インバウンドコラム
スイスの一流ホテルビジネス学校エコール・オテリエール・ド・ローザンヌ(EHL)が、世界的な課題である食品廃棄物の削減を目指すにあたって、ホテル、レストラン、ホスピタリティスクールが、次世代の為に具体的に何をすべきかをまとめた「 食品の真のコストと持続可能なガストロノミーを支える柱」という記事を掲載しました。
記事では、食品ロスの問題に対処するには、食に対する捉え方を変えることと、企業や教育機関における食品廃棄物の管理方法を迅速に変えることの両方が必要だと言います。
社会の変化に伴い「昔ながらの食事」が贅沢なものに
記事によると、現在の食糧システムは、地球温暖化の主な原因の1つとなっており、世界の温室効果ガス排出量の27.6%を占めているそうです。しかも、高度な加工食品は、肥満や糖尿病などの原因にもなっていると指摘します。しかし、現代のスイスの消費者にとって、新鮮な地元産の野菜と健康的なタンパク源から夕食を作ることは、工場で作られたハンバーガーを食べるよりも高くつくとしています。
日本でもスーパーに行くと、海外の工場で生産された冷凍食品などが非常に安価で販売されているのに対し、地元の農家で丁寧に育てられた野菜は高価ですが、それを当然のこととして受け入れています。昔ながらの和食の夕食を用意するより、本来外国料理であるピザやパスタを食卓に並べる方が、調理の手間がかからず、安く済むのが現実です。食べ物の選択肢と価格が多様な現代で、食品廃棄物の削減は、人々の食に対する価値観の変化と、企業などの大きな組織による実践の、両方が進まなければ実現しないとしています。
「安いもの」の選択が社会のコスト増に繋がる
人々の価値観を変えるヒントとなるのが、食品の真の価格を意識することです。安易に安価な食品を選ぶことは、健康被害や環境破壊を招き、結果的には高コストであることを記事は指摘します。低価格だけで消費者にアピールしようとする食品を選択することは、生活習慣病による医療費や、失われた地球環境を回復する為の費用を、のちに負担する可能性があるということです。安く見える食品には、本来負担すべきコストが隠れていて、真のコストはもっと高いのだと考えると、買い物行動が変わりそうです。また、安く大量に購入できる食品は、消費しきれなかった際に、廃棄することへの罪悪感も薄いように思います。購入時に多少の割高感があっても、農薬に頼らず育った輸送距離の短い地元産の野菜を必要な分だけ購入し、新鮮なうちに調理して食べることが、長い目で見れば低コストで、食品ロス解消にも繋がるということです。
食品ロスを減らすためのアイデアと事例
人々の意識が変わっても、選択肢がなければ、行動に移すことができません。企業は、健康的で環境負荷の少ない商品を提供することが必要です。
記事では、ホスピタリティやガストロノミー業界では多くの企業が、SDGsに繋がる持続可能なビジネスモデルを導入しているとし、事業者がどのように食品ロスに取り組んでいるのか、具体例を含めて紹介されています。多方面からアプローチすべきテーマなので、食品バリューチェーンの異なるステークホルダーごとにアイデアと事例が挙がっています。
生産者: チームを教育すること。生産者に対して、様々な選択肢があることを示す。農薬大手企業への依存を減らし、責任意識のある農家や協同組合と協力することで、食品廃棄物の発生源の削減を促進し、廃棄物を動物の餌に変えることができる。
サプライヤー: サステナブルな取り組みに参加する準備ができているサプライヤーと提携することが重要。例えば、Amforaは、単一生産者によるハチミツ、オリーブ、ハーブ、スパイスなどを、ガラス瓶などの再利用可能な容器で販売している。
小売業者: 食品ロス削減を意識して、廃棄基準を設定する。廃棄される前の形の良くない野菜や規格外品を扱う。
従業員: 仕入在庫管理、保管生産計画、メニュー企画やサービスに関する研修を行う。
技術の分野: 食品ロス情報をレストランに提供するデータの提供。例えは、スイスのスタートアップKITROは、ホテルやレストラン用に開発された完全自動化の食品ロス測定システムを販売している。このシステムによって、仕入れ量の調整やコストの削減も可能になる。
ホスピタリティ産業が、次の世代に繋げるために必要なこと
この記事は、環境問題を扱うサイトではなく、ホテル学校が運営する情報サイトに掲載されたものです。ホテルやホスピタリティ産業が次の世代まで持続していくためには、環境負荷の少ないサービスを模索していくことが不可欠だということの表れだと言えるでしょう。
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