022年9月のオーストラリア人海外旅行者は約107万人、コロナ前2019年の同月は約175万人だったので、60%程需要が戻っている。日本と同様にオーストラリア人に人気の旅行先で、2021年から観光客の受け入れを再開していたインドネシアは同月比で既に約70%のオーストラリア人観光客の戻りとなっている。

日本は今年10月から受け入れを再開したため、比較できる旅行データはまだ公表されていないが、Google trends旅行カテゴリーで「Japan」の検索量はコロナ前と同程度に戻っており、訪日への期待が回復していることが伺える。雪や桜が人気の1月、4月の航空券は既に取りにくい状況になってきており、就航便数の回復状況にもよるが、2023年は少なくともコロナ前の60-70%は戻ると見てよいのではないだろうか。

コロナ禍では人混みを離れた観光地が国内でも人気だったが、現在国内でマスクをしている人はほとんどおらず、街なかやイベントにも活気が戻っている。旅行客も、「コロナが不安だから、安心安全な〇〇に行こう」といった選び方はせず、都会・地方の隔たりなく純粋にその土地の魅力を基準に滞在先を選ぶだろう。またコロナ禍で相対的に訪日プロモーションが少なかった中でも、継続的に発信を行っていた九州や沖縄の認知度が高まってきている。

10月以降に日本を訪れた旅行会社やジャーナリストからは「日本が少し暗くなっているように感じた」とのコメントを聞くことがあった。コロナによりどうしても人との接触を避ける傾向になり、マスクをして表情が読み取りにくくなっている分、受け入れの際は言葉でのコミュニケーション以上にジェスチャー等も加えて、フレンドリーでコミュニケーション好きなオーストラリア人を迎え入れてもらえればと思う。

 

著者プロフィール
JTBグループのハウスエージェンシーで民間企業、地方自治体の国内外の観光プロモーション・地域活性事業を担当した後、2018年からオーストラリア・シドニーの日系マーケティングエージェンシーdoq Pty Ltdに所属。観光業界を中心に、幅広い業種の日系企業・自治体のオーストラリア市場向けマーケティング戦略の企画・実施管理を手掛ける。

 

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