インバウンドコラム
ワクチンの普及などにより重症化リスクが低下したことを受けて、欧米や東南アジアの一部の国では、パンデミック前の日常に戻す動きが加速している。一方で、2月4日より冬季オリンピックが開催されている中国は、依然として徹底した移動履歴の追跡とゼロコロナ政策を続けている。
今回は、厳格な行動規制を続ける中国に住んでいたやまとごころメンバーが現地の状況や、日本への帰国に伴う手続、中国出国から日本入国と日本での隔離の様子をレポートする。
・渡航日:2022年1月2日(日)
・搭乗便:ANA NH 920 上海浦東13:50発 → 東京成田17:40着
・渡航者:大人1名、子ども(中学生)2名、計3名
1.日本帰国に向けた渡航日前日までの準備
日本入国後の滞在場所確保
2021年12月上旬ごろ、帰国後に住む家が決まるまで滞在する宿泊施設の予約を行う。中国は「検疫所が確保する宿泊施設での待機」対象となっていない国のため、成田到着後14日間の自宅等待機の期間も含め、同じ宿泊施設で過ごす予定だ。日本が有効と認めるワクチン接種証明書があれば、待機期間を10日に短縮できたが、筆者が接種した中国シノファーム製ワクチンは認められていない。
一般的なホテルはどこも、帰国後の待機期間を過ごす旨を伝えても、その間は清掃がないだけで、問題なく予約できるようだった。
帰国直前のハプニング、身近な場所で感染者が発覚
渡航約1カ月前11月下旬、上海市で久々の新規国内感染例が報告され、新型コロナウイルス(以下コロナ)感染者の出た我が家の向かいのマンションが中リスクエリアとなる。中リスクエリアとなったマンションの入居者は、健康コードが疑似感染者を表す黄色になり、マンションの敷地からは出られない。随時 PCR検査を受け、全員が陰性だったので14日間で封鎖は解除された。
渡航約2週間前には、上海で自主隔離中の日本人のコロナ陽性が確認された。濃厚接触者に接触した者が居るとのことで、日本人の多く住むマンションや、オフィスのいくつかが48時間封鎖となる。コロナがどんどん身近に迫ってきている気がして、出発日まで何事もないよう祈って過ごす。
帰国直前の準備、陰性証明取得のためPCR検査を受ける
渡航2日前、COVID-19に関する検査を受ける。在上海日本国総領事館のHPに載っている、厚生労働省所定フォーマットで、出国前72時間以内に実施したCOVID-19に関する検査が「陰性」であることの検査証明発行可能な病院を予約して行った。病院によって、費用は420元~640元(日本円で約6720~1万240円)。
渡航前日、COVID-19に関する「陰性」検査証明を病院から受け取る。また、日本入国時に検疫官に提示する、厚生労働省・検疫所指定の、滞在歴や健康状態を記入した「質問票」をWeb入力、最後のQRコードを保存。こちらは、日本への入国前までにいつ入力しても良い。
渡航前夜、中国出国時に検疫官に提示する、健康QRコードを取得。こちらは、個人情報・フライト詳細・過去の滞在履歴・接触履歴等を、中国出国24時間前以降に入力、有効期限がある。
2.上海浦東空港~搭乗まで
空港に入るために、緑の健康コードの証明を提示
前日より、出発時刻変更の可能性有とANAから連絡が来ていたが、渡航日当日朝10:30前に、検疫強化や消毒作業などを理由に出発時刻が13:35→15:05へ、到着時刻が17:25→18:55へ変更との知らせが来る。しかし、手配していた車が既にマンション下に到着していたため、予定通りの時間に浦東空港へ出発する。
空港へ入るには、緑の健康コード(感染リスク地域の訪問履歴がないことを示すコード)と行程コード(過去2週間の行動履歴)の提示が必要。上海では、モールや病院へ入る際など常に提示して来たので、慣れている。
