インバウンドコラム

新型コロナ:世界の旅行業界が「家に居ましょう」と呼びかける

2020.03.29

清水 陽子

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正直に言いますと、私はこのウイルスを見くびっていました。「感染力は強そうだけれど、なんだかんだ言っても風邪の一種でしょ?」と捉えていました。前々回のコラムを書いた時にはまだ無邪気に今年の夏に東京オリ・パラが開催されると思っていました。

空港へも行っていますし、その後、草津に視察を兼ねてスキーにも行きました。訪れた先はどこも人口密度が非常に低くなっている場所ばかりでしたが、移動していたことに間違いありません。

世界と日本の現状を見るに、今は何を犠牲にしても家に居る時だと、強く感じています。前回のコラムで、次は北海道へ行きたいと書きましたが、「次」はまだ先のようです。

UNWTO国連世界観光機関は「By staying home today, we can travel tomorrow(今日家に留まることで、明日旅行に行ける)」という声明を出しました。スイス政府観光局も「Dream now travel later (今は夢見よう。旅は後にしよう)」という動画を発表しています。どちらも短くわかりやすい言葉でのメッセージです。
「このウイルスを封じ込めることができたなら、また旅に出られます。そのためにも、今は家に留まりましょう」と、旅行業界が声を上げています。旅行誌は、旅行好きの旅行熱を消さずに、その時をじっと待てる様、家で楽しめる情報を豊富に提供しています。

BBCトラベルは「旅行ができない間も、世界について知りたい読者に情報を提供し、インスパイヤし続ける」と注釈し、各地の興味深い文化などについての記事を掲載しています。その誌面で紹介されたのが日本の甘酒です。古墳時代に発展したこの飲み物が昨今人気を集め、2017年の販売が前年比で134.8%の伸びを見せていることなどが書かれています。
発酵食品が今、日本で注目されていることも紹介され、寿司だけではない日本の多様な食文化への興味を満たしてくれる内容です。

8 Transportive Novels That Will Take You Around the Worldというコンデネスト・トラベラーの記事では、日本へ誘う本として、ニューヨーク・タイムズで2005年の「ベストブック10冊」に選ばれ、2006年には世界幻想文学大賞に選出されている、村上春樹の「海辺のカフカ」が挙げられています。

外国人が読んでいる日本の情報や本を読むことで、彼らが何を求めて日本へ足を運ぶのかを感じとる感覚が養われます。1953年、24歳だったニコラ ブーヴィエというスイス人が、ジュネーブから陸路で東を目指しました。彼は1955年、日本にたどり着き1年ほど滞在したのち帰国するのですが、その旅の記録をいくつか本にしています。主に旧ユーゴスラビアからアフガニスタンまでを記した「世界の使い方」という旅行記は、「旅人のバイブル」として、スイスではもちろんヨーロッパ全土で有名です。

今、日本を訪れるスイスからのシニア世代のお客様の中には少なからず、「ニコラの本を読んで、いつの日か日本に行ってみたいと思っていた」という方々がいらっしゃいます。私も読んでみたいと常々思いながら、実務に追われて読めていなかった彼の本を2冊、昨日注文しました。

 

旅行業界が「旅をしないで」と発信しなければいけない日がやってくるとは、誰が想像したでしょう。苦しい時です。他の道を選ばざるを得ない方もいらっしゃるでしょう。持ちこたえられるなら、情報や知識を掘り下げつつ、顔を上げて、周囲を見わたすことも忘れずにいたいところです。思いがけない異業種と助け合える可能性や、気づいていなかった自分の強みが見えてくるかもしれません。

そして最後に、イギリスの医療関係者が「Stay at Home(家から出ないで)」と呼びかけている動画を紹介します。今、健康な人々の役割は「家から出ないこと」です。
命を救うため「家から出ないで」 イギリスの医師ら、動画で呼びかけ

 

 

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