インバウンドコラム

【体験レポ】2時間で侍の精神を伝える剣道体験体験、訪日客に刺さるプログラム作りの秘密

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日本の「侍文化」に憧れを抱く訪日外国人は多いものの、それを実体験として味わえる環境は限られています。

今回ご紹介するのは、わずか2時間で侍の魂と剣道の魅力を感じられる武道体験プログラム。どのような工夫を施せば、外国人にも分かりやすく、日本文化への理解を深めてもらえるのか。

実際に体験に参加し、その現場に隠された仕掛けを探りました。

剣道体験を楽しむ訪日客

 

本格的な道場で“侍の精神”を体感する剣道体験ツアー

今回私が参加したのは、剣道の本格的な体験と侍の精神を体感できる「Kendo Experience Tour SAMURAI TRIP」です。体験の料金は一人当たり18,000円。約120分で、着付けから始まり、基本動作の練習や模擬試合に加え、文化背景のレクチャーもありました。

会場はJR鶯谷駅から徒歩10分ほどにある剣道場。観光客にもわかりやすい場所ながら、周囲は閑静な住宅街で、いわゆる“観光地”とは少し違った雰囲気があります。

この日は、トルコからの旅行者とロシア人カップルの2組が参加。120分の体験プログラムでは、初めて剣道に触れる人でもしっかり楽しめる内容になっていました。

日本の武道は空手や柔道など世界的に有名な競技が多いですが、剣道は「竹刀と防具を使った侍の伝統」が感じられるところが大きな魅力です。特に海外の方にとっては、侍文化の奥深さや、アニメ・漫画で見かける剣劇のイメージがリンクして興味をそそられるようです。今回の体験プログラムは、その「侍の精神」を存分に感じられるように工夫されていました。

 

着付けからはじまる没入体験、座学と実演で深まる理解

まずは受付を済ませ、防具や剣道着が用意された更衣室へ。先生がサイズを見ながら選んでくれます。初めて着る剣道着と袴に参加者は皆大興奮。着替えが終わったら、記念撮影タイムがありました。

剣道着と袴を身につけ、記念撮影をする訪日客▲袴姿で写真を撮るだけで、侍気分に

次に、面(頭部を守る防具)以外の防具を装着し、先生の号令に合わせて挨拶からスタート。「礼に始まり礼に終わる」という日本の武道の精神を体験する最初のステップです。軽く体をほぐした後は、「こて!」「めん!」と大きな声を出しながら竹刀の振り方を学びます。最初はぎこちなかった参加者たちも、声を出すことで一気に剣道の世界に入り込んだようでした。

30分ほど練習を続けたあとは、小休憩をはさみながら「日本刀と竹刀」「侍と刀」などに関する説明がありました。

アニメや映画で馴染みはあるものの、実際の刀の重さや歴史的背景を知ると、外国人の方も真剣に耳を傾けていました。こうした文化的背景の説明は、外国人の理解を深めるうえでも非常に重要なポイントといえます。

休憩後は、いよいよ面をかぶって本格的な剣道スタイルに。防具をしっかりつけるとやはり圧迫感があり、普段のスポーツとは違う緊張感を味わえます。さらに数十分間は先生の見本を見ながら基本技を繰り返し練習。大きな声で発声し、正しいフォームを身につけていきます。

 

ハイライトは試合形式の打ち合い体験、初心者でも楽しめる演出

一通り練習した後は、いよいよ参加者同士の“試合”へ。剣道の試合だと通常は打突部位や審判の旗判定で得点を決めますが、初心者体験ではコテと面の部分に紙風船をつけるユニークな方法が導入されていました。ヒットすると紙風船が割れる仕組みなので、どこが当たったのか一目瞭然。剣道初心者でも勝敗を楽しみやすいように工夫されているのが印象的でした。

初心者体験ではコテと面の部分に紙風船をつけるユニークな方法を導入▲見事ヒットして紙風船が割れるたびに歓声が上がり、周囲は大盛り上がり

最後は先生1人に対して参加者2人が挑むハンデ戦。しかし、先生の竹刀が驚くほど素早く振り下ろされるため、なかなか当てられません。侍の精神を身につけるには、まだまだ修行が必要だと痛感。圧倒的な速度と的確さに、外国人参加者からは「すごい!」という声が上がり、剣道の奥深さを肌で感じる時間になりました。

試合後は防具を外し、一息ついたところで侍と剣道の関係や、アニメ・漫画で描かれる剣劇と実際の稽古の違いなど、外国人が興味を持ちやすいポイントを丁寧に解説してくれました。日本の刀文化がどのように受け継がれてきたのか、精神面がどのように現代の武道に息づいているのかなど、深い話をわかりやすく紹介してくれます。こうした解説があることで、ただ体を動かすだけでなく「文化理解の旅」としての満足度がグッと高まっているように感じました。

なお、インバウンド向けには、英語や多言語での説明資料・通訳の対応も重要ではありますが、今回の先生は英語が話せない状態で体験販売を開始したというから驚きです。最初はマレーシア人の友人に手伝ってもらっていたそうですが、途中からはスクリプトを覚えることで、自分1人でも問題なくできるようになったそうです。

 

「気軽な剣道体験」訪日客に人気の3つのポイント

今回、実際に参加してみて感じたインバウンド人気が高い理由を考察しました。

映像で見る“侍の世界”を追体験

普段は道場などでしか見られない防具一式を装着し、大声を出しながら竹刀を振ることで、短時間でも侍の世界を追体験できるのは大きな魅力です。外国人にとっては、映画やアニメのイメージを“リアル”に体感できることが印象的で、SNSにも映えるコンテンツになります。

