インバウンドコラム

ホテルの朝食会場が人気体験の舞台に、初訪日ゲストに選ばれる大阪お好み焼き体験ツアー

2025.11.12

山本 紗希

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皆さんは、海外旅行中に現地の料理を学べる体験ツアーに参加したことがありますか?「おいしいものは人と人をつなぐ」とよく言われるように、料理を通じて参加者同士が自然と打ち解ける場面も多く見られます。

今回は、訪日客に人気の「料理体験」の中でも、大阪で開催されているプログラム「地元ホストと一緒に大阪風お好み焼きをつくろう」に参加。その体験の様子と人気の理由をレポートします。

お好み焼き体験の様子

 

ホテル開催でバリアフリーも充実、初訪日でも参加しやすい体験

今回参加したお好み焼き作り体験は、16時〜18時の約2時間で「学ぶ」「作る」「食べる」を通じて日本の食文化を体感できる内容です。会場は大阪・長堀橋のSARASA HOTELで、ガイドは地元出身のKeikoさん。

体験は、お好み焼きの歴史紹介から始まり、食材の説明、調理へと進みます。大阪・広島・東京スタイルの違いを紹介しながら、自分好みの具材で仕上げ、最後は味噌汁と和菓子を添えて参加者同士で交流を楽しみます。

この日の参加者は、アメリカのアラバマ州でコーヒーショップを営む夫婦と、スコットランドから訪れたインド系の女性と欧州出身男性のカップル。4人とも初訪日で、東京、京都、大阪にそれぞれ4~5日ほど滞在して、翌日は奈良と広島への日帰り旅行を予定しているとのことでした。

お好み焼き体験参加の4名▲当日は4名の参加者が体験

普段の参加者は、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパからの旅行者が多いそうです。特に4月と10月の参加が多く、6月はハネムーン層、8月はファミリー層と時期によって多い客層に傾向があるといいます。年齢層は幅広く、小さな子どもからご年配の方までさまざまです。

会場がホテル内という点も特徴で、バリアフリー対応が整っています。入口にはスロープがあり、会場まで段差はなく、トイレも引き戸式のため、車椅子の方でも安心して参加できる環境です。書道のような文化体験は古民家や和室での開催が多い中、ホテル開催は雰囲気よりも快適性や安全性を重視したスタイルといえ、ホテル開催ならではのメリットがありますね。なお、この日は参加者4名に対し1名のガイドが対応していましたが、参加人数に応じてスタッフを増やす体制をとっています。

集客にはAirbnbとViatorを活用しており、特にViatorはTripadvisorなど複数のOTAと連携しているため、露出が高まりやすいそうです。その他のOTAにも掲載していますが、実際の予約の多くはこの2つのプラットフォーム経由とのこと。一部では旅行会社からの送客もあるようです。

予約完了後届く案内メールでは、Keikoさんの知人が提供する他の体験プログラムも紹介されます。特に初訪日の旅行者にとっては、数多ある中から体験を選ぶのは容易ではありません。体験同士で相互に参加者を紹介し合うこの仕組みは、旅行者の選択肢を広げるうえでも有効だと感じました。

Airbnbのメッセージで送られてきたおすすめツアーのリスト▲Airbnbのメッセージで送られてきたおすすめツアーのリスト

 

笑いと学びを交えながら、全国各地のお好み焼きの違いを紹介

お好み焼き体験は、手を洗って、名札をつけたあと、自己紹介からスタート。自己紹介をすることで自然に会話が生まれ、旅行の情報交換も楽しんでいただけますよね。

名札にも一工夫がありました。名前をアルファベットで書いてもらい、その読み方を確認したうえで、横にカタカナでふりがなを添えるのです。海外の方の名前は、綴りから正確に読み取るのが難しいこともあるため、この方法で読み間違いを防ぐそう。名札そのものがお客様のお土産にもなり、いいですね。

カタカナで名前を書くことがポイントの名札▲カタカナで名前を書くことがポイントの名札

体験の冒頭には、お好み焼きの歴史についての話があります。千利休の時代までさかのぼる話に驚きながらも、「もともと夕食前に食べられるスナックだった」と聞いて、早めの時間帯での体験にも納得がいきます。

広島スタイルのひろしま焼きや、東京のもんじゃ焼きを紹介したあと、大阪スタイルのお好み焼きに。「大阪がオーセンティック(本場)だよ、ベストお好み焼きは大阪だよ!」とKeikoさんが笑いを誘い、参加者からも「It looks!」とツッコミが入り、まさに大阪らしい空気が広がっていました。

