インバウンドビジネス入門! 業界の現状や歴史を解説

2022.04.01

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インバウンドとは?

いまやビジネスを語る上で欠かせないキーワードとなったインバウンド。本来的には、「入ってくる、内向きの」を意味しますが、ここでは「訪日外国人観光」を指しています。この言葉が使われるようになったのはここ10年ほど、政府が2003年に観光立国を目指すと宣言してからはしばらくたっていましたが、2015年の流行語大賞のノミネートに入るほど市民権を得る言葉になりました(ちなみにその年の大賞はインバウンドに関連深い「爆買い」でした)。

 

インバウンドの現状

2020年3月に世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が「新型コロナウイルス(COVID-19)はパンデミックと言える」と宣言してから、2年がたちました。やまとごころ.jpで連載している世界の動きのコラムを振り返ってみると、当時の見出しに「世界の多くの国が鎖国状態に」とあります。実際、この頃、海外旅行は事実上不可能でした。

2020年の夏以降、新規感染者数がピークアウトした国で入国規制の緩和があったかと思えば、感染再拡大で水際対策が再び強化されるといった状況が繰り返されました。ようやく2021年夏になって、高いワクチン接種率を背景に規制緩和が進み、徐々に観光客の入国が解禁される国や地域も出てきました。

そして、2021年冬からのオミクロン株による感染再拡大も収まりつつあるなか、2022年2月には北欧を中心に規制撤廃の動きがあり、それまで厳格な水際対策を講じていたオーストラリアやニュージーランドもついに外国人に門戸を開くまでになりました。新型コロナウイルスは季節性のインフルエンザのようにエンデミックに移行したと考え、いわゆる「コロナとの共存」という方針による規制緩和が進んだのです。

一方、日本では2022年4月の時点でも、観光客の入国は許可されていません。2020年3月の訪日客数は前年同月比93.0%減でした。その2年後の2022年3月まで2019年比で99%台の減少がほぼ毎月続きます。東京オリンピック・パラリンピックが無観客で開催された2021年7月は5万人を超えたもの、その後はまた毎月1〜2万人前後の訪日客数となっています。

インバウンド客の受け入れを再開している世界と比べて、日本は取り残されてしまうのではという懸念もあるなか、観光庁の和田長官は2022年3月18日の会見で、「日本政府は、国内外の感染状況と主要国の水際対策の状況、検疫体制等を踏まえて今後の緩和について判断すると承知している」と話しました。

一方アウトバウンドでは、日本旅行業協会が海外旅行の再開に向け、4月初旬にハワイへ視察団を送ることになりました。海外旅行再開のネックになる日本での入国者数の制限(4月1日時点で1日7000人)と空港での検疫の2つが課題とされており、政府に対して制限の全面撤廃を求めていくとのことです。アウトバウンドの観光旅行が実現すれば、インバウンドも自ずと再開されるはずです。2022年に再びインバウンド客を迎えることができるか、政府の判断次第となっています。

インバウンド事業者の方には、回復期が来たらすぐさま対応できるようにこの期間も準備を怠らない方も多いでしょう。また、インバウンドビジネスを始めた矢先にコロナ禍に見舞われた方もいらっしゃるかもしれません。2022年春の時点ではまだはっきりとした見通しが立たないインバウンド再開ですが、ここで改めて日本のインバウンドのこれまでを振り返ってみましょう。

インバウンドの歴史

明治時代に、民間のインバウンド専門機関が誕生

遡ること120年以上前の1893年(明治26年)、日本で初めて外客誘致専門の民間機関「喜賓会」が誕生しました。当時の日本を代表する実業家、渋沢栄一が国際観光事業の必要性と有益性を唱え、訪日外国人をもてなす目的で設立したもので、海外の要人を多数迎え入れ、各種旅行案内書の発行などを行いました。

1912年(明治45年)には後に日本交通公社、JTBとなるジャパン・ツーリスト・ビューローが創設され、鉄道省の主導のもと、外国人への鉄道院の委託乗車券の販売、海外での嘱託案内所の設置など、訪日外国人観光客の誘致を行いました。こうした明治中期以降の日本におけるインバウンド施策は、世界の名だたる観光立国と比べて遜色のないものでした。

