インバウンドコラム
アメリカとヨーロッパで列車の旅が、見直され始めている
アメリカのビジネストラベル誌「グローバルトラベラー(Global Traveler)」が 8月12日に、イギリスの「テレグラフ(Global Traveler)」が13日にそれぞれ、列車の旅に関する記事を掲載しました。
グローバルトラベラーは、「All Aboard Summer Train Travel (夏の列車旅のすべて)」という題で、アメリカ大陸を横断する鉄道「アムトラック(Amtrak)」の寝台車にある、「ルーメット」という個室を紹介しています。プライバシーとパーソナルスペースが保てることが、特徴として最初に挙げられており、夜はベッドになる座席と、見晴らし窓がある個室には、洗い立てのリネンにタオル、専用のシャワーとトイレもついていると紹介しています。
テレグラフは「A golden age of rail travel to Europe is ready to depart (ヨーロッパ列車旅の黄金期は出発準備が整った)」という記事で、「飛行機移動の新たな安全性と、感染しやすいウイルスの時代に3時間も密閉された客室閉じ込められることへの不安が、引き続き削減していかなければならない二酸化炭素への意識と相まって、大陸移動の手段としての列車の新たな人気に火をつけるのでは?」としています。イギリス運輸省広報の「我々は、もっと柔軟で環境に優しい輸送のために、寝台列車サービスを含めた国際鉄道輸送への発展支援に尽力している」とのコメントも掲載されています。
「速い」「安い」LCCに負け続けた列車が、コロナにより再び注目
アメリカといえば、直近の2018年のデータでも世界最大の航空旅客輸送量を誇っている航空大国で、広大な大陸の移動手段と言えば飛行機が主流です。ヨーロッパでも列車は飛行機に押され気味で、前出のテレグラフの記事ではIATA(国際航空運送協会の調査報告)を引用しつつ、「2018年には約1500万もの航空輸送が、ロンドンから列車で5時間以内の目的地との間にあった」とし、格安航空会社の台頭で閉ざされてしまった、イギリスとヨーロッパ大陸を結ぶ「英仏海峡トンネル」の可能性が再び注目されていることを報じています。
奇しくも1日違いで、米国と英国のメディアが報道した、列車の旅への記事を目にし、5月にコラムで紹介した「Will the sustainable travel movement survive coronavirus? (持続可能な旅を求める運動はコロナウイルス後も生き残るか)」という「ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)」 の記事を思い出しました。この中で、「1人がパリからバルセロナまで飛行機で行くと約238kgの二酸化炭素を排出するのに対し、同等の移動を列車でした場合の排出量は11kgである」という文言の下に掲載されているのは、東京駅を出発する新幹線の車内の女性の写真です。
海外メディアに登場する日本の列車たち
長距離列車移動の象徴になりうるほど日本の新幹線はすでに有名ですが、「TRAIN SUITE 四季島」や「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」などが、頻繁に海外メディアに登場し、日本の寝台列車のレベルの高さも認知されつつあります。もう少し気軽に乗れる観光列車も日本全国たくさんあるので、海外にも発信していきたいですね。
8月8日には、日本の豪華寝台列車の先駆け「ななつ星in九州」を生んだJR九州が、「平成28年熊本地震」等の影響により肥後大津~阿蘇間で不通となっていた豊肥本線が全線開通したことを記念して、キャンペーン動画を公開しました。地震で壊れた線路が再び繋がり、列車が力強く走るこの動画は、いまコロナの影響で逆境に立つ全ての人へのエールのようです。息子のオンライン幼稚園を見て思うのは、ネットでは繋がりきれないということ。リモートでは絶対に学べないことがあるということです。どんな形であれ、自由に旅ができる日がまた来ることを願います。
清水陽子 神奈川県出身。大学卒業後、日本航空で客室乗務員として6年間乗務する。地図を片手に知らない街をそぞろ歩くことが楽しくて旅の虜になる。37の国と地域を訪れ、カナダ、スイス、台湾で暮らした経験をもとに、2016年から興味に応じた訪日旅行をスイス人に企画提供している。英語とドイツ語を話す一児の母。やまとごころでは2010年からインバウンドニュース配信を担当しつつ、2017年に始めた当コラムを現在は隔週で執筆中。 |
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