先生の話を真剣に聞く参加者▲先生の動作をまねして稽古に挑む参加者

初心者でも楽しめるシンプルな勝敗の仕組み

紙風船のようなツールを使い、初心者でも試合をわかりやすく楽しめる仕組みがあるのは大きなポイントです。単なるレクチャーに終わらず、実践→勝敗という流れがあることで、エンターテインメント性が高まります。短い滞在日程でも充実感を得やすく、「思い出のハイライト」になりやすいと言えるでしょう。

 

剣道の技術と文化背景を学べるプログラム

今回の体験は、剣道の技術体得はもちろんのこと、剣道着の着付けや刀の歴史、武道の背景にある侍の精神など、剣道の文化的背景も含めて学ぶことができるように設計されていたのも、観光客にとって嬉しいポイントです。
体を動かすだけでなく、“なぜ”こうしたスタイルなのか、“どうやって”この文化が現代に残っているのかなど、総合的に解説してもらえることで、より深い満足感が得られます。

 

主催者が語る、剣道体験が人気の理由

体験の裏側を主催者であるKendo Experience Tour SAMURAI TRIP代表の永松謙使氏に話を伺いました。

— 剣道体験ビジネスを始めたきっかけは何ですか?

スタートしたのは、2016年7月頃です。独立後に新しい事業を探していた中で、テレビで忍者体験の人気を知ったのがきっかけです。剣道体験について調べると、過去の実績はあったものの、体系的に提供しているところはほとんどなく、ニーズがあると感じました。また、私自身が慶応大学の剣道部出身で、正しい剣道の魅力をきちんと伝えたいという思いも強く、誤った形で広まる前に自ら提供しようと決意しました。

— どのような方が参加されることが多いですか?国籍や年齢層など教えてください。

個人旅行(FIT)と団体旅行の両方を受け入れていますが、それぞれの属性は大きく異なります。個人旅行者で多いのは、アメリカをはじめとする欧米豪からのファミリーや友人同士のグループです。彼らは「サムライ」に興味を持って検索することが多く、さらに現在はほとんどの国、地域に剣道チームがあるため、「剣道は見たことがある」「ちょっと知っている」という方が多いのが特徴です。

一方、団体旅行は圧倒的に中華圏、特に中国や香港の企業研修などのケースが多く見られます。コロナ前はロシアからの団体もありましたが、現在は状況が変化しています。団体旅行者の場合は、「大人数で一度に体験できるコンテンツが少ない」ことから、剣道体験のような広いスペースで受け入れが可能なアクティビティが選ばれる傾向にあります。

— 主な予約経路はどこになりますか?

個人旅行(FIT)で多いのは、自社サイトからの予約と、旅ナカのOTA(Online Travel Agent)で、ほぼ同じ割合です。
自社サイトの予約の割合が多いのは、MEO(Map Engine Optimization)、つまりGoogleマップでの口コミが影響しているのだと思います。
OTAは、トリップアドバイザーとゲットユアガイドが多く、そのほかクルック(Klook)なども利用されています。最近特に増えているのはゲットユアガイドです。

なお、団体旅行に関しては、ほぼ100%自社サイトか、提携している旅行会社からの直接の問い合わせです。大人数で本格的な日本文化体験ができる施設やプログラムは限られているので、問い合わせも多いです。

— 外国人にとって、剣道体験のどのような点が魅力に映っているのでしょうか?

大きく2つあります。1つは「文化的側面と競技的側面の両方がある」ことです。お互いに打ち合う激しい競技でありながら、「礼に始まり礼に終わる」という精神性を重んじる。このギャップが、外国人には非常にユニークに映るようです。

 防具を取った後の座学で理解を深める参加者▲防具を取った後の座学で理解を深める

もう1つは、「直接打ち合える」という点です。実際に防具をつけて相手と打ち合う体験は、他の武道体験ではなかなかできません。ゲームセンターとは違う、本物の対戦ができるアクティビティはほとんどない。これが大きなバリュー(価値)になっていると思います。

— 『道』のような伝統文化をテーマにした体験を作る上で、エンターテイメント性とのバランスなど、気をつけていることはありますか?

最適解はまだ模索中ですが、「伝統の本質を守りつつ、体験として楽しめるバランス」を意識して、取り組んでいることは大きく2つあります。

ひとつは、業界団体への説明責任を果たすこと。たとえば、全日本剣道連盟には事前に事業内容を報告し、誤解を生まないよう理解を得る努力をしました。剣道界では商業化に対する懸念もあるため、「我々はルールを守っている」という姿勢を公的に示すことを大切にしています。

もうひとつは、剣道として外せない「本質的な要素」を体験の中に必ず盛り込むこと。たとえば、打った後の「残心(打ち込んだ後も油断せず、相手の反撃に備える心構えと姿勢)」の所作は欠かせません。一方で、防具を身に着ける際の作法やルール、例えば「正座」のような身体的に負担が大きい要素は省略し、ゲストが無理なく参加できる設計にしています。

体験と稽古は異なるもの。その違いを理解し、どこまで簡略化が許されるか、どこが本質なのかを見極めることが、最も難しい事であり、同時に大切なことだと考えています。

Kendo Experience Tour SAMURAI TRIPでは、東京のみならず、大阪、京都、名古屋、沖縄等、全国各地で剣道体験ツアーを展開しているので、ぜひチェックしてみてください。

Kendo Experience Tour SAMURAI TRIPの詳細はこちら

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