インバウンドコラム
コロナ危機に直面する観光事業者への支援策や需要回復キャンペーン、そこからの期待を読み解く —2020年4月観光庁長官会見
2020.04.30
観光庁長官の田端浩氏による4月の定例会見が先日行われた。新型コロナウイルス感染症の感染封じ込め対策としての世界的な旅行控えや水際対策強化などの影響で、全ての市場で数値が大幅に減少している。長官の発言から、観光庁として各省庁、関係業界と連携して行う緊急経済対策と訪日客数を回復させる取り組みの概要をまとめるとともに、非常に苦しいなかでも観光庁が観光事業者へ期待することについて考察した。
2020年3月の訪日客数は統計開始以来最大の下げ幅、対前年同月93.0%減の19.4万人に
2020年3月の訪日外国人旅行者数は、単月として1964年の統計開始以降で過去最大の下げ幅を記録し、対前年同月比マイナス93.0%の19.4万人に。20万人を下回ったのは1989年2月以来で、前年同期比で9割減と大きく落ち込んでいる。なお、入国規制の中でも訪日している7%の外国人の属性については、ビザの効力停止等の影響を受けない、長期滞在等の在留資格を保有している外国人であり、水際対策が実施されている国・地域からも、一定程度の入国があるとのこと。また、アウトバウンド(日本人出国者数)も、対前年同月比で85.9%減少し、27.3万人となった。
訪日消費は対前年同月41.6%減、長期滞在者の割合増加により単価は増加
2020年1月-3月期の訪日外国人旅行消費額は、1次速報では6727億円、前年同期比でマイナス41.6%と推計。新型コロナウイルス感染症が世界的に広がり、各国の海外旅行禁止措置、日本政府の入国制限などで訪日旅行者数が急激に下がったことによる。なお、訪日外国人の1人当たり旅行支出は17万5126円で、前年同期比で18.8%の増加となったが、これは短期滞在の観光客の数が減少し、留学生等の長期滞在者の割合が多くなった結果、単価が押し上げられた形だという。
新型コロナウイルス感染症に関する緊急経済対策について
また田淵観光庁長官は、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大から甚大な影響を受けている観光を含めた地域経済への救済策として、以下のような政策を実施していると述べた。
・雇用調整助成金の助成率を最大で9割*まで引き上げ。助成金給付対象を、非正規雇用労働者にも拡大。
・無利子、無担保の融資を地方銀行などの民間金融機関でも実施し、既往債務の借換に伴う負担を軽減。
・個人事業主のための給付金制度を創設し、フリーランスや中小・小規模事業者への現金給付も実施。
・法人税、所得税などの支払い猶予と延滞税の減免、中小企業に対する固定資産税等の減免を実施し、公租公課でも幅広い業種が立て直しを図れる対策の盛り込み。
厳しい時期ではあるが、観光業に従事する方々においては、政府が強力に実行していくこのような支援策や制度を積極的に活用し、雇用維持と事業継続に注力してほしいというメッセージを伝えた。
*厚生労働省は4月25日、「雇用調整助成金」の特例措置をさらに拡大し、休業手当への助成率を10割に引き上げることを発表。
反転攻勢に向けた国内の需要喚起キャンペーン「Go To Travel」
続けて、状況が落ち着き次第、間髪入れず反転攻勢に転じるために実施する国内向けの観光需要喚起策『Go To Travel』キャンペーンについても言及した。
キャンペーンでは、観光による地域での消費を促すべく、宿泊や日帰り旅行商品の割引、地場の土産物店・飲食店・観光施設・アクティビィティ・交通機関などで幅広く使えるセットのクーポン券の発行などを行う。今回のキャンペーンの特徴としては「国民による旅行の機運醸成を作るため、1兆円を超えるかつてない規模での実施」「長期旅行をしてもらえるよう、日数の上限は設けない(1泊あたり1人2万円の上限あり)」などが挙げられる。
キャンペーンがもたらす効果については「全国で人々の交流を生み出し、地域経済再活性化につなげる」という短期的な視点だけでなく「今後の地域の観光振興につなげる」といったキャンペーン効果の持続も意識した取り組みだという。
支援を活用し、地域の観光持続性を見据えた取り組みの強化を
また、長官のメッセージからは、キャンペーンの活用方法や、キャンペーンに向けての準備期間に観光事業者へ期待することについても伺える。
「極めて苦しい時期だが、宿泊施設の改修、従業員の能力向上に取り組む意欲的なホテル・旅館を期待し、積極的に支援したい」
「ホテルや旅館での上質なサービス提供で、顧客に満足していただけることで“次もまた来たい”を思ってもらえるリピーター作りをし、観光需要の喚起につなげてほしい」
「各地の観光資源やイベントを、集客力の高い滞在コンテンツへ磨き上げていただきたい。またその支援も行っていく」
こうした長官のコメントからは、今回の特別支援を有効に活用し、反転攻勢に転じるための地域の取り組みとして、「商品の磨き上げ」「従業員のスキルアップや接客サービスなどのソフトと、施設自体の改修などといったハード両面からのサービス向上」などを図ること。そして「利用客が満足する上質な体験」を提供することで「リピート層を生み出し、持続的な観光の形態を目指す」ことへの重要性や、実現に向けた取り組みへの期待が伺えた。
また「世界的な新型コロナウイルス感染症の終息後には、外国人旅行者の拡大に向けて取り組むこと、またJNTOによるプロモーション等をしっかりと進めていく」とも述べた。
1年延期となった東京オリンピック・パラリンピックについても、感染症をしっかり封じ込めた上で、成功に導きたいと語った。
先を見据え、地域の結束を担う世界水準のDMO育成を
長官はさらに、事態の終息後、反転攻勢に勢いを与えるのは、地域に根付き着地の魅力を十分に理解しているDMOであり、世界的な水準を持つDMO育成を支援する取り組みを行いたいとした。具体的な支援については「既にあるDMOへの支援ツールを通して自分たちのエリアで何をしたいかを精査し、次のステージに向けた投資をする団体を応援していきたい」と答えた。
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