戦後も外貨獲得のために外国人旅行者の誘致に重きを置き、1964年(昭和39年)の東京オリンピック開催に向け、外国人旅行客を受け入れるインフラが整備されました。

高度経済成長期の海外渡航自由化で盛り上がったアウトバウンド市場

ところが、先進的だった日本のインバウンドビジネスは、1970年(昭和45年)を境に成長が鈍化しました。その要因は大きく二つ。一つは、日本の観光業界が国内市場に重点を置いたこと。もう一つは、1964年に観光目的の海外渡航が自由化されたこと。高度成長期には海外へ出かける日本人(アウトバウンド)が増加。1964年に22万人だったアウトバウンドは1971年(昭和46年)には96万人に達しました。

インバウンドについては、大阪万博開催の1970年にピークの85万人となりましたが、翌年の1971年にはアウトバウンドが逆転しました。以降は円高の影響もあって、インバウンドよりもアウトバウンドの市場が大きくなり、1995年(平成7年)にはアウトバウンドが1530万人、インバウンドは335万人とアウトバウンドが5倍近くに増えました。

その翌年、1996年(平成8年)に、訪日外国人旅行者数を2005年(平成17年)時点で700万人に倍増させることを目指した「ウェルカムプラン21」を運輸省が策定しました。また、2002年(平成14年)の日韓ワールドカップサッカー大会開催はインバウンドに追い風になりました。それでもアジアへのアウトバウンドが増加するなど、両者の開きは拡大する一方でした。

訪日外国人数と出国日本人数の推移

2015年、45年ぶりにインバウンドがアウトバウンドを上回る

そこで、2003年(平成15年)、政府はビジット・ジャパン・キャンペーンを立ち上げ、国を挙げて観光の振興に取り組み、観光立国を目指す方針を示しました。それから10年たった2013年(平成25年)、訪日外国人客数が目標であった年間1000万人を突破すると、新たに2020年までに2000万人、2030年までに3000万人にするという目標が掲げられました。

同年に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、円安も追い風となり、2015年(平成27年)には訪日外国人客数1973万7000人を記録。2000万人まであと一歩に迫ると同時に、大阪万博が開催された1970年以来45年ぶりに、入国者数が出国者数を上回りました。

2018年、3000万人突破

訪日外国人客数が予想を上回るペースで増加していることから、政府は2016年(平成28年)春に、「2020年に4000万人、2030年に6000万人」と目標を上方修正。2016年に初めて2000万人を突破、2018年には3000万人を突破しました。

このように順調な伸びを示しながら迎えた2019年はラグビー・ワールドカップの開催で欧米豪の訪日客は増えましたが、日韓関係の悪化の影響で韓国からの訪日客が激減したこともあり、前年からの伸びは2.2%増にとどまりました。

2020年は東京2020大会の開催もあり反発が期待されましたが、新型コロナウイルスの感染症の拡大で3月以降減少傾向は続き、最終的に年間の訪日客数は411万6000人と、1998年の水準に戻ってしまいました。コロナ禍が続く2021年はさらに減少し、24万5900人でした。

中長期のインバウンド目標見通し立たず

2020年までに訪日外国人旅行者数4000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円という基本目標を掲げた観光立国推進基本計画。観光立国の実現に関する基本的計画として2017年に閣議決定されましたが、本来、2021年3月末で計画期間が終了となり改定される予定でした。しかし、コロナ禍で観光を取り巻く環境が見通しづらいということで、それから1年たった2022年3月の時点でも改定には至っていません。観光目的の入国は制限緩和の対象になっていない現状で、和田観光庁長官は、「中長期的なインバウンドの動向などを見通すことが難しい状況にある」と話しています。

一方、観光庁の2022年度予算では、インバウンド関連として下記を決定しました。

・交流拡大により豊かさを実感できる地域の実現 
  一般財源9億1400万円、国際観光旅客税財源44億800万円
・国際交流回復に向けた準備と・質的な変革 
  一般財源95億1600万円、国際観光旅客税財源36億8700万円

前年度よりは減額となっていますが、ポストコロナを見据えた戦略的な訪日プロモーションを実施し、新たなインバウンド層誘致のために世界的に関心が高まっているサステナブルツーリズムと高付加価値化でコンテンツを強化、MICE誘致の促進も行います。

