インバウンドコラム
日本は、2022年6月10日からツアー客を対象に観光客の受け入れを再開しました。しかし、行動制限と手続きの多さから、海外で日本への旅行を心待ちにしている人々が「さあ行こう」と思えるようなものではないのが実情です。事実、外国人観光客受入開始から7月末までの2カ月弱で観光ビザを取得して入国した観光客は8000人余りに留まっています。
そんな中、先日スイスへ飛び、スイスの観光地の様子を見てくると共に、現地の人々の声を聞いてきました。
パンデミック前の日常が戻るが、アジア人観光客不在のスイス観光地
まず、8月14日現在、スイスに入国制限はありません。世界中どの国からでも、新型コロナウィルスの陰性証明やワクチン接種証明なしに入国ができます。また国内でマスク着用の義務はなく、街でマスクをしている人はほとんど見かけません。いわゆる都市部で人が少ないように感じたのは、休暇の時期で、みんながバケーションに出かけているためでした。レストランやお店に入る際にも、証明書等の提示、検温、消毒等も不要で、市民はすっかりパンデミック前の日常を取り戻しているようです。
しかし、観光地ルツェルンを訪れると、以前常に観光バスが停まっていた場所にバスはなく、アジア人観光客の姿はほぼ見られませんでした。ヨーロッパで最も古い木造橋として有名なカペル橋を渡る人の姿もまばらでした。
立ち寄った土産物屋で、インド人観光客らしい家族連れが数組買い物をしている中で絵葉書を物色していると、中華系の店員に話しかけられました。日本人かと聞かれたので、そうだと答えると「コロナ禍以降、初めて見た日本人だ」と、嬉しそうに言われました。湖に面したテラスに多くのテーブルが並び、通常であれば観光客で溢れているレストランも空席が目立ち、メニューには「*印がついているメニューしか今は提供していません」という注意書きがありました。スタッフの人数も少なく抑えて営業されているのが見て取れました。
パンデミック後のホスピタリティ業界の4つのトレンド
スイスは言わずとしれた観光立国です。そのスイスの観光地に観光客がいない姿を目の当たりにし、パンデミックの影響の大きさを改めて感じました。
業界として、この状況にどう向き合っているのか、世界屈指のホスピタリティマネージメントスクール、エコール・オテリエール・ド・ローザンヌ(EHL)のメディアを見てみたところ、『ホスピタリティ業界:全ての質問への答え』と言う記事がありました。
記事によると、コロナ禍後のホスピタリティ業界の未来には、4つの主なトレンドがあるとのことです。
1.進化する需要
行動や嗜好がかつてない程、明確に変化している。国内旅行と海外旅行は、共に変動が大きく、近場のレジャーはパンデミック前の水準に戻っている。屋外でのアクティビティが主な選択肢となっており、既にホスピタリティ産業はこの状況に対応できている。
2.キーワードは健康、安全そして衛生
ソーシャルディスタンスや検疫隔離のルールは世界的に緩和されつつあるが、新しい衛生基準を守り、さらなる感染爆発を防ごうという意識が残っている。80%の旅行者は、ウイルスに感染するのと同じくらい、検疫と隔離を恐れているというデータがある。
3.デジタル化とイノベーション
コロナ禍の対応には、新しい技術の導入が不可欠だった。オンライン決済、非接触システム、フードデリバリーサービスなどは、パンデミックによる真の勝者となった。
4.社会的、環境的、制度的な持続可能性
自然環境の回復、失業問題、野生動物の保護、反人種差別運動など、様々な分野で、持続可能性への関心が高まっている。
つまり、アフターコロナのホスピタリティ業界は、個人の嗜好により寄り添った、安全で衛生的でサステナブルな旅を、デジタル技術を駆使して提供するものになるということのようです。全体的に目新しさはないものの「80%の旅行者は、ウイルスに感染するのと同じくらい、検疫と隔離を恐れている」という点には、いたく共感しました。また「同業界の先行きは不透明だが、回復力と適応力のあることを長年実証してきた業界にとって、この変化はチャンスとなり得る」と締め括っており、この業界を長く牽引してきたからこその自信を感じます。
日本観光にたちはだかるいくつものハードル
今回のスイス滞在では、実際に今すぐにでも日本へ旅行したいという何人かにも会ってきました。彼らからは必ずと言っていいほど「いつ日本は旅行者を受け入れるのか」との質問を受けます。この質問には残念ながら、わからないと答えることしかできません。計画を立てたくても立てられないので、今年や来年は、他のところへ行くという選択をされますし、私達としても今の状況で日本へ来てくださいとは言えません。
現在日本を観光客として訪れるには、受入責任者となる旅行業者等が入国者健康確認システムで必要事項等を事前申請すると同時に、旅行者本人がビザを取得し、入国時には出国前72時間以内のPCR検査の陰性証明を提示する必要があります。しっかりと事前準備をしても、出国前のPCR検査で陽性が出てしまえば、全てが水の泡です。このPCRの陰性証明が、精神的に高いハードルになることを、今回身をもって感じました。感染はどんどん身近になっており、いつ誰が罹患してもおかしくない状況です。ワクチンを接種していても、軽症でも無症状でも、陽性であれば、日本への入国は叶いませんので、帰国前の緊張感は想像以上でした。
日本国内のマスクの着用率を見ても明らかなように、日本では、感染対策を重視する人が多数です。日本を以前のように旅したいというお客様をお迎えするのは、しばらく難しいかなと感じています。健康に気をつけて、訪日意欲を失わず、その日を気長に待って頂きたいと思っています。
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