インバウンドコラム

パラオとベネチアによる、旅行者を巻き込む「責任ある旅」から学べること

2022.07.26

清水 陽子

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サステナブルツーリズムという考え方はコロナ禍で急速に普及しました。しかしそれ以前から、オーバーツーリズムや気候変動の影響を受けていた地域では、責任ある観光という考え方が広がっていました。責任ある観光とは、レスポンシブルツーリズムとも呼ばれ、地域への思いやりと敬意をもって行動することを、旅行者に促すものです。世界では、旅行者を巻き込んでの観光地づくりが進んでいます。

今回は、太平洋に浮かぶミクロネシア諸島の1つパラオによる、ゲーム感覚で責任ある観光を促す取り組みと、以前から大勢の観光客が押し寄せることでのオーバーツーリズムに悩まされていたイタリア・ベネチアの世界初の取り組みを紹介します。

 

旅行者が楽しみながらレスポンシブルツーリズムを実践 パラオの取り組み

パラオでは、観光客が責任ある行動をとることでポイントを貯めることができ、ポイントが貯まれば島の客人として歓迎され特別な体験ができるゲーム感覚のアプリ「Ol’au Palau」が発表されました。Ol’auというパラオの言葉は、親しい人を招くときに使う呼びかけの際に使うのだそうです。

Ol’au Palauのサイトにはこう書かれています。

「世界に人々を、我々の最も貴重な自然と文化に招待します。その対価は、どれだけお金を払ったかではなく、美しくも壊れやすいこの島に、我々の故郷に、どれほど優しく敬意を持って、接してくれたかで決まります」

「Ol’au Palauは、お金よりもっと大切な贈り物を届けるお手伝いをします。心づかいという贈り物です。パラオを楽しむだけでなく、未来の世代も変わらず楽しめるよう、パラオの保全に力を貸すことができるのです」

つまり、サステナブルな行動を取ることで、旅がより豊かなものになるプログラムなのです。

 

具体的に何をすれば、ポイントが貯まるのか?

持続可能な選択をし、敬意を持って島に接した場合にポイントが付与されるパラオのOl’au Palauですが、どのようにポイントを貯めるのでしょうか。2022年5月のBBCトラベルの記事「パラオの世界初の良い旅人特典」よると、例えば、サンゴ礁に優しい日焼け止めを使用したり、地元の食材を使ったサステナブルな食事を取ったり、ミクロネシア最古の博物館であるベラウ国立博物館やパラオの伝統建築バイなど、文化的に重要な場所を訪れたりすることだと言います。

旅人は、そのポイントを利用して、未開の地のハイキング、秘境の洞窟でのスイミング、地元の人々や長老との食事、人里離れた場所での釣りなど、普通はパラオ人とその親しい友人でなければできない経験ができるのです。このプログラムを素晴らしいと思ったのは、責任を持って旅をするということが、具体的にどういうことなのか、分かりやすく提示され、選択しやすくなっている点です。

 

コロナ前から感じていた持続可能な旅への問題意識と危機感

筆者が持続可能な旅を意識したのは、2018年から2019年頃、スイスからの旅行者を多数、日本に迎えていた時期です。その頃、桜の京都や紅葉の広島など、ハイシーズンの人気の旅先は旅を手配するのが非常に困難で、かつ、訪れた先々で人混みに遭遇し、そこに住む人も、訪れる旅人も、楽しくないように感じていました。当時、観光大国スペインでは観光客排除の動きも活発化しており、観光公害という言葉も耳にするようになりました。このままでは、旅行そのものが悪になってしまう、旅が廃れてしまう、旅は「持続しない」という不安を感じていました。

旅を良いものとして持続させたい。そのためには、旅行業界が、持続可能な旅を提供しなければならない。旅行ができない未来が来るという現実的な危機感があった私にとって、サステナブルな旅とは、決してかっこいいものでも、意識が高いから求めるものでもなく、次の世代が変わらず旅するために必要不可欠な旅の形です。

昨今では「サステナブル」「持続可能」という言葉が社会に浸透し、旅行分野でも2021年のブッキング・ドットコムの調査で、日本の旅行者の82%は「旅行において、サステナビリティが非常に重要だ」と考えていることがわかっています。しかし、サステナブルな旅とは具体的にどういうことか、行動にうつせている人は少ないのではないでしょうか。私自身、現実の旅では、まだまだ実践に繋がっていないと感じています。

そんなな中、パラオの取り組みを知り、わかりやすさに感動しました。このような取り組みを知った今、一番旅行したい場所と聞かれると、筆者自身パラオを挙げますが、「息子と行ってみたい」と思いました。これから旅人に育っていく息子と共に、責任ある旅とはどういうことなのか、これからの旅人はどうあるべきなのかを学ぶ、導入レッスンになりそうだからです。

 

行きた街の持続に向けベネチアで始まる「入場税」の徴収

スペインと同じく、観光公害に長い間悩まされていた、イタリア「水の都」ベネチアは、2023年から訪問税を導入することを決めています。

CNNトラベルの記事によると、2022年7月にベネチア観光局のベンチュリーニ氏によってその開始日が2023年1月16日であると発表されました。その日、ベネチアは、世界で初めて「入場料」が必要な都市となります。チケットは3ユーロ(約400円)から10(1400円)ユーロの間で、定額ではなく、訪問者の人数によって決まると言います。訪問者が多い時期ほど、入場料は上がります。「目的は、街を閉じることではなく、観光客のピークを減らすため事前予約をしてもらうことにあります」「ベネチアは生きている街であり、このままあり続けなければならないのです」と、ベンチュリーニ氏は言っています。

日本でも、世界遺産厳島神社のある宮島(広島県廿日市市)を訪れる場合に、100円の宮島訪問税(入島税)を徴収するという条例案が2021年3月に市の議会で可決されました。徴収システムの構築など準備にまだ時間がかかるとのことですが、日本における訪問税の先駆者として好例になればと注目しています。

 

旅先へ敬意を払い、学びを得る、これからの時代の旅の在り方

日常を忘れるため、知らない土地に行って羽目を外すことが旅ではありません。「旅の恥はかき捨て」という言葉は過去のものです。

そこに暮らす人に敬意を持って「お邪魔します」という気持ちで訪れるべきだと、これからの旅人は知っているはずです。そして、これから、旅はもっと特別なものになっていいと思っています。しっかり計画を立て、何を見たいのか、誰に会いたいのか、訪れる土地について最低限の知識を持って、心して旅立つようになるでしょう。

受け入れる側は、パラオやベネチアのように、訪問者にお願い事をするくらい、毅然とした態度で迎えればいいのではないでしょうか。自由に観光旅行に行ける日が来たら、息子と一緒にパラオに行き、未来の旅や異文化交流がどうあるべきか、話し合いたいなと、密かに夢見ています。

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