インバウンド特集レポート

2023年のインバウンドを予測する —中国市場の動向

2022.12.20

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2年半以上にわたる厳しい入国規制を経て、ビザなし渡航、個人旅行が解禁、2022年はようやく本格的なインバウンド再開の年となったが、2023年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。

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中国市場

年明けには訪日再開か、裕福な層から動き始め若いファミリー層へと波及

 

株式会社フレンドリージャパン 代表者取締役 近藤 剛

 

11月末、中国各地で発生したゼロコロナ政策に対する大規模デモを受ける形で、12月1日、中央政府幹部の孫春欄氏が「オミクロン変異株の毒性の低さやワクチン接種の普及を踏まえ、中国の防疫対策は新たな局面を迎えた」と、政府見解を示したが、それ以降、中国におけるコロナ政策緩和が急速に動き出した。

感染症が拡大する地域で全市民向けに実施していたPCR検査を停止、感染者が出たマンションでの住居封鎖や隔離措置も緩和されている。行動制限のために用いていたアプリの運用も停止し、政府による国民の行動管理も終局を迎えている。

そもそも、コロナをゼロにすると本気で考えていた政府関係者はいない。習近平氏を含む中央政府の幹部も、いつ、どのような理由で、ゼロコロナ政策から脱却するかを模索していたフシがある。その点では、大規模デモがちょうど良いきっかけになったようだ。

こうした動きを踏まえると、入国隔離制限の大幅緩和がなされるのも時間の問題ではないかとみている。現在、海外から中国へ入国後、5日間の宿泊施設での集中隔離と3日の自宅観察が必要だが(5+3政策)、これが、年内にも香港と同様に、3日の自宅観察のみ(0+3政策)になるのではないかという情報が、まことしやかに飛び交っている。いずれにせよ、年明け早々には入国制限が大きく緩和され、訪日旅行は再開されるだろう。

現地の旅行会社は、再開後は国際線の増便に合わせて、訪日顧客が急激に戻り、再び、日本が人気の目的地に戻ることは間違いない、と口を揃える。当面の間は航空運賃が高いこともあり、最初に動き出すのは、大都市に居住する比較的裕福な若者層やOL層のFIT顧客であり、その後、若いファミリー層に拡大していく。また、円安も追い風となり、日本製品の爆買いブームは確実に起きるだろう。

コロナ前と変わらず、「おもてなし」「安心感」「清潔感」が重要であり、心を持って歓迎すれば十分に喜んでもらえるはずだ。

 

著者プロフィール
ANAセールス株式会社で22年間勤め、国内や海外旅行のツアー造成や訪日旅行、イベント企画などを担当。その際に駐在した中国・上海で現地の旅行会社や上海の実力者たちと知り合う。2009年に独立し、株式会社フレンドリージャパンを創設。以降、中国で得た知見やネットワークを活かして、インバウンドに関わる旅行コンサルティング、販促物の提供、中国からの誘客促進などに従事。独立当初より上海にも事務所を立ち上げ、中国旅行会社向けBtoB販促冊子『壹游日本(いいよりーべん)』の発行なども手掛けた。

 

プチ富裕層の旅行スタイル「都会のショッピング」と「地方の癒し」が定着か

 

行楽Japan 代表 袁 静

 

2020年1月下旬に中国観光客の海外渡航制限が始まってからもうすぐ3年になる。この期間に、中国人富裕層のマーケティングやコミュニティ運営を手掛ける株式会社行楽が、訪日旅行での消費額が平均40万円以上リピーターのフォロワーを対象に実施したアンケートやグループインタビューからは、日本が恋しくて仕方なく、解禁したらいち早く日本に行きたい、という声が多く聞かれた。

10月からの個人旅行客の受け入れ再開に伴い、日本は中国人向け観光ビザの発給を再開した。これを受けて、11月に有効期限5年の数次ビザを保有する206名に対して緊急調査を行ったところ、4割近くの人が、旅行解禁後の日本旅行の予算は、渡航費用を除いて100万円と答えている。

また中国帰国後の隔離政策などの影響で、約半数の人は7日以上日本で滞在予定していると答えた。コロナ前は3〜4日間が主流だったので、滞在日数は約2倍になっている。

一方、この3年間で中国の厳しいコロナ対策に慣れた中国人観光客からは、日本の感染症対策が緩すぎるとの見方もあり、過去より長い滞在期間になる傾向はあるが、人口の密集していない地方観光地に連泊する可能性が高まってきている。公共交通機関を頻繁に使いたくない(中国本土の免許では日本で運転ができない)ことも、この傾向をさらに後押しするだろう。

もちろん、円安の影響や、地方の国際便復航が遅れているなどの理由で、東京や大阪など都心部のデパートでのブランド品爆買いニーズは相変わらず旺盛だろう。ただ、コロナ後には「大都会でのショッピング+地方での癒やし」のような組み合わせが、特に中国人プチ富裕層の観光スタイル主流として、ますます定着していくのではないかと思われる。

 

著者プロフィール
上海市生まれ。北京第二外国語大学卒業。早稲田大学アジア太平洋研究科修了後、日経BP社に入社し日本で10年間を過ごす。帰国後、日本の魅力を中国へ伝えようと2007年より上海にて事業を展開し、2015年より日本拠点を設立。現在、上海と東京にオフィスを構え、70万人の日本リピーターを中心とするプチ富裕層メディア「行楽」を元に、中国での日本の観光PRに活躍する。著書に『日本人は知らない中国セレブ消費』等。観光庁インバウンド地方誘客促進専門家、一般財団法人自治体国際化協会プロモーションアドバイザーとしても活動。

 

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