 

自国で楽しめるように、アレルギーやヴィーガンなどに配慮したレシピ説明

次は、食材やレシピの説明に入ります。

レシピは後ほど配布されるため、体験中にメモを取る必要はありません。説明は小麦粉から始まり、各食材について丁寧に紹介されます。お好み焼きに使用するのは薄力粉が基本ですが、米粉やコーン粉、そば粉なども試したそうです。どれも相性は良いものの、「ココナッツ粉で作ったらおいしくなかった」という参加者の声に、Keikoさんが「それはやめておいたほうがいいかも」と笑わせてくれました。

また、お好み焼き作りに特化した「お好み焼き粉」が市販されていますが、薄力粉で十分おいしく作れるとのこと。「あれはセールスストラテジー(販売戦略)かもね」と冗談まじりに話してくれました。

この体験では、アレルギーやヴィーガン、宗教上の制限にも柔軟に対応しています。たとえば、グルテンフリー用には米粉や山芋を使い、ヴィーガン用には出汁を昆布ベースで代用するレシピが紹介されました。

お好み焼きの作り方を熱心に聞く参加者▲お好み焼きの作り方を熱心に聞く参加者

次に、バッター液に入れる具材の説明です。参加者が順番に食材の香りを嗅ぎながら、Keikoさんが「これは何でしょう?」と問いかけていきます。かつお出汁、こんぶ出汁、天かす、桜えび、紅しょうが、こんにゃくなどが登場しました。初訪日の方々には難しかったようで、今回は私がすべて回答する流れに。ややドキドキしながらも、全問正解できました。

山芋の説明では、ヨーロッパでは手に入りにくいため、オクラや納豆、チアシードなどを代用として紹介。「デンジャーポテト、ぬるぬる注意!」というフレーズで、初めて触れる人の不安を和らげてくれます。

説明はテンポよく進み、約15分で調理に入ります。キャベツは参加者で手分けして刻み、山芋をすりおろしてバッター液を作ります。その後、大きなボウルから各自専用の小さなボウルに取り分けます。ここでの特徴は、具材を「as you like(お好みで)」自由に追加できる点です。Keikoさんは「私はダイエット中だからこんにゃくたっぷり!食物繊維が多くてお腹の掃除になるよ〜」と説明し、場を和ませていました。

焼きの工程では、1人あたり12〜15分かけてじっくりと火を通します。「押したくなるけど我慢、我慢」とアドバイスされながら、きれいなお好み焼きが完成。ひっくり返す瞬間は写真を撮り合い、大きな盛り上がりを見せました。これは、帰国後にシェアしたくなる体験だろうなぁと感じました。

焼き加減を細かくチェック▲焼き加減を細かくチェックしてくれます

最後に、味噌汁を作ります。出汁や具材はすでに準備されており、あとは味噌を溶くだけ。「家に味噌はある?」と聞かれた全員が「ある!」と答えたものの、「種類は?」と尋ねると「味噌は1種類だけだと思ってた」と笑いが起こりました。日本にはさまざまな味噌があると伝えると、またひとつ文化の違いを感じられ、盛り上がる瞬間となりました。

 

食卓から広がる交流、料理を通じた世界の旅談義

調理開始から約1時間でお好み焼きが完成し、いよいよ実食の時間です。ビールを希望する方には、ホテルのフロントで購入できると案内があり、近くのセブンイレブンでも調達可能です。この日もアメリカから参加したご夫婦がビールを買いに出かけ、ホテルで販売していたクラフトビールにも喜んでいる様子でした。

参加者全員にとってお好み焼きは初体験。食べる前にソースの説明があり、自国でも再現できるようレシピも共有されました。ソース、マヨネーズ、カツオ、青のりを自由にトッピングして、いただきます。

作ったお好み焼きと一緒に写真を撮る参加者▲「可愛く撮ってね」と完成したお好み焼きと参加者

食事中は自然と会話が広がっていきます。「日本では他に料理教室に行った?」「他の国でも?」といった話題から始まり、「イタリアではパスタ教室に行った」という話に私も興味津々でした。「日本で一番おいしかった料理は?」「どの国に行ったことある?」「次はどこに行くの?」と、話は次第に旅行の話題へと広がり、盛り上がっていきます。

