インバウンドコラム
東京都渋谷区を中心にインバウンドビジネスを行っている株式会社ジェイノベーションズ代表の大森峻太です。渋谷ハチ公前の観光案内所の運営や都内を中心にウォーキングツアーを運営する一方で、インバウンドの専門家として行政関連のアドバイザーや関東学院大学で客員准教授も務めています。
今回は、東京都新宿で開催されている抹茶と着物の体験に参加してきました。自身もインバウンド向けのツアーを運営する経営者、そしてインバウンドの専門家の目線で人気の体験の内容や特徴、工夫しているポイントを紹介していきます。
座学中心の抹茶体験が人気を集める理由
私が参加したのは抹茶と着物の体験「Tokyo:Matcha and Kimono Experience」です。体験の料金は一人当たり8500円、所要時間は約90分間。ホストは国際茶の湯団体「茶柳会」代表理事の砂川孔明氏です。
体験の開催場所は新宿御苑駅から徒歩7分ほどの場所にあるダイニングバーでした。
指定されたダイニングバーに到着すると閉まっていたため場所を間違えたのかと思いましたが、入り口に「Matcha and Kimono Experience」の貼り紙が貼ってあり、ホストが中から迎えてくれました。営業時間外のダイニングバーを通り2階に上がると、そこは畳が広がる着物サロンになっており、すでに他のゲストが到着していました。
参加者はアメリカ人旅行者とオーストラリア人旅行者の合計4名でした。机の上には抹茶を点てるのに必要なものと日本の伝統的なスナックである芋けんぴなどが用意されていました。
ホストの自己紹介から始まり、今回扱うコンテンツについての案内がありました。具体的には着物着用、抹茶レクチャー、茶の湯体験、茶道のルールを学ぶ内容です。
まずは挨拶からということで、参加者全員で「ご機嫌よろしゅうございます」という日本語の挨拶をお辞儀をしながら行いました。日本人の私でも初めての体験ですが、外国人ゲストもホストの見様見真似で行っていました。
▲参加者全員で「ご機嫌よろしゅうございます」
挨拶を覚えた後は男女に分かれて着物を選び着用しました。簡単に着用できるものを用意してくれているので、着物に慣れていなくても自分で着用することができました。着物を着用したら、それぞれが個別に記念撮影です。
▲自分好みの着物を着て記念撮影
その後はスライドを見ながら、日本人と着物のつながりや茶の湯の歴史、茶の湯と茶道の違いなどを学んでいきます。
今回の体験で面白いと感じたのは90分間の体験のうち半分以上が座学で学ぶということです。ある意味講義のような形式になっているため、「ゲストの方々はずっと聞いていられるのかな?」と個人的に少し心配になったのですが、日本や抹茶、茶の湯の文化に興味があるゲストばかりなので皆真剣に聞いていて質問も多く出ていました。今まで数えきれないほどの人気体験に参加してきましたが、半分以上講義形式でも満足度が高いというのは私の中で”人気の体験”の固定概念を壊されるくらい興味深かったです。
体験後にホストに聞いたところ、これでも始めた当初よりもスライドをかなり削っているとのことでした。ただ抹茶を点てる体験をするだけではなく、茶の湯についてしっかりと学んで欲しいというホストの熱意が伝わってきました。
▲スライドで抹茶や着物の知識について学ぶ
最後に茶の湯体験を行います。
抹茶と他のお茶の違いを視覚や嗅覚で感じながら、美味しく抹茶を点てるポイントを学び実践します。ホストの指示に従いながら、各々が抹茶を点てていました。お茶碗を回す動作や飲み方なども学び、全員で「お点前(てまえ)頂戴致します」とお辞儀をして抹茶をいただきました。それぞれが感想を話した後、「ご機嫌よろしゅうございます」と挨拶して体験は終了しました。お辞儀から顔を上げたゲストの満足そうな顔が印象的でした。
「茶の湯を気軽に」訪日客に人気の3つのポイント
今回私が参加した、着物で茶道を体験する90分間のツアー。座学中心でありながら、高い顧客満足度を得ている理由を考察しました。
お茶の知識豊富なプロが解説
今回の体験の主催者は国際茶の湯団体「茶柳会」で、過去に大使館などでも茶文化交流を実施した経験があります。
インバウンドにウケるから始めたわけではなく、もともとさまざまな場で行っていたものを旅行者向けにアレンジしているとのこと。今回も抹茶や茶の湯の歴史、種類に関して、参加者からたくさんの質問が出ていましたが、どんな質問がきてもホストの方がすぐに返していたのは豊富な知識と経験があるプロならでは、と感心すると同時に、他のツアー会社が気軽に始められる(真似できる)体験ではないと感じました。そこにこの体験の強みがあります。現在は5名の方が体験ホストとして活躍されているそうです。
堪能な英語力
ゲスト自身が体験するのがメインのものであれば、日常会話程度の英語力で十分に運営できるものが多いですが、今回の体験に関しては抹茶や茶の湯、着物について詳しく学ぶ内容になっていたため、ホストにはかなりの英語力が求められるものだと感じました。たとえ台本を覚えたとしても、中途半端な英語力ではゲストからの質問に答えるのは難しいです。今回のホストは幼少期をカナダで過ごし、海外留学や海外在住が何度もある英語が堪能な方でした。他のホストも抹茶に精通した日本在住のアメリカ人などで、英語力があるメンバーで運営されていることが重要だと思います。
自由なスタイルで、気軽に楽しく参加できる
抹茶を飲み学ぶというのは敷居が高く感じてしまいますが、今回の体験は「茶の湯をもっと自由に、もっと日常に」というテーマのもと気軽に参加できるように設計されていました。90分間という短い時間で気軽に体験できるようにしていたり、お茶を飲む時やお辞儀する時以外は足を崩して良いと最初に伝えたりと、正座に慣れていない外国人も参加しやすく、抹茶や茶の湯に関する知識がゼロでも楽しめる内容になっていました。参加者にとって抹茶や茶の湯のハードルが下がり、日常となる体験でした。
▲知識が豊富で英語が堪能なホスト
主催者が語る、ツアーの質を落とさず人気を保つ秘訣
体験の裏側を主催者である国際茶の湯団体「茶柳会」代表理事の砂川孔明氏に話を伺いました。
— どのような参加者が多いですか。
アメリカ、フランス、ドイツがトップ3で幅広い年代が参加してくれています。2名での参加が最も多いですね。
— 主な予約経路は何ですか。
旅ナカOTAのGetYourGuideとKlookが同じくらい多く、それに次いで紹介などが多いです。
— 主催側として打ち出している特徴、工夫しているポイントを教えてください。
着物を着ながら英語で抹茶と茶の湯を同時に学べることです。短い時間で効率的に学べるように工夫しています。また、抹茶を実際に美味しく点てる体験も好評です。
— 8500円という料金設定の理由を教えてください。
エリア内に競合がいないため、料金を複数パターン試して利益最大化できる現在の料金に落ち着きました。
— 今回の体験は、相当の知識量がないとホストをやるのは難しいと思いますが、今後規模を拡大する上で課題と感じていますか?
そこは課題だとあまり感じていません。採用要件定義をしっかりと行い、お茶文化に興味がある在住外国人を雇用しています。彼らに対して丁寧にプレゼンテーションなどの研修を行うことで、質を落とさずに体験を提供できると思っています。
▲抹茶を実際に美味しく点てる体験
今回の主催者である「茶柳会」では、お茶に関するさまざまなイベントを企画しているとのことなので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。
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