1時間半のフライト遅延にも関わらず、カウンターには既に沢山の人が来ている。列に並ぶと、フェイスシールドをしたスタッフに日本語と中国語で、中国出国時に提示する健康QRコードの取得を促される。20分程並び、陰性証明書とパスポート提示でチェックインするも、家族2人分の預け入れスーツケースを開けるように指示がある。ガラケーと電子辞書を取り出し見せるが、それが原因では無かった模様。検疫強化の一環だろうか。チケットが発行されると、フライト遅延のためか軽食がもらえた。
保安検査場へ入る時点で、昨夜取得した出発24時間以内の健康QRコードの提示が必要となる。税関もQRコードの提示以外は通常通りだった。
航空機内へ、搭乗率は6-7割程度
遅延後のスケジュール通り、14:45に搭乗開始。1人の人は隣を空け、同行者同士は並んで座っており、機内は6,7割程の搭乗率でかなり人が多い印象。厚生労働省は、国際線では陽性者の前後2列以内の列に搭乗していた場合濃厚接触者とみなすため、トイレ前の後ろに人の居ない席を選んだ。機内食と飲み物のサービスも通常通りで、客室乗務員はマスクと手袋のみ、防護服だらけだった1年前の上海行き中国国際航空との差を感じる。
機内で配られる「健康カード(過去14日間に滞在していた地域などを申告)」「誓約書」「検疫法第 12 条の規定に基づく質問」に記入。「健康カード」以外は、事前に印刷して記入も可。「誓約書」とは、14日間の公共交通機関の不使用、自宅等での待機、位置情報の保存・提示、接触確認アプリの導入等についての誓約で、違反した場合、日本人については、氏名や、感染拡大防止に資する情報が公開され得ることがあるとのことだった。
3.成田空港で入国
降機後の通路、パイプ椅子が多数並ぶ
成田へ到着後、昨年中国へ入国したときのように前から数列ずつ飛行機から降ろすのかと思っていたら、最初はビジネス、次はエコノミーの前半と、カテゴリーごとに一気に降りられたので、20分程でスムーズに降機完了。前の人について歩いて行くと、左右にパイプ椅子が現れる。入国者が多い時はこんな遠い位置から待機するのかと思いつつ、更に進んで着席する。
着席している間に、機内で記入した「健康カード」「検疫法第 12条の規定に基づく質問」「誓約書」の3セットとパスポートを日本人スタッフが確認。順に受付へ案内され、書類のチェックが行われる。
続いて唾液採取による抗原検査。噂通り、レモンと梅干の写真や、唾液を出しやすくするための頬や喉のマッサージ方法が貼ってある。同行者は同じついたての中で採取可能。鼻からのPCR検査が苦手な子ども達も、唾液は大得意で早々に完了。パスポート裏に、バーコードの付いたシールが貼られる。
帰国後の移動履歴を確認する各種アプリをダウンロード
次に、アプリ等のダウンロード確認。帰国・入国者がインストールするアプリは「MySOS」と「COCOA」、そして端末位置情報を設定する。我が家は3人で、iPhone、Xiaomi、Huawei、Lenovoのスマートフォン各1台にソニーのタブレット1台。中国語ネイティブと思われる若者が席に案内してくれ、アプリがダウンロードされているかの確認をする。13歳以上は1人1台必要とのことで、iPhoneとソニーのタブレットにダウンロード。中国製のスマートフォンはGoogle Playを入れてくれるもアプリがダウンロードできず、結局1万5000円でスマートフォンを1台レンタル。誓約書に記入したメールアドレスで受信ができるかテストし、「MySOS」等の説明を受け終了。ここで30分は時間を費やした。
隣でスマートフォンをレンタルしている日本人男性が、「早くしてくれよ!」と怒鳴っているのを聞き、日本に帰ってきたことを実感する。スマートフォンのレンタル以外の対応は、お揃いのビブスを付けた外国籍の方々で、各所での道案内もしており、日本語もとても上手かった。
最後のブースで、Web入力した「質問票」のQRコードのスキャン、パスポートチェック、誓約書の提出と、記入した滞在先や空港からの移動手段の口頭での確認が終わると、指定された席で抗原検査の結果を待つ。記入した紙は、「健康カード」のみ済のハンコ付きで手元に残る。パスポートの裏表紙に貼られた番号下4桁で、検査結果が出た順に呼ばれる。アプリインストールの場所で時間がかかったせいか、5分程で番号が呼ばれ、陰性ハンコ付きのピンクの紙を受け取る。
