インバウンドコラム
日本に来たら侍や将軍、そして日本の歴史について学びたい、そんな外国人の方々から高い支持を集めているのが、京都市観光協会(DMO KYOTO)が主催する「二条城公式ガイドツアー」です。体験予約サイト「GetYourGuide」では900件以上のレビューが寄せられ、評価は星4.7と高水準を維持しています。
今回は、そのツアーに参加し、現場の様子やガイドの伝え方に見られる工夫などを取材。さらに、ガイドたちを支える人材育成制度や、持続可能なガイド体制の裏側についても、京都市観光協会に話を聞きました。

世界遺産・二条城をもっと深く楽しむ 1時間の公式ガイドツアー
「二条城公式ガイドツアー」は、二条城の東大手門を入ってすぐのツアーデスクに集合し、英語または日本語で実施される公式ガイドツアーです。英語ツアーは毎日10時と12時の2回開催されており、所要時間は各回とも約1時間です。同様に、日本語のツアーも毎日9時半と11時半の2回開催されています(年末年始及び1、7、8、12月の火曜日を除く)。
ツアーでは、世界遺産である二条城の中でも特に見どころとなる二の丸御殿を中心に、東大手門や二の丸庭園、非公開エリアの一部までを巡ります。
英語ツアーの代金は2,500円で、二条城や二の丸御殿の観覧料は含まれていないので、参加者が各自で購入します。
ツアーデスクにはスタッフが常駐しているため、予約の空きがあれば当日受付もできることが特徴の1つです。この日も、マレーシアから2名のお客様が当日申し込みで参加していました。2人とも京都を訪れるのは今回が初めてだそう。ほかに、アメリカ在住でイタリアと台湾にルーツを持つ2名、同じく、アメリカ在住でフランスとカナダにルーツを持つ2名が事前予約で参加していました。人数や混雑状況によってはイヤホンガイドを活用するそうですが、今回のツアーでは使用されませんでした。
今回、ガイドを担当してくださったのは、Naokoさん。2025年2月からガイドを始めたばかりです。以前は日本人向けの添乗員をしていましたが、子供ができてからは在宅でできる仕事に転向。その後、「やっぱり誰かに目の前で喜んでもらえる仕事をしたい」と、二条城でガイドデビューをしたそうです。
▲公式ツアー専用のツアーデスク
非公開エリアも見学可 参加者を惹きつけるツアー構成の工夫
ツアーデスクで受付後、東大手門からツアースタート。ここでは、日本の歴史、将軍や侍の時代の終わり、二条城の増築、そして、東大手門について説明があります。導入部分がやや長い説明になりますが、「歴史的な背景、幕府と皇室の関係などを理解してもらってから入らないと、二条城のガイドが難しいため、丁寧に説明している」とNaokoさんが話していました。
ツアー開始の序盤は、移動がやや早足に感じたのですが、雨の中だらだら外を歩いたり、混雑した二条城の中を歩いたりするよりは、立ち止まって説明する部分と、さっと移動する部分があることで、スムーズなツアー運営になっているのだなと感じました。
あいにくの雨でしたが、二の丸御殿の前では順番に参加者の写真撮影をお手伝いすると、「ビューティフル!」と喜んでいました。
全景が見える場所で、徳川家の葵の御紋や菊の御紋などについての説明があり、いよいよ団体入口から二の丸御殿の中へ。団体入口を使うと、団体ごとに傘や靴がまとめて置けるため、スムーズに入場できます。
▲団体専用の下駄箱
二の丸御殿では、全部の部屋をじっくりとみてまわるのではなく、1時間で案内するためにポイントを絞って話をしていました。中でもお客様が興味をもっていたようにみえたのは、来殿者が最初に立ち入る部屋で、襖や壁の絵から「虎の間」とも呼ばれる遠侍の間と、将軍と徳川家に近しい人物との対面に使われ桜が描かれた黒書院です。遠侍の間では、「このお部屋には、椅子も机もなく、虎に囲まれて待つのは怖かったかも。これは敵を緊張させる戦略だったかもね」とNaokoさん。皆さんは「なるほど」と頷かれていました。
黒書院では、満開の桜の障壁画が目を惹きます。Naokoさんは「桜は美しく咲いてサッと散るから、侍に好まれた。京都は、さまざまな種類の桜が咲き、長い期間楽しめる。桜の時期もきてほしいな」と話し、自然な流れで「また京都に来たい」と思ってもらえるような会話に繋げていました。
二の丸御殿の後は、すぐ裏にある個人客には非公開の中庭エリアへ。非公開の国宝をみせてもらうようなことではないのですが、「ほかの人は入れない場所に、自分たちは特別に入れてもらえる」という体験は、有料のガイドツアーならではの嬉しさにつながります。
最後は、二の丸庭園へ。日本庭園と西洋庭園の違いについて説明があり、将軍はここから庭を楽しんだのでしょうと語られ、ツアーは終了です。本丸御殿に行きたい方は、その後自由に楽しんでもらうという流れです。
わかりやすく伝えて、旅の記憶に残す ガイドのしかけ
ツアーを通じて印象的だったのは、1時間という限られた時間の中で、日本の歴史をわかりやすく、丁寧に伝えているNaokoさんの姿です。参加者から鋭い質問が飛ぶ場面もありましたが、「毎回ドキドキします」と笑いながらも、しっかりと要点を押さえ、落ち着いて対応されている様子が印象的でした。
