インバウンドコラム

インバウンドが熱狂、待ち時間からラストまで仕掛け満載の浅草ショーの全貌とは?

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インバウンドの旅ナカ現場を取材し、その成功の秘訣を探る本連載です。今回は、連日多くの外国人観光客で賑わう「和風ショーシアター 浅草香和(かぐわ)」を訪れました。

観客の約7〜8割は海外からの観光客で、特にアメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、オーストラリアからの来場が目立ちます。ワンドリンク付きのチケットは1名あたり7700円から(料金は変動する場合あり)で、この日も客席の9割近くが埋まる人気ぶりです。その背景には、ショー本編の魅力はもちろんのこと、開演前の「待ち時間」を極上の体験に変える巧みな仕掛けと、現代の視聴スタイルに最適化された圧巻のショー構成がありました。

今回は、座長兼演出家のかずみさんにお話を伺いながら、インバウンド客を惹きつけるエンターテインメントの秘訣をレポートします。

インバウンドを熱狂させる浅草のショー。体験してわかった、開演前から終演まで興奮が途切れない体験設計

 

「待ち時間」を「特別な体験」に変える3つの仕掛け

今回参加したのは19時開場、20時開演の回です。開場から開演まで1時間ありますが、その時間を全く退屈させない工夫にまず驚かされました。

会場に足を踏み入れると、すでに多くの外国人観光客が席に着き、ドリンクを片手に談笑しています。そのテーブルを、ショーに出演する演者たちが華やかな衣装で回っていきます。

1. 演者との積極的なコミュニケーションが「最高の思い出」に

演者たちは、1組1組のテーブルを訪れ、「どこから来たのですか?」「日本はどこを観光しましたか?」と気さくに話しかけます。この「舞台と客席の垣根を超えた交流」は、海外の観客にとって特に印象深い体験になっているそうです。

開演前から始まる演者と観客の温かい交流
▲開演前から始まる演者と観客の温かい交流

2. 思い出を形に残すフォトスポット

会場には、絢爛豪華な衣装を羽織って写真を撮れるスペースが用意されています。多くの観客がここで記念撮影を楽しんでおり、演者と一緒に撮影することも可能です 。旅の思い出を形に残せるだけでなく、SNSでの拡散効果も期待できる、巧みな仕掛けだと感じました。

3. 食事とドリンクでリラックス

チケットにはワンドリンクが含まれており、追加で食事やドリンクを注文することもできます。ベジタリアン向けメニューも用意されており、ショーを観ながら気軽に食事を楽しめる点も好評です。

 

飽きさせない60分、ショート動画世代にも響くショー演出の工夫

20時、いよいよショーが開演します。ここからが圧巻でした。60分間のショーは、数分単位で演目がめまぐるしく変わっていきます。侍の殺陣、花魁の妖艶な舞、アクロバティックなダンスなど、観客が「日本」に期待するイメージが次々と最高のクオリティで繰り広げられます。

観客が期待する「クールジャパン」が目の前で繰り広げられる
▲観客が期待する「クールジャパン」が目の前で繰り広げられる

座長であり演出家でもあるかずみさんが「大切にしているのは『敷居を下げつつ、本質を損なわない』こと」と語るように、花魁や侍といった伝統的なモチーフに、現代的な音楽・照明・映像演出を重ねることで、初めて日本文化に触れる人でも楽しめる構成になっています。

このスピーディーな展開は、一つのコンテンツを長く見続けることが少なくなった「ショート動画時代」において、観客を全く飽きさせません。実際、観客は次々と変わる場面展開に完全に心を掴まれ、食い入るようにステージを見つめていました。

 

言葉はいらない、誰もが楽しめるエンターテイメント

このショーの最大の強みは、セリフが一切ない「ノンバーバル・パフォーマンス」であることです。ストーリーは全てダンスや殺陣、演者の表情で語られるため、国籍を問わず楽しむことができます。かずみさんによれば、感動して涙する観客も少なくないそうです。

さらに、ショーの途中には観客参加型の演出も盛り込まれています。獅子舞が客席を回り、希望者の頭を噛んで厄払いをするのです。また、演者のリードで観客全員が「三三七拍子」を行う場面もあり、会場が一体となって盛り上がります。

観客を巻き込む参加型の演出も人気の秘訣
▲観客を巻き込む参加型の演出も人気の秘訣

 

インバウンドに刺さる秘訣とは? 座長が明かす体験の裏側

2004年に六本木で誕生し、一時閉店を経て2020年まで開催されたショーシアター『香和(かぐわ)』。その魂を次世代に残したいという思いから、2024年に歴史と文化の街・浅草で「浅草香和」として新たなスタートを切ったかずみさんは、インバウンド向けの体験コンテンツを企画する上で大切なことは安心して楽しめる雰囲気づくりと『文化を魅せること』と『楽しませること』のバランスだといいます。

「言語の壁を超える工夫以上に、温かいおもてなしが旅行者の心には残ります。また、日本文化は難解すぎても軽すぎても印象に残りません。誰にでも伝わるエンターテイメントの中に文化の本質を織り交ぜ、温かい交流を添えることで、お客様にとって『日本旅行のハイライト』となる体験に繋がるのだと考えています」とかずみさんは強調します。

その言葉を裏付けるように、同店の集客戦略もインバウンドの特性を的確に捉えています。予約経路は自社公式サイトやホテルコンシェルジュ経由のほか、OTA(オンライン旅行会社)からの流入が大きな割合を占めます。特にGetYourGuideが圧倒的で、レビュー数はすでに1800件を超えています 。

演者と観客が一体となる、熱気と感動のフィナーレ
▲演者と観客が一体となる、熱気と感動のフィナーレ

まさしく、質の高いパフォーマンスと温かいホスピタリティが見事に融合した空間でした。終演後、多くの外国人観光客が演者たちのもとに駆け寄り、「最高だった!」と興奮気味に感想を伝えていた姿が、このショーの成功を何よりも物語っています。

浅草香和(かぐわ)のショーについてはこちら

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