ここからやっと入国審査、手荷物受取りとなるが、それでも飛行機到着から1時間半程で空港を出ることができた。前の週のクリスマスの週末が入国者最多だったようだが、今日はスタッフの方も十分足りていて、他の便と重なっている様子も無く、全てのブースでほとんど並ばずにすんだ。
4.宿泊施設での2週間の待機生活
空港からハイヤーで宿泊施設へ、2週間の隔離生活スタート
成田空港から予約していたハイヤーで宿泊施設へ向かう。東京23区までハイヤー代は3万3600円だった。
宿泊施設へ到着後、チェックインは通常通りで、他の客とも顔を合わせる。以下のように待機場所登録がされると、翌日から「MySOS」で1日1回健康状態報告、1日2回程の現在地報告とAIからのビデオ通話対応がある。
入国後3日目に、成田空港で配布された鼻から採取するタイプの抗原検査キットを使用して、自主検査をする。陰性なら結果報告の必要はない。
入国後4日目に、成田の到着出口で無料配布していた、東京都民向けのPCR検査を行う。こちらは唾液採取方式で、Webで情報登録した後、同梱されているゆうパック伝票を使用して集荷依頼。土日を挟んだのに、丸2日経たずに東京PCR衛生検査所からメールで、「陰性」の結果報告が届く。
水際対策の変更により、突如待機期間が終了
後2日で待機期間が終わるという1月15日の朝に、水際対策の変更により、突然待機期間が終了した。同日から、全ての国・地域からの日本への帰国者・入国者について、待機、待機期間中の健康フォローアップ、公共交通機関不使用の期間が、14日間から10日間に変更されたためだ。
待機期間中、タブレットの不調で、AIからのビデオ通話に対応できない時も数回あった。シャワーを浴びていたりして出られなかった場合は、折り返せないので、次のコールを待ってくださいと空港で説明されていた。オペレーターからの電話は一度も無く、COCOAでの接触通知も無かった。
成田空港でレンタルしたスマートフォンは翌日に着払いで返却した。
5.日本への帰国と隔離を終えての感想
最大の懸念は、厳しい規制を敷く中国からの出国
上海から日本への帰国の中で一番気がかりだったのは、無事に上海を発つことができるかどうかだった。上海では、1人でも感染者が出ると、その地区は中リスクエリアに指定される。中国は規模が大きいので、一地区と言っても数千人単位の人が封鎖措置を受けることになる。もしその場所に数時間でも滞在した場合、健康コードは2週間黄色に変化してしまうので、当然予定の飛行機には乗れなくなる。感染者の行動履歴からさかのぼり、濃厚接触者だけでなく、濃厚接触者の接触者まで特定されるため、いつどこで封鎖が起きるか分からない。
上海、成田共に空港スタッフの方々は、コロナ対応にもすっかり慣れた様子だった。ただ、我が家は中国メーカーのスマートフォンを愛用しているために、指定アプリのインストールができず、端末をレンタルすることとなったが、そうした際に日本のやり方に慣れている人以外はあまり歓迎されていないという印象を受けた。コロナ禍なのでそれも致し方ないと思うが、今後外国人の入国が再開された時、不都合に感じる人もいるかも知れない。
▲成田空港には「歓迎」の文字が
帰国後は秋葉原の宿泊施設に滞在した。その間訪れた電量販店・コンビニ・宿泊施設等では、スタッフの多くは、日本語が母語ではないと思われた。成田空港でもそうだったが、インバウンドが減っている現在、言語を武器にせず、日本語のみを使って当然のように働いている沢山の外国籍の方々を目にして、コロナ禍における彼らの苦労に感じ入ると同時に、大いなる刺激を受けることにもなった。
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