食後はデザートタイム。桜餅とおはぎについて簡単な説明を受け、みんなでトライ。どちらも初めての方が多く、恐る恐る口にする様子が印象的でした。その後は再びお好み焼きの話に戻り、日本ではキムチ、チーズ、アボカド、ウインナーなど多彩なアレンジがあることが紹介されました。「自国で作るなら何を入れる?」という話題には、カレー(インド系イギリス人参加者)、チーズ、目玉焼き、チリオイル(アメリカの参加者)など、お国柄が表れる回答が続きました。

最後にKeikoさんから「レシピを見て、ぜひ家でも作ってね。できたら写真を送ってね」とのメッセージがあり、サプライズで着物リメイクのポーチが一人ひとりに手渡されました。Keikoさんのお母さんの手作りで世界に一つだけの贈り物、嬉しいに決まっています。

着物リメイクポーチのプレゼントに喜ぶ様子の参加者▲着物リメイクポーチのプレゼント

「お金は置いていってもいいけど、忘れ物はしないでね」と、最後まで笑いを誘う言葉でツアーは締めくくられました。

 

朝食会場を昼間に活用 多様な文化体験の拠点に

今回の体験会場である、大阪・長堀橋のSARASA HOTEL心斎橋の朝食会場では、朝食時間以外は空き時間となるこのスペースを活用し、いけばな体験や書道、手毬づくりなど複数の日本文化体験が日替わりで行われています。ちなみに、夜は主に日本人の会社員向けの語学レッスンが行われています。体験ごとに異なるホストが集まり、スペースを共有しながら、会場の利用料などの運営コストを分担して協業しているのが特徴です。参加者が複数の体験を“はしご”することもあり、再訪のきっかけにもつながっています。

ホテルの朝食会場を活用し、訪日客向けのさまざまな体験ツアーが行われている▲朝食会場を活用し、訪日客向けのさまざまな体験ツアーが行われている

料理体験を主宰するKeikoさんはもともと、英会話カフェなどの語学レッスンや編み物、パンレッスンの教室を運営していましたが、訪日客向けの料理教室も開始しました。2019年のラグビーワールドカップを機に人気が高まり、ようやく軌道に乗り始めた矢先に新型コロナウイルス感染症の影響で店舗を移転することに。あきらめきれずに近隣のホステルで再開を試みたものの、そこも閉鎖を余儀なくされました。

その後、「ホテルの朝食会場を昼間に使えないか」と考え、周囲のホテルに一軒ずつ声をかけて回ったといいます。最終的に、知人が勤務するSARASA HOTELがスペースの提供を承諾してくれたことで、現在の形が実現しました。

さまざまな体験が一つのスペースで行われている様子▲1番奥が書道教室、真ん中が手毬教室、手前がお好み焼き作り教室

 

初訪日のゲストが安心して参加できるツアーのポイント

THE王道の日本を楽しみたい、初訪日のゲストにとって参加しやすいKeikoさんのツアー。その魅力は、主に3つ挙げられます。

1.ホテル開催による安心感
初めて訪れる場所は誰もが緊張します。Keikoさんのツアーはホテル内で実施されており、施設としての安心の担保が大きいと考えます。

2.アクセスの良さ
会場は、心斎橋から1駅の長堀橋で、徒歩でも約10分と好立地。王道スポットに行くことの多い初訪日の旅行者にとっては、そこからのアクセスの良さが参加のしやすさに繋がります。

3.ゆっくりと話すよと最初に説明
体験の冒頭、Keikoさんは「8年ほど前から始めたけど、今でも英語の説明はちょっと緊張する。だからゆっくり話してくださいね」と率直に伝えていました。参加者たちは優しいまなざしを向けていました。欧米圏の旅行者でも、英語が得意とは限らないため、丁寧な語りは安心材料となります。私も英語が完璧ではないガイドの方がややホッとします。

体験全体にも細やかな配慮が見られます。食材や道具が進行に合わせて使いやすい位置に配置されていました。また、ゲストが切ったり混ぜたりしている間に、汚れものを片づけ、食事の準備を進めるなど、ゲストが調理に集中できるよう、サポートも手際よく行われていました。

さらに、Keikoさんは、お料理教室に参加した方を夜に開催している語学教室に誘うなど、ゲストと地域の方々を繋ぐ役割も自然と担っています。

今回のように、ホテルの朝食会場を昼間に活用するスタイルは、今後さらに広がる可能性があります。空き時間を有効に使いながら、外国人旅行者向けの体験を提供するモデルとして、多くの人にとって参考になりそうです。

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