インバウンドコラム
7月にBBC トラベルに「なぜ日本人はこんなにもレジリエントなのか」という記事が掲載されました。レジリエント(resilient)とは、「レジリエンス(resilience)を備えた状態のことで、レジリエンスとは日本語では、「はね返り」や「弾力性」と訳されます。外部から力を受けた時に、そこから元の状態へ戻る力のことで、近年、ダメージを受けた際に回復力があるかどうかという意味で、人や会社組織などがレジリエンスを備えているかどうかが注目されています。
日本人がレジリエントだと言うこの記事で、まず登場するはダルマです。日本で最も一般的な幸運のお守りで、両目が入っていないダルマに願い事をしながら左目を入れ、願いが叶ったらもう片方に目を入れると紹介されています。そして、ダルマはただの幸運のお守りではなく、もっと深い意味を持っていると続きます。ダルマには底に重りがついていて、横に揺らすことはできても転倒することはないようにできており、何度も限界まで打ちのめされそうになった日本人にとって、忍耐の象徴になっているとしています。
「日本は過去100年間、様々な逆境から立ち直ってきた。1923年の関東大震災、1945年の広島と長崎への原爆投下、1995年の阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、地震と津波と原発事故と3重の打撃を受けた2011年の東日本大震災、2019年10月の台風19号による被害、それらの逆境が日本人をレジリエントにしたという議論がある」とし、「転んでも必ず起き上がるダルマのよう」と、日本で育ち、ニューヨークのジャパン・ソサエティーの理事長兼CEOであるジョシュア・W・ウォーカー博士の言葉が紹介されています。彼は「日本はレジリエンシーの模範です」とも述べています。
また「しょうがない」「がんばって」「我慢」など、日常的な日本語にはレジリエンスでストイックな言葉が溢れていると言います。2011年の東日本大震災後には、日本について様々な報道がなされ、その中には「GAMAN(我慢)は災害をただ受け身に耐える事となり、もっとすべきことがある人々が何もしない事への免罪符となっている」という批判もありました。それに対して「『しょうがない』という言葉は、宿命をただじっと受け入れるのではなく、自分の力が及ばない出来事に立ち向かい克服するという静かな決意だ」とするメディアもありました。
ウォーカー博士は、関東大震災後の東京も原爆投下後の広島も「克服以上のことを成し遂げてきた」と言います。そして、「今こそ、世界が日本の姿勢から学べる時だ。日本には、人生に降りかかってくる不幸な出来事も大成功も、命の輪の中で個人よりも大きいという哲学的理解がある。これは、現在の世界に有益な考え方だ」としています。
ウォーカー博士の指摘する日本人の哲学的理解は、私も好きな所です。穫ってきた魚をそのまま切って、生で食べてしまうとか、樹木を四角く剪定したり配置を左右対象にしたりしない日本庭園のしつらえ方とか、そこにあるものを人間都合でむやみにこねくり回さない姿勢は愛すべき文化ではないでしょうか。
記事には、2021年にオリンピックが開催されるなら、9年前の震災からの復興を象徴したはずの聖火リレーは、コロナウイルスからの復興の象徴へと変わるだろうとも書かれています。「しょうがない精神」が、ピンチに冷静に物事を考えられるという強みとして表れ、レジリエントな国として国際社会において名誉ある地位を占めることができるのか、国民の「我慢強さ」が、責任ある人々の無策の言い訳となってしまうのか。「復興五輪」の行方とともに、今後の日本人のレジリエンスの活かし方が気になります。
清水陽子 |
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