インバウンドコラム
訪日外国人とのコミュニケーション課題を解決、ホテル現場が語るWhatsApp Business Platform活用術
2025.09.19
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訪日外国人旅行者の増加が続くなか、観光業界の現場では「言葉の壁」や「連絡手段の不足」によるトラブルや対応の遅れが慢性化しつつある。特にチェックインの遅延や緊急時の連絡対応など、従来の電話やメールでは十分にカバーできない場面が増えているのが実情だ。
こうした課題に対して、東京都内の5つ星ホテル・青山グランドホテルでは、世界中で利用されているメッセージアプリ「WhatsApp」の法人向けサービス「WhatsApp Business Platform」を導入。宿泊客とホテルがリアルタイムでやり取りできる専用のツールを整備し、外国人ゲストの安心感と顧客満足度の向上に結びつけている。
本記事では、青山グランドホテルの実例をもとに、なぜWhatsApp Business Platformを導入する必要があったのか、現場での活用方法、実際の効果などを担当者の声と共に紹介する。

緊急時に連絡が取れない、訪日客受け入れ施設の共通課題
「外国人ゲストと連絡を取りたいのに、肝心な時に“つながらない”」
こうした悩みは、宿泊施設をはじめとする訪日客を受け入れる現場に共通している。5つ星ホテル・青山グランドホテルも例外ではなかった。
2020年に開業した同ホテルは、宿泊客の7〜8割を訪日外国人が占め、米国、欧州、アジアなど世界各国から多様なゲストが訪れる。人気施設である一方で、現場ではチェックイン遅延や緊急時の対応で、しばしば課題が浮き彫りになっていた。たとえば、予約時間を過ぎても到着しないゲストへ連絡を取ろうとしても、海外の携帯電話にはつながりにくい。メールを送っても、返事が来るまでに時間がかり、その間、スタッフは判断を保留せざるを得なかった。さらに、問い合わせはOTAや旅行会社経由のものなど混在し、優先順位の判断に時間を取られることも多かった。
青山グランドホテルの担当者はこう振り返る。「慣れない土地での滞在では、ホテルは最も頼れる存在であるべき。特に特別な体験を求めて訪れるゲストの方たちが、滞在中いつでもどこでも安心して連絡できる環境を整えたいと考えたのが、『WhatsApp Business Platform』導入のきっかけでした」
ゲストとリアルにつながるために「WhatsApp」を選んだ背景
それではなぜ、日本で圧倒的なシェアを誇るLINEをはじめ世界で数多くあるコミュニケーションツール(チャット・メッセージングアプリ)の中で、「WhatsApp」を選んだのか。
「WhatsApp」は日本ではあまり知られていないが、世界180カ国以上、約29億5000万人が利用する世界基準のアプリ。IDは国際的に共通で、電話番号さえあれば世界中どのスマホでも簡単に繋がるのが特徴だ。すなわち、訪日客とコミュニケーションをとりたい、緊急時に通知をしたい際には打ってつけのツールである。法人向けの「WhatsApp Business Platform」は、WhatsApp企業アカウントを保有し、APIでシステムに組み込むことで他社のフォームツールを利用することなく高度な形式で多数のWhatsAppユーザーとチャットコミュニケーションが可能なサービスだ。

