インバウンドコラム

【海外メディアななめ読み】世界が女性蔑視発言を許さない訳

2021.02.25

清水 陽子

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最近、海外メディアを賑わせた日本のニュースといえば、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長辞任を表明した森喜朗氏の女性蔑視発言を避けては通れません。なぜ「こんなこと」が海外でも大問題になるのか、インバウンド担当者としては知っておきたいところです。

日本のジェンダーギャップの現状が世界に発信される

海外メディアでどう報道されたかは、ここで紹介するまでもなく数多く報道されていますが、例えば、イギリスのインデペンデント紙(The Independent)の、「東京オリンピックにはコロナ以外にも問題がある:それは森会長だ」という記事では、森氏が「女性は話が長く、それは強い競争心からきている」と発言したこと、世界経済フォーラムが男女格差を分析して公表している「ジェンダーギャップ指数」で、日本は153カ国中121位であることなどが、世界に発信されました。

日本を知る外国人ほど日本の女性の立ち位置を知っている

私自身、訪日旅行手配のお手伝いをするなかで、何度も来日している親日のスイス人女性から突然「日本は好きだけど、女性の権利が尊重されていないから絶対に住みたくはない」と言われたり、ブラジルで大学教授をしている日系ブラジル人の女性から「日本で育たなくてよかった。日本では普通の女性には結局主婦という道しかないから」と言われたことがあります。このように、外国人の辛辣な視線を通じて、日本の男女格差について、時々ハッとさせられることがあります。

文化の違いの問題でもなければスキャンダルでもない

ジェンダー問題を語るとき、どうしても欧米の例を引くことが多くなりますが、それは、欧米の国々が先を行っている為であって、男女平等は欧米の特有な文化なわけではなく、国際社会が目指している理想です。だからと言って欧米の文化を真似よという話ではありません。欧米では、女性蔑視などの分野で不適切な行動をとったならば、どんな言い訳を後からしても一切通用しません。異性関係やお金に関わるスキャンダルとは全く次元の違う次元で問題視されるのです。

アメリカのガラスの天井

そもそも、欧米には文化的に女性差別がなかったのでしょうか。もちろんそうではなく、それと戦ってきた人々の努力によって、やっとのことで今の位置まで到達したのです。アメリカには有名な「ガラスの天井(Glass Ceiling)」という言葉があります。女性が企業の中でキャリアアップして行く過程で、一定以上の職位には昇進できない様を「見えない天井に阻まれているようだ」として、1978年にアメリカの企業コンサルタントだった女性が使った言葉です。それから40年以上経った2021年にようやく、アメリカで女性初の副大統領が誕生しました。

スイスの参政権を求める女性の戦い

スイスでは、女性の参政権が連邦レベルで初めて認められたのは1971年のことで、東部のアッペンツェル・インナーローデン準州に至ってはなんと1990年まで女性に投票権がありませんでした。2017年に公開された『Die göttliche Ordnung(神の秩序)』というスイス映画は、スイスの村に住む主婦が、「夫の許可がなければ働いてはいけない」という法律に疑問を感じ、女性の投票権を求めて戦う様子を描いた作品です。入念な下調べの元、実際にあったいくつかの出来事と当時の窮屈な空気が再現されています。映画タイトルの『神の秩序』は「女性の政治参加は神が定めた秩序に反する」と言う言葉からきており、実際に使われた表現なのだとか。コメディとのことですが、この映画全体に漂う女性を軽視する雰囲気や役割分担意識は、現代日本にまだ根強く残っている種類のもので、映画を観ていて笑うことができませんでした。

世界が目指す理想形を無視して観光立国にはなり得ない

前出の映画の舞台はスイスですが、そのテーマは人権のための戦いを巡る、世界のどこの国でも共通のもの。世界が女性蔑視的発言を決して許さないのは、理不尽な不平等がまかり通っていた時代から決別したことをはっきりと示す為でもあります。このことは、女性差別の問題だけではなく、LGBT、人種や民族などに基づく差別に対しても同様です。わきまえる事を強要されてきた人々が、世界中で自由と権利を獲得すべく現在もなお奮闘しており、その勇気への敬意を示すことなのです。

日本は差別をなくす努力をせず、笑って容認する国だとの刻印を押されれば、国として魅力を感じてもらえなくなることは間違いありません。観光立国を目指すならば、世界が過去の反省に基づいて、今目指している基本理念の理想形を見失わないことは必須です。

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