また、日本政府観光局(JNTO)はインバウンドの段階的な再開を見据え、2022年度には高付加価値旅行(ラグジュアリートラベル)、サステナブルツーリズム、アドベンチャートラベルの3分野に重点的に取り組むとしています。これは、一般の旅行者よりも富裕層が先に動き出すという見通しからのものです。

世界の流れから見ても、2022年にインバウンドが再開される可能性は高いといえます。ただ、再開したとしても2019年までの勢いを取り戻すには少し時間がかかるかもしれません。JNTOが重要視する上記の3分野は世界的な観光のトレンドでもあることから、それを踏まえ、この間を観光業のレベルアップの良い機会ととらえて取り組むのも1つの手です。

世界の観光マーケットと、輸出産業としての日本の観光市場

世界の観光マーケットにおける日本

前述のように2020年、2021年の世界の観光マーケットはあらゆる面でマイナス成長だったため、ここでは、2019年時点の世界の観光マーケットにおける日本のポジションを見てみましょう。

国連世界観光機関(UNWTO)が発表した2020年の国際ツーリズムの統計では、日本は2019年の海外旅行者数(国際観光客到着数)で世界11位、アジアでは中国、タイに次ぐ3位でした。世界10位のイギリスとの差は約730万人、アジアで日本のライバルと言われるタイとの差は760万人となっています。

国際観光客到着数ランキング2019

国際観光収入ランキングでは、2017年に初のトップ10入りを果たして以来順調にランクアップしている日本が、全体の7位、アジアではタイに次ぐ2位に順位を上げました。

観光立国の御三家とも言える、フランス、スペイン、アメリカとは旅行者数でも、観光収入でもはるかに及びませんが、今後も推移には注目していきたいところです。

国際観光収入2019

観光産業は日本の輸出産業で3位

また輸出産業という側面で見ると、日本の観光産業は、自動車産業、化学産業に続く、第3位の規模を誇っています。その観光産業は今後もさらなる成長が見込めるインバウンドが牽引していると言っても過言ではありません。

訪日外国人旅行消費額の製品別輸出額との比較2019

インバウンド消費額の重要性

「インバウンド消費額」とも呼ばれる訪日外国人旅行消費額は、2015年に飛躍的な伸びを示して初めて3兆円を突破すると、2017年には4兆円を超えました。その後伸びは緩やかになりましたが、2019年は前年比6.5%増の4兆8113億円でした。

訪日外国人旅行消費額

2019年の訪日外国人旅行者の1人当たりの旅行支出は、15万8458円でした。日本人の1人当たりの宿泊旅行が5万5054円でしたから、単純に見ても1人当たり日本人の3倍を支出している形になります。外国人旅行者は日本人旅行より経済効果が高いと言われる所以です。

日本を訪れる外国人はどの地域からが多いのか

日本を訪れる外国人観光客トップ6

2019年の訪日外国人客を国・地域別に見ると、1位の中国が全市場で初めて900万人台を達成、韓国は激減するも558万人で2位を維持、これに台湾、香港を加えた東アジア4市場で訪日外国人客全体の70.1パーセントを占めました。また、前年に東南アジア市場で初めて100万人を突破した6位のタイは2019年も好調でした。

ちなみに訪日外国人客数が激減した2020年の国・地域別入国者数では、中国(106万9256人、前年比88.9%減)、台湾(69万4476人、前年比85.8%減)、韓国(48万7939人、前年比91.3%減)、香港(34万6020人、前年比84.9%減)、タイ( 21万9830人、前年比83.3%減)、アメリカ( 21万9307人、前年比87.3%減)がトップ6で、以下は20万人未満でした。

訪日外国人数2019

以下は2000年からの訪日外国人客数の推移を示したグラフですが、これを見ると、2013年までは韓国が訪日客トップの市場でしたが、2014年に台湾が首位に浮上し、そして2015年には中国がナンバーワン市場になると、以後首位の座を守り続けていることがわかります。

 

インバウンド客にはそれぞれ国によって特徴があります。個人旅行か団体旅行か、日本をどういうルートで旅行し、どこへ行きたいか、目的はショッピングか体験かなど。また、滞在日数や訪問先にも違いが見て取れます。インバウンドビジネスを始めるにあたっては、ターゲットにする国・地域の特徴を把握するようにしましょう。

 

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