▲訪日外国人に人気の青山グランドホテル
とはいえ、日本国内での業務利用の事例はまだ限られており、導入にあたっては技術面や運用面に不安があったという。そうした中でサポートのパートナーとして相談したのが、Meta社の公式パートナーであるCM.comだった。
CM.comは、世界的にWhatsApp Business Platform導入支援の実績を持ち、日本法人も展開。青山グランドホテルでは、導入当初から日本語による丁寧な支援を受けながら運用をスタートさせることができた。また、WhatsApp Business PlatformサービスをAPIではなくCM.comが提供する管理画面「MSC(Mobile Service Cloud)」で利用することにより、宿泊者からの問い合わせに1対1でリアルタイム対応が可能となり、やり取りの履歴管理や社内での情報共有もスムーズに行えるようになった。加えて、訪日後のアンケート送信やプロモーションにも活用できる「MMC(Mobile Marketing Cloud)」といったマーケティング機能も備えており、単なる問い合わせ対応にとどまらない顧客体験の向上を実現している。
導入初期から丁寧な日本語ガイドが提供され、社内研修や実際の運用を安心してスタートすることができるので、青山グランドホテルの担当者はCM.comとの協業について「日本語でのリアルタイムな問い合わせが可能な点は導入を積極的に検討する上でも非常に大きな要素。運用中に発生したさまざまな場面でも、迅速かつ信頼できるサポートを受けられたことが非常に助かった」と語る。
WhatsAppで実現するリアルタイム対応がゲストの不安を軽減
では、実際に青山グランドホテルは「WhatsApp Business Platform」をどのように活用しているのだろうか。
同ホテルはチェックイン時に訪日外国人には「WhatsApp」の企業アカウントのQRコードを読み取ってもらい、滞在中にリアルタイムでやり取りできる専用チャネルとして活用。主に滞在中のリクエスト対応やコンシェルジュサービスなど、多様なコミュニケーションに利用している。
具体的には、レストラン予約、清掃時間の指定、客室内の備品リクエストなどが多い。たとえば、滞在中に貴重品の忘れ物が見つかっても、以前はゲストがチェックアウト後、電話をかけてもつながらないケースがあった。しかし、WhatsAppを活用することで、迅速な連絡が可能となり、確実に届けられるようになった。また、延泊希望のリクエストも従来の電話での問い合わせを受けて、空室状況や料金の案内をする際、電話をかけ直すなど時間を要していたが、WhatsAppであればチャット形式で迅速に対応でき、やり取りの効率化と時間短縮につながっている。
「WhatsAppを通じた問い合わせの多くは日中だが、深夜でもチャット形式で声を出さずにやり取りできるため、小さなお子さまや同伴者の就寝時も気兼ねなく連絡してもらえる点がお客さまにとって便利であると感じている。わざわざ電話する必要がない点も顧客に過剰なストレスを与えていないのではないか」(青山グランドホテル担当者)

▲旅行者とリアルタイムでやりとり
連絡手段から信頼を築くツールへ、WhatsAppの可能性
2024年7月に導入を開始してから約1年。青山グランドホテルの担当者は、「外国人観光客にとって普段から使い慣れているアプリでコミュニケーションできるため、心理的なハードルが低いようだ。また、時間帯に関係なくホテルとやり取りできるため、安心できたという声を多くいただいている」と話す。
もっとも、顧客満足度の向上を最大の目的として導入したことから、社内での運用においては課題もある。現場スタッフは従来からのメールや電話対応だけでなく、「WhatsApp Business platform」での対応も加わったことから短期的に業務量が増加した側面もあるからだ。当初はチャットへの対応が遅れるケースも想定していたが、CM.comサポートの迅速な対応により、WhatsApp企業アカウントへのメッセージ受信通知を、社内全員が確認できるメールアドレスに統一した。これにより、宿泊客からの連絡にすぐに気づき、迅速に対応することが可能になった。また、英語がそれほど得意ではないスタッフにとっては、非対面でやり取りできるため、より正確でスムーズな対応ができるようになった。
訪日客にも自宅のように安心して過ごしてもらえるよう、滞在全体にわたるパーソナルなコミュニケーションとサービスの強化を目指す青山グランドホテル。担当者は「『WhatsApp』を基盤としたリアルタイムのケアを通じて、お客様の満足とスタッフの運用効率が両立できるような体制へと進化させていきたい。そして、より幅広くお客様のご滞在のお手伝いができれば嬉しい」と力を込める。今後は多言語での観光案内など、さらなるサービス強化も視野に入れているという。その言葉からは、「WhatsApp Business Platform」が単なる連絡手段ではなく、訪日客との信頼関係を築き、日本滞在をより楽しんでもらいインバウンド市場の価値を高めるツールとして機能していることがうかがえる。
青山グランドホテル:https://aoyamagrand.com/
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