インバウンドコラム
アメリカの旅行誌グローバル・トラベラーに「ギフトショップを新たなステージに引き上げたホテルたち」という記事を見つけました。
「ホテルや観光地のギフトショップでは、どこでも似たようなものが販売されており、独特でも特別でもないもので溢れています」と始まるこの記事には、ギフトショップの定義そのものを見直し、地域のコミュニティとその土地ならではの特徴を活かして、お店を次のレベルへと引き上げようとしている世界のホテルが紹介されています。
オーダーメードや唯一無二の商品で、ここでしか買えない価値を提供
従業員の制服と同じ伝統織物が購入できる(スコットランド)
英国のトップ50ブティックホテルのリストTop 50 Boutique Hotelsで3位に選ばれている、スコットランドのホテルThe Fife Armsは、スコットランドハイランド地方で、創造的な地域活動の拠点として重要な役割を担っています。
このホテルのギフトショップは、地元の職人やアーティストに焦点を当てた品揃えで、スコットランドのアバディーンシャー地区のバスケット職人による独特な作品や、地元の女性織物職人によるカシミアのブランケットや犬のコートなどが販売されています。彼女が手掛けたスコットランド地方伝統の毛織物ツイードや、ハイランド地方の伝統的な織物タータンは、ホテルのインテリアや従業員の制服にも使われているそうです。自身の工房で手織りされる織物には、地元の素材、熟練の職人技、伝統的な技法が盛り込まれています。
また最近では、スコットランドのアバディーンシャー地区を拠点とする職人達に、季節ものの特別コレクションをオーダーメイドで依頼したそうです。このギフトショップは、空き時間に気軽に商品を閲覧したいゲストのため、実店舗だけでなくオンラインショップも備えています。
アメリカで人気、再生木材で作るオーダーメイド家具(ブラジル)
ブラジルの自然と一体化したブティックホテルUXUA Casa Hotel & SpaのオンラインショップUXUA DASは、手織りの洋服やランプや枕に加え、オーダーメイドの家具コレクションが充実しています。アメリカで最も人気があるのは、ブラジルの再生木材で作られた3脚の手作りラウンジチェアだと言います。再生木材の手作りチェアが人気なのは、その土地でしか手に入らない材料で、地元の人の手作業による、唯一無二の作品であるということに対して、価値が見出されているからでしょう。
職人やアーティストの商品など、「本物」を展開
地域の本物と出会えるショップ(アイルランド)
アイルランドの5つ星のキャッスルホテルDromoland CastleにオープンしたCharlotte & Co.は、アイルランドのアーティストを起用していることで話題になっています。アイルランドのニットウェアのデザイナー兼職人による手編みのセーターや、銅や鉄、真鍮を再利用して作られた家庭用品など、本物のアイルランドのアイテムが購入できます。バレン国立公園からインスピレーションを得た香水など、アイルランドの様々な側面と調和した品揃えです。
ギフトショップの売上は地元のアーティスト支援に還元(チリ)
山に囲まれたチリのゲストハウスandBeyond Vira Viraのショップは、手作りの陶器やブランケット、地元のマプチェ族の織物職人による壁掛けなど、地元のアーティストによって作られた商品のみを扱っています。お店の一番人気は羊の形の足置きで、ギフトショップの売上は全て、地元のアーティストを支援するために還元されます。
旅人は、その地に足を運ぶことでしか出会えないものを求めている
旅行者は、そこに足を運ばなければ出会えなかっただろう品を求めています。ブラジルの再生木材で作られた椅子が人気なことからもわかるように、その土地ならではの物語をもったお土産を、家に持ち帰りたいと考えています。スイスからの旅行者も、自分用に買って帰る記念の品には、江戸銀器や箱根細工など圧倒的に手作りの伝統工芸品を選びます。地域に受け継がれている工芸や味を、旅人の目に触れる場所へ引っ張ってくることができるのが、ギフトショップです。
旅人と地域をつなぐ機会の提供が「宿」の役割に
日本でも表に地名が書かれただけで中身は何の変哲もないお菓子パッケージが並んでいるギフトショップはよくあります。温泉旅館のお部屋に到着し、初めて出会うお茶うけが地域のものでない事に気づくこともあります。それは、その土地に縁あって足を運んだ旅行者に地域の魅力を伝え、旅行者と地域と結びつけるきっかけを逃しているとも言えます。
仕入れる側としては、長年のお付き合いを見直すことは簡単ではないかもしれません。過去に公開した特集レポート『ハラール・ヴィーガン対応に着手した名古屋の老舗味噌煮込みうどん店が、コロナ禍でも売上を維持し続ける理由』によれば、老舗であればあるほど「ネギの仕入れ先一つ変えることすらハードルが高い」とのことです。しかし、グローバル・トラベラーの記事を読み、遠方から人が集まる場であるホテルや観光地には、地元の未来ある事業を盛り上げる力があると、改めて感じました。コロナ禍を経て観光が再び動き出し始めたいま、新たな取り組みの一つとしてギフトショップを改革してみるのはいかがでしょうか。
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