Naokoさんに、ガイドをするうえでの工夫について伺いました。まず挙げたのは、「将軍の名前をいってもわからないので、あえて初代、三代などの言い方にしている」という点。また、英語でのガイドを行うにあたっては、「英語を母国語にしない方に対して、どのぐらい伝わっているのかを気にしながらガイドをしている。なるべく単純、簡単、誰でもわかる英語で伝えることを意識している」とのことでした。私も英語が母国語ではないですし、得意ではないのですが、それでもすっと耳に入ってくる案内でした。
さらに、二条城にせっかく訪れたのだから、二条城でしか見られないものをみてもらい、この先の観光でも思い出してもらえるような案内を心掛けているとのこと。例えば、遠侍の間でみた虎や、葵の御紋、菊の御紋などを紹介しながら、「ほかの神社仏閣でも探してみてね」と声をかけていました。
正しく伝えられる人を育てる、京都市のガイド制度が支える現場
Naokoさんは、現在このツアーで活躍するガイドの一人ですが、実は「京都市認定通訳ガイド制度(京都市ビジターズホスト)」の認定ガイドでもあります。
この制度は、京都市が国の構造改革特別区域制度を活用して設けたもので、2016年1月から第1期研修を開始しました。そもそも制度を設けた背景には、ガイド不足や、「京都のことを正しく伝えられるガイドを育てたい」という想いがありました。
2017年2月には、認定ガイドの方々の活躍の場を広げるため、京都市観光協会が主催する「二条城公式ガイドツアー」と、「京都迎賓館公式ガイドツアー」の2本をスタート。現在、公式ツアーとして残っているのは「二条城公式ガイドツアー」のみです。ツアーの予約は、GetYourGuide経由で、前日など直前の予約が最も多いそうです。
▲案内言語は英語のみのため、欧米豪の参加者が多いそう
また、二条城公式ガイドツアー(英語)は、1名2,500円で実施しており、観光協会が運営会社に委託し、ガイドの手配や管理を行っています。ツアー代金はガイドなどの人材育成、ガイドツアーのユニフォームや備品の購入などに活用されています。
現在、伏見稲荷大社でもテストツアーが実施されています。こちらは、日本の歴史や文化を伝える二条城ツアーとはやや異なり、正しい参拝方法、観光客へのモラル啓発を目的に開始されたツアーだそうです。
ガイドの第一歩から活躍まで 京都市が築く持続可能な人材育成モデル
現在、二条城公式ガイドツアーはガイドの登竜門のような位置づけとなっており、このツアーでガイド経験を積んだ初心者の方々が、やがてフリーランスガイドとして活躍しています。
登竜門とはいえ、修学旅行生を含め、日々多くの人が訪れる観光地でのガイドは、決して簡単ではありません。特に、二の丸御殿の内部は通路が狭く、お客様からの質問にじっくり答えていると、時間がオーバーするだけではなく、一般の観覧客の通行を妨げてしまうこともあります。ここで案内のスキルを磨けば、ほかの観光地でも十分に対応できる力が身につくのだろうなと感じました。
経験を積んだガイドはフリーランスとして羽ばたいていきますが、個人で仕事を見つけることは容易ではありません。京都市では、認定ガイドと事業者とのマッチング機会を設けたり、京都市認定通訳ガイド「京都市ビジターズホスト」検索サイト「クレマチス」というマッチングサイトを運営したりサポート体制を整えています。
これまでに1期あたり約50名、2025年9月の7期までで合計約350名が認定ガイドとして認定されており、うち約150〜200名が現在活躍中だといいます。登竜門からガイドマッチングへ、自然にうまく流れ出ているそうです。
認定ガイドになってからも、5年ごとに更新があります。その際には語学試験に加えて、京都検定2級の取得、5回以上のスキルアップ研修の受講が必要となるなど、更新やサポート体制も充実しているように感じました。また、ガイド実態調査も年1回実施されているため、旅行会社などの手配事業者側からみても、安心して依頼ができる体制が整っているといえます。
▲実践の場となる二条城。ここから多くのガイドが羽ばたいていく
現在、さまざまな地域で地域通訳案内士の取り組みは進んでいますが、初心者ガイドが増える一方で、彼らの活躍の場を設けるということが難しくなっている地域が多いのではないでしょうか。そうした中、DMOが中心となり、ガイド育成を進め、ガイド登竜門ツアーを実施、さらにはツアーを拡充することで、ガイドたちの活躍の場が広がり、人材育成の財源も確保できるというのは、意義のある取り組みです。
一方で、単にガイド育成のみならず、ツアーの実施、その後のフォロー研修まで含めて整える必要があり、簡単に真似ができるようなものではないとも話していました。1~2年以上かけてしっかりと準備をし、ガイド育成に腰を据えて取り組む必要性を感じました。
二条城公式ガイドツアー(英語)の詳細はこちら
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